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「AIで採用選考!?就職戦線異状あり」 (くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

▼最近、至る所でAIが使われているが、採用にAIとはどんな使い方?

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 具体的には、応募者が経歴や志望動機などを記入する「エントリーシート」つまり応募書類の選考にAIを導入している企業が増えているようです。会話機能を持ったAIで面接を行うといったものも登場しています。きょうは、エントリーシートの選考AIについて取り上げます。

▼どれぐらいの企業がこうしたAIを使った選考をしている?

 最近では大手企業の3割がAIの活用を検討予定だとする調査報告もありますが、実際いまどれだけの企業が使っているかは正確にはわかりません。
 例として、就職情報大手のマイナビなどが開発したエントリーシート選考用のAIは、2018年度入社の人の選考で導入した企業は10社程だったのが、今シーズンは80社近くに使われているとのことです。また、IBMのAI「ワトソン」でも採用選考用のシステムが開発されていて、2017年にソフトバンクが導入したと発表しました。ただ、学生側にAIで選考されることへの抵抗感も見られる中で、導入した企業が公表していないケースも多いと見られます。

▼AIはどうやって選考する?

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 代表的なのはこんな仕組みです。まず、その企業に過去に応募した人たちの沢山のエントリーシートと、その学生が人間の人事による選考で合格したかどうかをAIに学習させます。例えば学歴や持っている資格、そして志望動機や興味のあることなど、様々な項目をデータとして学習していくことで、過去に合格した学生に共通性が高いものは高く評価できる特徴と捉えていきます。

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 そして、これをもとに今年の応募者のエントリーシートを評価します。その企業の過去の合格者の特徴と一致率が高ければ、高い点数がつき、過去の合格者とは隔たりが大きい内容だと低い点数になる、といった仕組みです。
 導入した企業によると、AIが高評価したエントリーシートはあらためて人事担当者が読んでも高評価になることが多かったと言います。

▼人柄とか個性みたいなものはどう評価?

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 これは難しい所で色々な考え方がありますが、あるAIでは人物像を「コミュニケーション」「熱意」など幾つかの項目に分けて評価しています。その方法として例えば「熱意」の場合、「バイタリティ」や「やる気」など熱意と関連性が高いと見られる言葉に注目します。これはネット上の膨大な文章データなどから学習して「熱意という言葉が使われる時は、こういう言葉が一緒に出てくることが多い」といった言葉を集めた「辞書」を作って評価するとのことです。
 AIは文章の「意味」を理解しているわけではないので限界もありますが、現時点ではAIは最初の書類選考など応募者を絞り込む段階で使われることが多く、その先の段階で人間による選考を行うのが普通です。

▼他にAIによる選考に課題は?

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 まず、エントリーシートに書いてもらう項目などが変わると、AIは学習し直す必要があるため、その年は使えなくなります。
 懸念される問題もあります。まず、透明性です。AIが高度化していくと、そのAIがなぜAさんを高く評価しBさんは低く評価したのか、その計算の過程が複雑になって人間には理由が説明できなくなってしまわないかという点です。そしてこれと関連しますが、AIが差別や偏見を助長しないかという指摘もあります。以前アメリカのある企業が採用選考AIを開発していたところ、それが女性を低く評価する傾向があるとわかって導入をあきらめた、と報じられました。これは現状、技術職についている人は大半が男性なので、それをデータとして学習したAIは「男性であること」を高評価したのではと見られています。ある意味これはAIの欠点と言うより、学習対象になった人間社会の偏りと言え、データが偏っていれば学習したAIにも偏りが生じるおそれがあり、「AIの判定だから客観的だ」という思い込みは危険かもしれません。

▼それでも企業が採用選考にAIを使おうとするのはなぜ?

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 背景には企業の人事・採用担当の業務が増えていることがあります。昔は履歴書やエントリーシートは紙に手書きするものでしたが、最近は電子化されて企業のホームページから入力するという所が多くなっています。そうすると、一人の学生が沢山の企業に簡単に応募できる反面、企業側から見ると読むべきエントリーシートの数が昔よりずっと多くなっている所もあります。
 しかも、最近は企業が職場を体験してもらうインターンシップや会社説明会などを盛んに行うようになり、そこにも労力がかかります。こうした中、なんとか効率化出来ないか?というニーズがあります。

▼企業の側にはメリットが大きい?

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 2年前にこうしたAIを導入した大手ビール会社では、エントリーシートをまずAIに採点させ、そこで高得点だった人は書類選考通過としました。一方でAIが低評価をしたものは人間が読んで、そこで人間が高評価すればやはり通過、という使い方をしました。これならAIだけで落とされることはありませんし、一方で人間が全部を読む必要はないので、人事担当がエントリーシートを読む作業時間を4割減らせたと言います。その分、説明会など良い人材確保のために時間を割くことが出来るというわけです。
 企業がAIを活用する動きは今後も広がっていきそうですが、そうした中で企業には「AIをどう使うのか」が問われると思います。そしてこうした時代だからこそ、人間による面接などできちんと人物評価する重要性もむしろ一段と増していると言えるのではないでしょうか。

(土屋 敏之 解説委員)

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