NHK 解説委員室

これまでの解説記事

「羽田国際線増便 背景と課題は」(くらし☆解説)

増田 剛  解説委員

来年の東京オリンピック・パラリンピックを前に、首都圏の空の玄関口・羽田空港の国際線の発着便が大幅に増えることになりました。この背景と課題について、政治・外交担当の増田解説委員に聞きます。

k190315_01.jpg

Q1)
増田さん、羽田空港の国際線が大幅に増えるということですが、どれくらい増えるんでしょうか。

k190315_03.jpg

A1)
はい。政府は、羽田空港に新しい飛行ルートを作って、国際線の増便を図る方針で、具体的には、国際線の年間発着枠が、早朝・深夜の時間帯を除いて、今の6万回から9万9千回に増えます。一日あたりの便数も、今の80便から50便程度増え、約130便になります。そして増加する50便のうち、ほぼ半数にあたる24便は、日本とアメリカを結ぶ路線に割り当てられます。残りの26便については、今後、アジアやヨーロッパの各国と交渉を進め、具体的な路線を決めることにしています。
また、増便の時期ですが、政府は、来年夏の東京オリンピック・パラリンピックまでに、新しい飛行ルートの運用を開始し、増便を実現したいとしています。

Q2)
羽田空港の国際線を増やすのは、外国人観光客を日本にたくさん呼び込むためですか。

k190315_05.jpg

A2)
そうです。政府は、日本を訪れる外国人の数を、来年2020年に4千万人に引き上げるという目標を打ち出しています。そして、外国人観光客の受け入れを拡大するためには、羽田空港の国際線の増便が欠かせないとしています。羽田空港は、都心に近いという強みがありますから、国際線の乗り入れが増えれば、外国人にとって、より利用しやすい空港になるとみているんです。
また、政府は、日本の国際競争力を拡大し、今後の成長を支えるためにも、羽田空港の機能強化が重要だとしています。羽田空港の利便性が向上すれば、東京は世界中からヒト・モノ・カネを呼び込める。羽田空港の豊富な国内線と国際線を結ぶことで、世界の成長の果実を地方にも届けることができると説明しています。
政府は、その経済波及効果は、年間6500億円にのぼると試算しています。

Q3)
なんだか、良いことばかりに聞こえますね。

A3)
ただ、これは、あくまで政府の言い分で、もちろん、課題もあります。というのは、羽田空港の国際線の発着枠を増やすためには、東京都心の上空を通る新しい飛行ルートを作らなければならないからです。なぜ、そうなるかを説明しますね。

k190315_06.jpg

k190315_07.jpg

k190315_08.jpg

羽田空港は、4本の滑走路が井桁の形に配置されていて、その時の風向きや気象条件に応じて、様々な方角から出入りできるようになっています。できるだけ多くの航空機が発着できるようにするためです。ただ、到着機が、北側から直線で進入するルートは、都心の上空を通ることもあって、採用していませんでした。

k190315_11.jpg

しかし、国土交通省が、様々な技術的検証を行った結果、夕方の時間帯の旺盛な国際線需要に応え、発着回数を増やすためには、このルートを採用する以外にないという結論に至りました。
このため、政府は、南風の時、午後3時から7時の時間帯に限り、到着機が北側から進入する、この新しいルートを採用する方針を固めたんです。

Q4)
ただ、このルートだと、東京の真上を通ることになりますね。

k190315_12.jpg

A4)
そうなんです。埼玉県から、東京の練馬区や中野区、新宿区や渋谷区、港区や品川区など、人口密集地の上空を縦断します。
ルート沿いの住民の反応は、後で触れますが、このルートを作るにあたって、ある問題が持ち上がりました。新ルートは、この辺りで、数分間ですが、在日アメリカ軍の「横田空域」を通過しなければならないんです。
岩渕さん、この「横田空域」、ご存知ですか。

Q5)
聞いたことはありますが、詳しいことはわかりません。

k190315_14.jpg

A5)
はい。横田空域は、東京西部にある在日アメリカ空軍横田基地を中心に、南北で最長約300キロ、東西で最長約120キロの、1都9県に及ぶ広大な空域です。
高度約2450メートルから約7000メートルまで6段階の高度区分で立体的に設定され、日本の領空ではありますが、アメリカ軍が航空管制を担っています。航空管制というのは、航空機の安全な運航のため、離着陸の順序や飛行ルート、高度などを無線やレーダーで指示し、管理する業務です。日本では、通常、国土交通省の航空管制官が行いますが、在日アメリカ軍の飛行場やその周辺では、特例として、アメリカ軍が行っているんです。

Q6)
それにしても、この横田空域、広すぎませんか。

A6)
そうですね。これだけ広大な空域の管制を外国の軍隊が担う例は、世界的にみても、他にないのではないかといわれています。

k190315_15.jpg

k190315_16.jpg

また、ここは、アメリカ軍が戦闘機の訓練や輸送機の運航などに優先的に使用できる空域で、民間機は、アメリカ軍の許可がなければ通過できません。このため、羽田空港に出入りする民間機は、横田空域を迂回するルートを取っていました。
ただ、今回、新ルートを作るためには、横田空域を一部、通過しなければなりませんので、日本政府は、在日アメリカ軍と交渉を続けていたんです。

k190315_17.jpg

当初、アメリカ軍は、軍用機の運用に支障が出かねないと難色を示していました。ただ、日本側が「新ルートを設定できなければ、オリンピックの運営に支障が出かねない」と理解を求めた結果、ことし1月末になって、アメリカ側も受け入れました。ちなみに、冒頭で、国際線の増加分のうち、ほぼ半数がアメリカ路線に割り当てられたと紹介しましたが、この措置には、横田空域の通過を認めたアメリカへの配慮があるのではないかという指摘もあります。

Q7)
新ルートが上空を通る地域の住民の反応はどうですか。

A7)
一部の住民からは、反対や懸念の声があがっています。
新ルートは、人口密集地の上空をジェット機が降下しながら飛行します。騒音や部品の落下への懸念があるのは当然でしょう。
【VTR】
こちらは、国土交通省がCGを使って作成した、新ルートを飛行する大型機が地上からどれくらいの大きさに見えるかを示した動画です。高度300メートル、品川区の大井町駅の上空を大型機で飛んだ場合は、このようになります。
また、国土交通省は、同じ高度で大型機が飛行した場合の地上で聞こえる音のレベルは、最大で80デシベルと推定され、「騒々しい街頭」と同じ程度だと説明しています。
国土交通省は、去年12月から先月にかけて、関係自治体の住民を対象に説明会を開きました。私も、港区民なので、先月下旬、港区の地域説明会に出席しましたが、ここで渡された資料によりますと、港区では、南風の時、午後3時から7時までの間、住宅地や学校の上空、高度600メートルから450メートルのところを、航空機が徐々に降下しながら飛行します。

Q8)
住宅地や学校の上空を飛行するのは気になりますね。説明会で、政府は、どう説明しているのですか。

k190315_19.jpg

A8)
国土交通省は、▽羽田空港では、騒音が大きい大型機の割合は、現在、4分の1程度で、比較的騒音が小さい中小型機が7割を占めていること、▽付近の教育施設について、防音工事の助成制度を拡充したことなどを説明したほか、▽落下物対策として、220件の対策を定めた、世界でも類を見ない厳しい基準を策定し、国内の航空会社には、1月から、外国の航空会社には、ちょうどきょう3月15日から、対策を義務付けると強調していました。
羽田空港の国際線増便は、外国人観光客の受け入れ拡大、日本の競争力の向上という観点からみれば、歓迎すべきことでしょう。ただ、増便に伴う騒音や安全性を懸念する住民が少なからずいる以上、政府は、こうした懸念を払拭するための実効性のある取り組みを、誠意を持って進める必要があると思います。

(増田 剛 解説委員)


この委員の記事一覧はこちら

増田 剛  解説委員

キーワード

こちらもオススメ!