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「縄文人ってどんなヒト?」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

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今月、国立科学博物館の神澤秀明さんらのグループが縄文人の全ゲノムを解読したと発表しました。人間のゲノム、つまり遺伝情報は二重らせんのDNAにA・T・G・Cという言わば4種類の文字で30億文字以上も書かれています。研究グループは北海道礼文島の船泊遺跡で発掘されたおよそ3千8百年前の縄文人女性のDNA配列を全て明らかにしたということです。研究の詳細はちょうど今日、ネット上で論文が公開されました。
 近年こうした分野は日進月歩で、2010年にはヨーロッパの研究者たちがネアンデルタール人のゲノムを解読して脚光を浴びましたが、アジアの古代人で、全ゲノムの完全解読に成功したのは初めてだと言います。
 これが可能になったのは解読装置の技術の進歩が大きな理由ですが、加えて保存状態のよいサンプルが得られたこともあります。DNAは温度が高いと分解しやすい性質がありますが、船泊遺跡は全国の縄文遺跡の中でも一番北の方にありますから気温が低く、ひとりの女性の奥歯の中にDNAがまるごと残っていたそうです。

◆全ゲノムを解読できたことでどんなことがわかった?
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 ゲノムの解読からわかることは様々ですが、まず体の特徴や体質が詳しくわかってきました。まず、肌の色は濃く、シミができやすい。髪の毛は細く巻き毛だった可能性があり、目の虹彩の色は茶色だと推定されました。耳あかは湿っぽい人とカサカサの人がいますが、この女性は湿っぽい方でした。さらにお酒に強い体質。当時ウイスキーのような蒸留酒はまだなかったようですが、果物を発酵させたようなお酒はあった可能性が指摘されています。また、脂肪分が多い食べものを代謝するのに有利な遺伝子の変異というのを持っていたこともわかりました。この遺伝子は現代では北極圏に住む人たちに多く、当時の礼文島で脂肪の多いトドやアシカなどを食べる狩猟生活に適応していたからではないかと見られます。

◆体の特徴以外にわかることは?
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 現代の各国の人たちと縄文人が遺伝的にどれぐらい近いか遠いかといったこともわかってきました。こちらはピンク色が遺伝的に近く、青や黒は遠いことを表します。縄文人と一番近いのは現代の日本人ですが、他で比較的近いのはどういうわけか極東ロシアや台湾の少数民族の人たちで、中国など大陸の多くの人たちとはかなり違いが大きいとわかってきました。遺伝的な違いが大きいというのは、とても古い時代に縄文人の祖先に当たる人たちが大陸の人たちとわかれて日本列島に渡ってきたと考えられるそうです。

◆古い時代に日本列島に来たとは?
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 そもそも私たち現生人類はおよそ20万年前にアフリカで誕生しました。そして、その後アフリカを出て西はヨーロッパへ、東に向かった人たちはアジアやさらにオセアニアなど各地へと分かれて広がっていきました。この各地の人々が共通の祖先からどんな順番で別れてきたか示すのが、こちらの「人類の系統樹」と呼ばれるものです。
 神澤さんたちの研究では、人類がアフリカからヨーロッパ、オセアニアと分岐して、その次に古い時代に分かれたのが縄文人の祖先だったとしています。この分かれた時期は、今回の研究で3万8千年前から1万8千年前の間と推定されました。
 このように縄文人の祖先が別れた後で、アジアではさらに地域ごとに分かれていき、一部はさらにベーリング海を渡ってアメリカ大陸に向かった、つまりアメリカ先住民になったというわけです。

◆「日本人」が「縄文人」とは別の所に書かれているが、縄文人はご先祖ではないの?
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 この「日本人」というのは現代の日本人のことですが、本当はここにもう一本、こんな矢印が入っています。現代の日本人は全体としてみると大陸の人たちに近いけれど、そのDNAの10%は縄文人から受け継いだものだという意味になります。
 縄文時代の末以降、日本列島には再び大陸から大勢の人が渡ってきました。これが渡来系弥生人です。そしてこの人たちと以前から日本列島にいた縄文人が交流して、両者の遺伝子を受けついだ子孫ができ、現代の日本人になったと考えられます。その割合としては、縄文人由来のDNAが10%ですから、渡来系弥生人の影響の方が大きかったということになります。

◆縄文人の影響は意外に少ない?
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 ただし、この10%は東京の人で調べたもので、沖縄の人たちだと縄文人由来と共通のDNAが約3割、アイヌの人たちだと約7割もあるとわかっています。これは今回の「縄文人」が北海道礼文島の人だからという影響も考えられますが、神澤さんたちは以前、福島県の縄文人でもゲノムの一部を解読しており、その時も今回に近い数字が出ています。今後他の地域の古代人でもDNAが得られれば、さらに正確にわかってくるかもしれません。
 このように私たちのルーツを解き明かすことを目指して、現在、「ヤポネシアゲノム研究プロジェクト」が進んでいます。国立遺伝学研究所など全国の大学・研究機関が共同して、ゲノム解読から考古学・言語学まで含め、日本列島に住む人たちの起源や成り立ちに迫ろうとしているのです。古代の人たちについてはまだまだわかっていないことがたくさんあります。私たちはどこから来たのか?私たちは何者なのか?今後も驚くような発見があるかもしれません。

(土屋 敏之 解説委員)

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