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「管理不全の『廃墟マンション』を防げ」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

今回はマンションの管理不全についてです。
維持や管理が適切に行われないマンションを「管理不全」と言います。老朽化と入居者の高齢化で今後、増えることが懸念され、自治体も対策に乗り出しています。

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【管理不全でマンションが廃墟に?】
Q:私もマンションに住んでいますが「管理不全」で廃墟になるというのはどういうことなんですか。

A:もしも、マンションで必要な修理や維持管理ができないまま、長期間放置されていれば、雑草が生い茂ってごみが放置されたり、外壁が落下したりして、周囲にも悪影響を与えてしまいます。この状態がさらに長く続けば、最後は廃墟になってしまう恐れがあります。

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滋賀県野洲市に長年放置されている分譲マンションは築47年。管理組合もなく10年程前からすべて空き部屋だったということです。市によると連絡が取れない所有者もいるそうです。加えて、去年の大阪北部地震と台風で壁が崩落しました。
危険なため市は今年、行政が代わりに建物を解体する「行政代執行」を視野に入れた手続きを進めています。国土交通省によるとマンションを対象にした行政代執行は、全国的にも聞いたことがないということです。
市によると、このまま手続きがすすめば、11月ころには解体する作業に入るということです。

【原因1:所有者不明部屋の増加】
Q:マンションが管理不全になる原因は何ですか。

A:一般的な理由は2つあると思います。1つは所有者と連絡の取れない「空き部屋」の発生です。特に持ち主が高齢で亡くなり、相続が行われないまま長期間放置され、やがてすぐには誰のものか分からなくなるというケースです。

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Q:それは、この番組でも以前取り上げた「所有者不明不動産」の問題と同じですね。

A:「所有者不明不動産の問題はマンションの方が将来もっと深刻になる」という指摘もあるほどです。というのは放置されたままだと、悪臭や、水漏れなどの恐れもあって、隣に直接迷惑がかかります。しかし、マンションの部屋だと簡単に中に入ることはできません。

Q:集合住宅なので周りに与える影響は大きいですね。

A:しかも修繕積立金や管理費を払う人がいないため、滞納されていきます。空き部屋が増えればやがて修理費用も不足しますし、解体や建て替えの際に必要な所有者の「同意」を得ることもできなくなり、最後は壊すことすら難しくなってしまいます。

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【原因2:管理組合が機能せず】
Q:先ほどのマンションには管理組合もなかったんですよね。

A:もう1つの課題がその管理組合です。東京都が2011年度に行った調査では、都内のマンションで管理組合が「ない」と答えたのは6、5%でした。

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Q:そんなにあるんですか。古いマンションが多いんでしょうか。

A:築年数が経っていても管理組合がしっかりしていて、計画的に修繕や管理を行っているマンションもたくさんあります。また、管理組合がなくても、自主管理で適切に運営されているマンションもあります。
ただ、管理組合が事実上存在しない、あるいは様々な事情で機能していない。その結果、管理不全に陥っているところも少なくないとみられます。

Q:組合の役員のなり手がいない、という問題もありますね。

A:しかし、なり手がいないまま放置しておくと、機能しなくなり、やはり管理不全に陥る恐れが出てきます。
この管理組合と所有者不明という2つの課題は、密接につながっていると思います。▼所有者不明の空き部屋が発生する。▼放置していると悪臭や水道のトラブルが発生する。▼しかし管理組合が機能せず対応できない。▼そうなると、出ていく人がさらに増える。▼その空き部屋がまた環境を悪化させる、というスパイラルです。▼最後には“廃墟マンション”になってしまうわけですね。

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【どう防ぐ?専門家は】
Q:どうしたらいいんでしょうか。

A:こうしたケースで多くの相談に対応しているマンション管理士の土屋輝之さんに聞きました。土屋さんはマンションの管理不全は、今後急増する恐れがあり、決して私たちに無関係ではないと話しています。そして対策としては「まず所有者不明の空き部屋を発生させない」こと、それから、管理組合が機能しない場合は「再度立ち上げて今後の計画を立てること」を勧めています。

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Q:では、「所有者不明の空き部屋を作らない」ためにはどうしましょう。

A:まずは居住者の名簿を管理組合が定期的に作成することだそうです。特に近くに住んでいる親族など、本人以外の緊急連絡先も名簿に加えておくことを勧めています。そうすれば、空き部屋ができても対応を促すことができます。
さらに「名簿はプリントアウトして持っておくように」と呼びかけています。災害時には停電で取り出せなくなるためです。例えば大規模な地震が発生した時に、部屋に取り残されている人がいないかを把握するためにも、作った名簿は紙で持っておくことが大切です。

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Q:「管理組合」の課題にはどう取り組みますか。

A:土屋さんによると、組合を再度立ち上げた場合、今後10年から15年間の間に必要な修理費用を計算し、不足した修繕積立金を貯めていくように勧めているということでした。ただ、これも対策が遅れて積立金がそもそもほとんどない、あるいは空き部屋だらけでお金が集まらない、となれば、対策をとることも難しくなります。
そのためにも、管理不全の問題は「未然に防ぐ」ことが大切だということです。

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【マンション管理の条例も】
Q:行政の対策はどうなっているんですか。

A:東京都が3月にマンション管理の条例を作りました。古い分譲型のマンションすべてに対し、来年4月に管理状況の届け出を義務付けることになりました。対象は1万4000棟に上ります。届け出の結果問題があれば指導や助言を行います。

Q:廃墟のようなマンションが増えれば治安も心配です。もっと強い対応はとれないのでしょうか。

A:個人の財産でもあるため、強制的な措置はなかなか難しい側面もあるようです。東京都は問題の背景として、建物の老朽化と住む人の高齢化という「2つの老い」の問題があるとみています。そのためこの条例は、できるだけ早く管理組合を作って住民が速やかに適正な管理をできるよう「促す」という狙いになっています。
さきほど紹介した土屋さんも「マンションの管理不全も病気と同じ」で「早期発見・早期治療が一番」と話しています。

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【抜本的な対策を急げ】
Q:ただ空き部屋が増えて管理が難しい状態が長期化すると、居住者の努力だけでは解決できませんね。

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A:そうですね。所有者不明土地の問題が注目され、対策が進められています。マンションも同じ課題があるだけに今後は法律を整備して、抜本的な対策をとることが必要になると思います。建物の老朽化と入居者の高齢化という「2つの老い」が進めば、管理不全は一層深刻になると言われるだけに、対策を急ぐ必要があります。

(清永 聡 解説委員)


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