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「江戸っ子1号と町工場 新たな挑戦」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

きょうは、無人の海底探査機、江戸っ子1号について、今井純子解説委員です。

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【この江戸っ子1号。何年か前にこの番組でも取り上げましたよね】
そうです。東京や千葉の町工場の人たちが中心となって、「下請け体質からの脱却」を掲げて開発した無人の海底探査機です。

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▼ 開発された当時の江戸っ子1号の実物大のイラストです。本体部分が、私の身長とほぼ同じ大きさです。

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▼ 2013年の秋に、深さおよそ7800メートルの深海で魚の撮影に成功し、話題になりました。この実験の結果、簡単な構造で深海を探査できる、「技術と手軽さ」が評価されて、事業化もされました。
▼ それが、今度は、鉱物資源を調査する国のプロジェクトの中で採用され、あすから、新たな挑戦に乗り出すことになりました。

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▼ 新しい江戸っ子1号です。正確には365型といって、あす、6機が、千葉港から出航して、月内に海に投下されることになっています。

【この本体の部分。前と少し形が変わっていますね】
そうです。もともとは1面でしたが、新しい江戸っ子1号は、面が横、下、向こう側と、3面がくっついた形になっています。

▼ 新しい江戸っ子1号のイラストです。このオレンジ色のカバーの中には深海の圧力に耐えられるガラス球が入っていて、そこに様々な機材を入れる構造です。今回、江戸っ子1号は、1年間=365日深海に滞在します。

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【だから、365型という名前なのですね】
そうです。2013年の時は、数日間でしたが、今回は、長旅なので、バッテリーをたくさん入れようことで、面を3つにしてガラス球を増やしたのです。

【今度は、何をするのですか?】
船で、およそ2000キロ離れた南鳥島海域に向かいます。このあたりの海の底の泥の中には、レアアースと呼ばれる希少な金属が豊富にあると考えられています。江戸っ子1号は、事前の段階の基礎的な環境調査として、深さ5000メートル以上の深海の底で写真を撮って、どのような生物が、どのくらいいるのかを調べる大役を担うのです。

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江戸っ子1号の基本的な仕組みは変わっていません。
▼ おもりをつけて海に沈めます。
▼ それぞれのガラス球には、LEDライトやカメラ、通信機器。それに、先ほども触れましたが、バッテリーが20個入っています。
▼ そして、海底についたら、8時間おきに、照明をあて、周辺の状況をカメラで撮影する。それを、一年間続けます。今回は、本体にとりつけたセンサーで、温度や塩分濃度などのデータも観測します。

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▼ そして、一年後。迎えの船がきたら、音波で指示をだして、おもりを切り離します。

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▼ すると、ガラス球の中の空気の浮力で機体が浮き上がり、最後は、GPSを使って位置を確認して、回収する仕組みです。

【おもりで沈んで、浮力で上がる。簡単な構造ですよね】
だから、資金力のない町工場でも開発・製造できましたし、従来の大規模な探査機と比べると、安く手軽に調査に使えるというのが大きな魅力になっています。

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ただ、今回は、深海のものすごい圧力の中、一年間滞在します。このため、江戸っ子1号は、形を変えただけでなく、

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例えば、
▼ 本体のフレーム部分。以前は、金属でしたが、より腐食しにくい樹脂へ。
▼ ガラス球も、何度使っても欠けたりしないよう耐久性を高めたものへと、
様々に進化もしています。

【立派に成長しているのですね】
そうです。一年という長期にわたって、深海の底で、撮影を続ける。それは、江戸っ子1号でしかできないと高く評価されています。だから、国の重要なプロジェクトで採用されたのです。ただ、事業として成功させるという当初の目標からみると、まだ道半ばです。というのも、この江戸っ子1号、これまでに、今回の6機を含めて13機が売れましたが、利益が出る状況にはなっていません。

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でも、その実績は少しずつ海外にも知られ始めています。それだけに、今回は、海外に販路を拡げて、事業として成功させるためにも大きな節目の挑戦と言えます。

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【目標達成のために、大事な挑戦なのですね。一方、江戸っ子1号には、もうひとつ、下請け体質からの脱却という目標もありましたよね】
そうです。冒頭でも触れましたが、もともと、江戸っ子1号は、リーマンショックの直後、円高や不況で、大手の取引先から仕事が切られ苦境に直面していた町工場の人たちが、開発に取り組みました。下請け体質から脱却し、自らが製品を開発したり、提案したりする力を身につけて、新たな市場を開拓しよう。そういう狙いでした。

【その点は、どうなったのでしょうか?】
立ち上げからおよそ10年。地元の信用金庫をはじめ、海洋研究開発機構、大学などと連携して、一から設計・開発、生産、改良と、試行錯誤を続けてきた中で、徐々に成果が形になってきています。

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まず、
▼ こちらの自動車部品メーカー。江戸っ子1号では、切り離し装置などを担当し、今では、しんかい6500の部品をはじめ、海洋分野に販路を広げています。また、自動車部品でも、以前は、設計図を渡されそのとおりに部品をつくるだけでしたが、江戸っ子の経験を経て、設計をしたり、改良の提案をしたりするようになったと言います。

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▼ 次に、江戸っ子1号の事業化の中心となっているガラスメーカー。こちらでは、深海の圧力に耐えられるガラス球に世界から注目が集まり、南極大陸の氷河の中でニュートリノを観測する研究に使われることも決まっています。さらに、部品屋からの脱却をめざして、別の製品について、設計から手がけるための研究・開発に取り組んでいます。

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▼ そして、こちらの金属加工メーカーは、ベンチャー企業などから「こういうものが作りたい」という相談を受け、連携して設計・開発をし、アイディアを製品にする事業に取り組んでいます。すでに、ロボットなどいくつもの製品を世の中に送り出すほどになっています。

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▼ 最後に江戸っ子1号を最初に提案したゴム製造メーカー。今度は地元の別の町工場の人たちと一緒に、浅い湖や海の中の様子を撮影できる、より小型の探査機「ド・ボーン」を開発しました。ケーブルを通じて、リアルタイムで水中の魚の様子が、動画で見れる仕組みで、こちらも事業化をめざす段階にきているそうです。

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【みなさん、設計・開発を手がけるまでになっていて、成果がでていますね】
そうです。渡された設計図どおりつくる下請けだと、いかに技術力があっても、大手から買い叩かれてしまう。それを少量生産のニッチな製品であっても、企画開発から手がけることで、採算性を大幅に上げることができたという声が聞かれます。また、今、多くの中小企業が、人手不足など、厳しい環境にさらされている中で、例えば、こちらの自動車部品メーカーには、江戸っ子1号を一緒に手がけた大学院生が入社しました。このように、優秀な人材がきてくれるようになった。賃金も上げることができている。という効果もでているそうです。

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さらに、みなさん、これまでの経験、ノウハウを、全国の町工場の人たちに伝える役割も担うようになってきています。

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【全国の町工場にとっては、本当に注目の取り組みですね】
そうですね。江戸っ子1号は、厳しい環境にある町工場の人たちに、ひとつの方向性を示すプロジェクトであることは間違いありません。それだけに、江戸っ子1号。あすからの新たな挑戦も、ぜひ、がんばってほしいと思います。

(今井 純子 解説委員)

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