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「どう守る城の石垣 アンケートから見えるもの」(くらし☆解説)

高橋 俊雄  解説委員

日本の城の大きな魅力の1つに、精巧に積み上げられた石垣があります。ところが3年前の熊本地震では熊本城、そして去年の大雨では香川県の丸亀城の石垣が、それぞれ大きな被害を受けました。そこでNHKは、各地の城の石垣の保全はどうなっているのか、アンケートを実施。どんな課題が見えてきたのでしょうか。

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【半数以上の城が「修復必要」】
アンケートは、全国の「日本100名城」と「続日本100名城」を対象に行いました。石垣のない城などを除く169の城について、ことし3月、管理している自治体などにアンケート用紙を送り、このうち73パーセントにあたる124の団体から有効な回答を得ました。

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この中で、「現在、修復を要する被害や劣化は見られますか」という問いに対して、「見られる」と答えたのは、57%にあたる「71」。半数以上の城に、何らかの修復が必要な石垣があることが分かりました。
その原因についても聞きました。
最も多かったのは「経年劣化」で60。次いで「植物の繁茂」、「大雨や洪水」となっています。
この3つに○をつけた和歌山城では、「経年劣化」としては、石が抜け落ちたり剥離したりしているところがあるほか、樹木の根が土の中に張り出し、石を押している場所が見つかっています。さらには大雨。去年7月、西日本豪雨の影響で、幅10メートルにわたって崩れました。
「地震」は、原因としては4番目でしたが、いったん起きれば大きな被害を引き起こします。今回のアンケートでは、神奈川県の小田原城は大正12年の関東大震災、鳥取城は昭和18年の鳥取地震で崩れたままの場所があると、それぞれ回答しています。

【時間がかかる修復作業】
石垣が実際に崩れてしまったり、崩落の危険が高まったりした場合は、石垣を積み直すことになります。しかし、修復には城の石垣ならではの難しさがあります。
福島県白河市の小峰城は、東日本大震災で震度6強の揺れに襲われ、その後の余震と合わせると、7000もの石が崩れ落ちました。位置がずれた石もあり、およそ1万2000の石を積み直していきました。
文化財としての価値を守るために、石は原則として元通りに積み上げる必要があり、なくなったり壊れたりした石は、同じ材質のもので忠実に再現することが求められます。
白河市は市民などに写真の提供を呼びかけ、崩落した石を写真と照らし合わせながら、石が元にあった場所を特定していったということです。
修復が終わったのはことし3月、被災から8年後のことです。

【現代工法は熟慮のうえで】
一方、今の工法で補強することも、簡単なことではありません。まず、文化財は工法も含めて後世に伝えていくというのが、基本的な考え方です。人の安全の確保も当然大事なので、必要に応じて今の工法を取り入れることもありますが、その判断が非常に難しいのです。

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例えば小峰城の場合、昭和50年代に大雨で石垣が崩れた後の修復で、石垣の裏側の下半分をコンクリートで固めた場所がありますが、東日本大震災では、ここが前に倒れる格好になり、大きな被害に至りました。板状に固められたことで地震の揺れが分散しなかったことなどが、崩れた可能性として考えられるということです。
結局、今回は、伝統的な工法に戻して修復を行いました。

各地の石垣の修復に携わってきた石川県金沢城調査研究所の北垣聰一郎名誉所長は、修復の難しさについて次のように指摘します。

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▽地震や豪雨が石垣にどんな影響を及ぼすのかは、未知の世界だ。
▽現代工法との使い分けはしっかり議論していく必要がある。
▽自治体が個別に行うのではなく、総合的、学際的な体制を速やかに作る必要がある。

【日常管理はできているか】
修復が簡単ではないとなると、大切なのは、崩落につながる前兆を把握するための日頃の管理です。アンケートでは、安全管理の有無についても聞きました。

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現在、日常的な観察や管理を行っていますかと尋ねたところ、行っているは「114」と、9割を超えました。すくなくとも、何からの管理をしているところがほとんどです。
そこで「行っている」と答えたところに、具体的に何を行っているか複数回答で聞いたところ、「目視による観察」が87、「清掃や樹木の伐採、排水管理」が79、「危険箇所への立ち入り制限」が53などとなりました。
石垣の現状を詳細に把握するための「石垣カルテ」の作成は、4番目でした。この石垣カルテ、修復の優先順位を決めるのに役立つうえ、万が一崩れた場合、修復の基礎資料になります。

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三重県松阪市の松坂城では、市がすべての石垣について状態を調べて表を作成。損傷の度合いを5段階で評価し、色分けして1枚の図面にまとめています。
5番目は「機器を使った定期的な観察」でした。レーザーを使った測定などが該当し、人の目では気付かない、わずかな変化がないかどうかを調べます。ただ、こうした機器は費用がかかることもあり、24にとどまっています。
もっと簡便な方法を用いているところもあります。

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高松城で石垣の間に挟まれているのは、ガラスの棒です。もし石垣が動けばガラスが割れ、危険を事前に察知することができるのです。このガラス棒によるチェックをもとにした修復は、これまでに2回、行われているということです。
このように各地でさまざまな工夫による管理が行われていますが、大切なのは頻度や実効性です。

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アンケートで日常的な管理を「行っている」と答えたところに、これについて尋ねたところ、「おおむねできている」が77と多数を占める一方で、「あまりできていない」は32と、3割近くに及び、「十分にできている」は5か所にとどまりました。

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さらに自由記述を見てみますと、「定期的な点検や修復には多大な経費が見込まれ、財源の捻出が大きな課題」「これまで修復を行ってきた石工が高齢化し、地元に後継者がいない」「市民に親しまれている桜の木の保護との兼ね合いが難しい」など、各地の城が抱えるさまざまな課題が浮かび上がってきました。

【情報公開を第一歩に】
今回のアンケートから見えてきた石垣保全の難しさは、次の3点にまとめられると思います。

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▽文化財としての保全と、人の安全の確保を両立させる必要がある
▽石垣の状況は城ごとに異なり、安全か危険かを把握するのが難しい
▽管理や修復には時間や予算、専門的な知識や技術が求められる

これらを一挙に解決する処方せんはありませんが、管理する自治体などにとって大切なのは、こうした難しさを含めた実情を、積極的に発信することだと思います。
城の歴史や見所をアピールしているところは多いですが、それだけではなく、石垣がどうなっているのかについても情報を公開していく。そうすることによって、市民や観光客に石垣への関心を持ってもらうことが、状況を改善していく第一歩になるのではないでしょうか。

(高橋 俊雄 解説委員)

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