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「新元号 発表まで1か月 選定の舞台裏は?」(くらし☆解説)

増田 剛  解説委員

今年は皇位継承の年。5月1日に新天皇が即位され、元号を「平成」から新しいものに改める、改元が行われます。
そして、きょうから1か月後の4月1日には、いよいよ新しい元号が発表されます。元号はどのように選ばれるのか。今回は、その舞台裏に迫ります。政治担当の増田解説委員に聞きます。

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Q1)
増田さん、新しい元号が何になるか、私、すごく気になります。

A1)
はい。元号は、私たちにとって身近なものですから、皆さん、本当に関心が高いですね。新しい元号を予想する動きもたくさん出ていて、本当に盛り上がっています。
ひとつ紹介しますと、埼玉県朝霞市のビンテージワインの販売店では、運営しているホームページ上で、新元号予想の投稿を受け付けています。

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店によりますと、きのうの正午までに4321通の応募があり、最も多い予想は、こちら、「安久(あんきゅう)」で、164通です。
次いで、「安永(あんえい)」が130通、「栄安(えいあん)」が68通、以下、このように続きます。

Q2)
「安」の字が入っているものが多いですね。

A2)
そうですね。平成は、災害が多くあった時代ですから、新しい時代には、安全、安心な生活を望む人が多いのかもしれません。
また、元号の選定にあたっては、アルファベットにした時の頭文字が重要な要素となることが広く知られています。つまり、近代の元号、明治のM、大正のT、昭和のS、平成のHと重複するものは選ばれないだろうと、皆さん、わかっているので、マ行、タ行、サ行、ハ行から始まるものは、上位に入っていませんね。それ以外、ア行、カ行、ワ行から始まるもので占められています。

Q3)
皆さん、よく考えていますね。元号を選ぶにあたっては、政府が作った基準もありましたよね。

A3)
はい。政府は、昭和54年の元号法の施行後、「元号制定手続」を閣議報告し、新元号を選ぶ際の基準を明らかにしています。

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▽国民の理想としてふさわしい良い意味を持つ▽漢字2文字▽読みやすい▽書きやすい▽過去に元号やおくり名として使われていない▽俗用されていないとなっています。俗用されていないというのは、会社や大学、土地の名前などに使われていないということです。
また「元号制定手続」では、元号には出典が必要だとしています。単に読みやすく書きやすい漢字をパズルのように組み合わせるのではなく、中国や日本の書物など、何がしかの典拠から引いてくる必要があります。

Q4)
この基準をクリアするものとなると、限られてきますよね。

A4)
そうです。加えて、政府は、先月8日、元号制定手続き検討会議を開き、新元号の選定は、平成改元の際の手続きを踏襲することを決めました。
ということは、平成改元の舞台裏を検証すれば、今回の改元の実態にも迫れるのではないかと考えて、私、先日、この人に話を聞いてきました。的場順三さん。平成改元の実務責任者で、当時の竹下内閣の内政審議室長でした。

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Q5)
この方、具体的には、当時、どんな仕事をしていたんですか。

A5)
はい。政府は新元号を選ぶにあたり、事前に漢学や東洋史などの大家数人に候補名を考案するよう極秘に依頼します。的場さんは、実際にこの極秘の依頼をした人、そして、学者が考案した元号案を決定・発表の当日まで管理していた人です。的場さんによりますと、平成の改元の際は、昭和天皇が崩御した昭和64年1月7日までに、新元号が三つの案に絞り込まれていました。

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中国哲学が専門の宇野精一東京大学名誉教授が考案した「正化」、中国文学が専門の目加田誠九州大学名誉教授が考案した「修文」、東洋史が専門の山本達郎東京大学名誉教授が考案した「平成」。
ただ、的場さんは、当初から「平成」が本命だったといいます。
「僕は山本先生から、これを聞いた時に、決まりだと思いました。
だって、字を見ただけで意味がわかるじゃないですか。平(たいら)になる。平和な世がより平和になる。漢字2文字で、わかりやすくて、俗用されていないことにぴったりじゃないですか」。
このように話しています。当時の竹下総理と小渕官房長官も同じ意見だったそうです。

Q6)
ということは、発表の当日までには、もう「平成」に固まっていたんでしょうか。

A6)
少なくとも竹下さんや小渕さんは、「平成」にしたかったようです。

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当日は、「正化」「修文」「平成」の3つの案を、有識者からなる懇談会にかけ、衆参両院の正副議長からも意見を聞き、全閣僚会議と閣議を経て、「平成」に決定されるという流れでした。的場さんは、一連の会議では、政府側が3つの案を示した上で、「平成にしようと思います」と言って、了承を取り付けたと証言しています。またこの時に、「平成」を推す理由として、「修文」や「正化」は、アルファベットの頭文字がSで、昭和のSと重なり、不都合が起きるという説明もされたそうです。

Q7)
では、この時の経過を今回の改元にあてはめてみると、きょうの時点で、新元号の案が固まっている可能性もあるんですね。

A7)
はい。けさのNHKのニュースでは、候補案は十数個に絞り込まれているという報道がありました。あくまで、前回の経過と同様であればという条件付きですが、すでにかなり絞り込まれている可能性もあります。ただ、現段階ではっきりしないのは、今回、新元号を誰が発表するかです。平成改元では、内閣のスポークスマンということで、小渕さんが発表しましたが、今回、菅官房長官は「まだ決まっていない」としています。安倍総理が発表する可能性もありますね。ちなみに、これに関連して、的場さんが、あるエピソードを明かしてくれました。改元からしばらくして、竹下さんが的場さんに、「小渕ちゃんはこれをやって、平成おじさんになったよな」と話しかけてきたそうなんです。それで「総理にやってもらうべきでしたかね」と聞くと、竹下さんの答えは、「だわな」だったそうです。

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小渕さんが「平成」の額を掲げる姿は、時代の幕開けを象徴する場面として歴史に刻まれています。竹下さんも、その役目を担いたかったのかもしれません。

Q8)
改元には、いろいろなドラマがありますね。

A8)
はい。改元をめぐっては、報道機関でも、熱いドラマが繰り広げられます。政府が極秘に選定を進める新元号は、記者にとっては、大スクープの対象だからです。
例えば、大正の改元について、朝日新聞は、新人記者だった緒方竹虎がいち早く入手し、特ダネで号外速報したとして、今も、会社案内に記しています。緒方竹虎はその後、政界に転身。吉田茂内閣の副総理を務め、保守合同、自民党結党の立役者になるなど、活躍しました。
一方、昭和の改元では、東京日日新聞、今の毎日新聞が「元号は『光文』」とした号外を出しました。これは結果として誤報となり、当時の社長が辞意を表明する事態になっています。

Q9)
元号には、いろいろなエピソードがあるんですね。新元号、ますます気になってきました。増田さん、新元号の手がかり、他には、ありませんか。

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A9)
手がかりといえるかどうかわかりませんが、これまでの247の元号はすべて漢籍、つまり、中国の古典によっているんですね。
例えば、前回の「平成」は、「地(ち)平らかに天(てん)成る」、中国の歴史書の「史記」と「書経」が出典でした。このため、そろそろ国書、つまり、日本書紀とか古事記とか万葉集とか、日本の古典から採用すべきではないかという意見が出ているんです。今回、十数個に絞り込まれている候補案の中には、日本の古典によるものも含まれているということですので、もしかしたら、今回は、初の国書からの採用という可能性もあるかもしれません。

いずれにせよ、元号は、私たちの生きる時代を象徴するもの。
新元号が何になるのか、あと1か月、注目したいと思います。

(増田 剛 解説委員)

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