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「どう考える? AIで判断する『信用力』」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

きょうは、AI=人工知能で信用力を判断する新しい動きについて。担当は、今井解説委員です。

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【まず、この信用力とは何ですか】
きょう取り上げる「信用力」というのは、借金をした場合、その人が、おカネを返す力を持っているかどうか。という意味の信用力です。
今、個人がおカネを借りたり、クレジットで分割払いをしたりする際(クレジットも後払いですから、要するに借金です)、消費者金融、あるいは、クレジット会社は、多重債務を防ぐための規制に従って、年収を確認することに加え、他にどのくらいの債務があるかといった情報から、その人の信用力を審査して、貸せる額や金利の水準を判断しています。

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それが、最近、AIが独自に様々なデータを分析して信用力を審査する新しいサービスがでてきて、それをどこまで信頼していいのか。信頼してこの規制を緩和していいのか。ということが国の審議会で議論になっているのです。

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【新しく登場しているサービス。どのようなものですか?】
消費者金融とクレジット。2つの分野で始まっている新しいサービスを1つずつ紹介したいと思います。
まず、おカネを貸す分野。J.Scoreという会社が提供しています。
本人の自己申告で、スマホなどから、
▼ 年齢や住んでいる地域といった情報に加えて、
▼ 提携している銀行の口座情報
▼ スマホの歩数計や目覚まし時計の情報
▼ 提携しているネットショッピングの取り引き情報などを提供すると、

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AIが信用力を審査して、1000点満点で点数が示されます。それが、その人の信用力ですね。そして点数に応じて、適用される金利と借りられる限度額が表示されます。

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【情報を吸い取られる心配がありますが、全部提供しないといけないのですか?】
どの情報を提供するかは任意ですが、たくさん提供するほど、点数は上がりやすくなる。つまり、金利が低くなり、借りられる額も増える可能性があるのです。その上で、いざ必要となった時に、別の手続きが必要になりますが、正直に申告していれば、原則、その利率でおカネを借りられるという仕組みです。

【歩数計や目覚まし時計は、信用力どう関係があるのですか?】
たくさん歩いたり、早寝早起きをしたりと、自分を向上させようという取り組みが見られる人ほど、将来の成長が期待できると判断され、信用力があがるというのです。今は収入が低いけれど、将来のために語学や資格の勉強をしたいという人がおカネを借りることができる。そういう新しいニーズを掘り起こしているとしています。

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次に、クレジットの分野では、例えば、フリーマーケットのアプリを提供しているメルカリの子会社「メルペイ」が、先月から始めた新しい後払いのサービスがあります。

【後払いですか?】
はい。フリーマーケットで商品を買ったり、提携しているコンビニや外食などでスマートフォンで決済したりする際に、代金をメルペイ側がいったん立替え、利用者側は、翌月末までに、コンビニ払いや口座引き落としで、まとめて払えばいいという後払いのサービスです。手数料は定額で決まっていますが、一か月あたり、いくらまで後払いできるかが、メルカリのフリーマーケットの取り引き履歴で決まります。

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具体的には、
▼ 取引額のほか、
▼ 商品を売った後、すぐに発送しているか。丁寧に梱包しているか。
▼ 商品を買った後、代金を支払うまで何日かかっているか。
などの情報から、AIがひとりひとりの「信用力」を審査し、最大5万円までの範囲で決めているのです。

【すぐに発送したり、丁寧に梱包したりしている人は、高い信用力があるということですか?】
そうですね。まじめな性格で、おカネを返してくれる可能性が高いと判断されます。クレジットカードを持っていないけれど、いちいち決済するのは面倒。後からまとめて決済したいという人のニーズに応えることができるというのです。

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このようにAIが信用力を分析する新しいサービスを始めよう、いろいろな形でサービスを広げようという動きが次々出ているのですが、そういった中、そもそも「AIが判断する信用力」をどこまで信頼していいのかをめぐって、今、議論が起きています。

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【どのような議論ですか?】
今、焦点になっているのはクレジットの分割払いやボーナス払いの分野で、信用情報機関の利用をめぐる規制です。

【信用情報機関ですか?】
難しい名前ですが、クレジット契約をしている利用者の債務残高や、支払いの履歴などが登録されている機関です。クレジット契約は、手元におカネがなくても買い物ができるので、便利な面はあります。が、買いすぎて返済に行き詰まり、多重債務に陥る人が相次いだことから、2008年に、規制が強化され、クレジット会社は、利用者の支払い能力をきちんと調査するために、国が指定している信用情報機関を利用することが義務付けられました。具体的には、契約を結ぶ際に、利用者が、他の会社から全体でいくらの債務を背負っているのか、照会すること。その上で、後払いを認めたら、返済状況や残りの額を少なくとも毎月、登録することも義務付けられています。つまり、この信用情報機関を利用することで、全体の債務状況からきちんと支払い能力を審査することができることから、多重債務を防ぐための大事な規制とされてきました。

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ところが、新しいサービスを手掛ける事業者の側から、規制緩和を求める意見がでて、経済産業省の審議会で検討が行われているのです。

【なぜ、緩和してほしいというのですか?】
「AIを活用して、独自に集めた様々な情報を分析する方が、利用者の支払い能力を精緻に判断することができる。手数料を払ってまで、信用情報機関を利用する必要はない。新しいサービスを広げていくには規制が負担になる。」だから、照会や登録の義務をはずしてほしいというのです。

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これに対して、日弁連や消費者団体からは、
「AIを活用していると事業者が言っているだけでは、どういうデータをどう分析しているのかわからないので信頼できない。自分もAIを活用しているという悪質事業者が後払いで商品を売りつけ、多重債務に苦しむ人が増えることになるのではないか。少なくとも、他社でどれだけ借りているのか、信用情報を照会する義務は残すべきだ」として、反対しているのです。

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【どう考えたらいいのでしょうか?】
新しい技術の可能性を、否定することはできないとは思います。
ただ、各社がAIやデータをどう活用するのかは、私たちからみるとまさにブラックボックスで、事業者によって、信頼性にばらつきがでる心配はあります。それだけに慎重な検討が必要だと思います。その上で、もし、一部でも規制を緩和するというのなら、信頼できるデータをきちんと分析しているか。結果的に、延滞率が増えたり、返済に無理をする人が増えたりしていないか。事前と事後にチェックをして、個別に緩和を認める仕組みが必要だと思います。今回は、クレジットの分野の話ですが、今後、消費者金融の分野でも同じような規制緩和を求める動きがでてくる可能性があります。それだけに、何より「後から返済に苦しむ人を増やさない」という観点から、慎重に検討してほしいと思います。

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私たちも、スマホで簡単・便利にサービスを受けられる時代だからこそ、安易に後払いを選んだり、おカネを借りたりして後から困らないか。さらには、そもそも安易に情報を打ち込んでいいのか。慎重に考えていく必要がありそうですね。

(今井 純子 解説委員)

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