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「100作目スタート これまでの『朝ドラ』から見えてくる社会」(くらし☆解説)

後藤 千恵  解説委員

“朝ドラ”の愛称で親しまれている連続テレビ小説は、先週スタートした最新作『なつぞら』で100作目になります。これまでの朝ドラから見えてくる社会について、後藤千恵解説委員です。

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Q)スタジオにあるのは、これまでに放送した朝ドラの全100作品を紹介したパネルです。こうしてみてみると、すごく長い歴史を感じますね。

A)そうですね。こうして毎朝のドラマが60年近く続いているというのは
世界的にも珍しいんです。きょうはこれまでの朝ドラからどんな社会が見えてくるのか、考えていきたいと思います。

一つの指標として、視聴率の推移から見てみます。こちらは、朝ドラ全100作品の世帯視聴率です。

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ごらんのように1960年代からおよそ20年にわたって、平均40%前後という、大変、高い視聴率が続きました。けれども、このあたりから下がり続けて、2010年を境にまた上向き始めています。現在は“テレビ離れ”が進んでいると言われる中で高い視聴率を維持し続けているという状況です。

Q)そもそも、まずこの昭和の時代、なぜ、こんなに視聴率が高かったのでしょうか?

A)当時の社会状況から考えてみたいと思うのですが、まずこの視聴率が突き出ている番組、なんだと思います?

Q)「おしん」、ですか?

A)そうです。1983年(昭和58年)から1年間放送された「おしん」は平均52.6%という歴代最高の視聴率でした。

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1960年代以降の日本はまさに成長の時代でした。所得も増え続け、今日よりもいい明日に向かって同じベクトルで歩んでいく、人々の間に同じような価値観が広がる時代でもありました。そうしたなかで、様々な困難に打ち勝って前向きに生きていく女性の一代記が大変、好まれたんです。制作者の中には、これこそが朝ドラの勝利の方程式だったと話す人もいます。

Q)それが、このあたりから視聴率が下がり始めるんですね。

A)テレビ視聴のあり方が徐々に変わってきたという背景もあるんですが、社会的にみますと、この時期はバブル経済が崩壊し、経済的な格差が広がった時期とも重なります。少子高齢化が進んで、単身世帯が増えるなど家族のありようも変わりました。それに伴って人々の価値観も多様化していきました。そこで朝ドラが描こうとしたのは、“現代”の家族でした。当時の制作者は、「平成の新たな家族像を描こうと新しい路線を次々に打ち出したものの、なかなかフィットせず、模索が続いた」と話しています。

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Q)それがまた、再び、上昇を始めています。

A)転機となったのは、2010年に放送された「ゲゲゲの女房」でした。

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Q)どうして、ここで大きく視聴率が上がったのでしょうか?

A)2010年から、放送の開始が午前8時15分から8時に変わったり、後に続く番組で後うけを始めたり、といった要因もあるんですが、ほかにも要因があります。NHK放送文化研究所、通称「文研」は、朝ドラが好調な背景に何があるのか、プロジェクトチームを作って、調査研究を続けてきました。視聴者への調査を行って様々な角度から分析し、多くの論考を発表しています。

まず、「ゲゲゲの女房」の視聴率を詳しく分析しました。その結果、視聴世帯の数が増えているだけではなく、一週間に番組を見る回数、視聴頻度が高まり、熱心に見続けている人が増えていることがわかったんです。文研の調査チームはこれを「視聴熱」と名付けて高視聴率の要因の一つとみています。

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Q)視聴率、ではなく「視聴熱」‥、面白いですね。「視聴熱」が高まった背景には何があったのでしょうか?

A)調査の結果、色んな背景が見えてきたんですが、そのうち、主な二つをご紹介します。

一つは人々が朝ドラに期待する「明るさ、さわやかさ、やすらぎ、元気をもらえる」といった要素を番組が備えていたこと、つまり、時代にマッチしていたということです。そして、もう一つが「ソーシャルメディアの広がり」です。まず、こちら。どうしてみんながこうした気持ちになれたのか。

「ゲゲゲの女房」以降、「あさが来た」、「とと姉ちゃん」、「ひよっこ」など、
最近の作品に共通しているのは、苦労の絶えない波乱万丈の人生、というよりは、
周りの人たちとの温かいつながりや支え合いの中でヒロインが成長していく物語だということです。

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Q)そうしたつながりや支え合いの大切さに共感する人たちが増えているということでしょうか?

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そう思います。こちらは、NHKが5年ごとに行っている「日本人の意識調査」の結果です。日々の生活の目標について「しっかりと計画をたてて、豊かな生活を築く」という人の率が減り続ける一方で、「身近な人たちと、なごやかな毎日を送る」ことを目標にする人がどんどん増えて、去年の調査では46%と最も多くなっています。こうした人々の意識の変化にフィットする番組が作られていると考えられます。

Q)そして、もう一つ、「ソーシャルメディアの広がり」ということですが?

A)はい。ちょうど2010年頃からツイッターなどソーシャルメディアが広がり始め、「視聴熱」の高まりに拍車をかけました。

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文研が、「あまちゃん」の放送に関するツイッターについて分析したところ、放送期間中、88万人が613万件のツイートをしていました。「あまちゃん」に関するツイートが一日平均3万件、行き交っていたことになります。文研の調査チームは、番組をみて何かを感じた人たちが簡単にその思いを共有できるようになり、共感の輪が広がったことが「視聴熱」の高まりにつながったと分析しています。

Q)先週から始まった100作目の「なつぞら」、私自身も「視聴熱」が高まっていて、戦争孤児となった主人公のなつに感情移入しながら毎日の放送をみています。

朝ドラには今回のように戦争を描いた作品がとても多いんです。研究者の中には、朝ドラは、8月という特別な時期に限らず、戦争に対するメッセージを届けられる貴重なコンテンツだと指摘する人もいます。考えてみれば、毎朝、連続ドラマを60年近くにわたって放送し続けているということ自体、世界的にみれば平和の証であるともいえます。100作目のこの先も朝ドラを毎朝、見続けられる平和な時代が続いてほしいと思います。

(後藤 千恵 解説委員)

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