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「すばる望遠鏡の20年 宇宙の過去と未来は?」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

◆海抜4200mのハワイ・マウナケアにあるすばる望遠鏡が観測を開始してからちょうど20年。

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 すばる望遠鏡は日本の国立天文台が建設し、1999年の1月から観測を開始しました。口径8.2mという一枚鏡で天体の光を捉える世界トップクラスの望遠鏡です。なぜわざわざハワイの山の上に作ったかというと、ここは晴天率が高く空気が乾燥している上、雲の上で天候が安定しており、空気が薄い高地なのでその影響も受けにくい、さらに街の灯りからも遠く夜空が暗い、と天体観測に理想的とも言われる条件が揃っているからです。そのためマウナケアには11か国の13もの望遠鏡がある、言わば望遠鏡銀座になっています。

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 富士山より高いので空気は薄くハワイなのに夜は零度ぐらいになる寒さですが、見事な星空を見るとそうしたつらさも忘れます。こちらは先月、国立天文台の現地の研究スタッフが撮影した山頂の夜空です。

◆これまでの観測成果は?

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 すばる望遠鏡は私たちの宇宙観を変えるような数々の発見をしてきました。例えば2003年には128億光年も彼方にある当時最も遠い銀河を発見しました。また「系外惑星」と言って太陽以外の星を回る惑星を直接捉えたり、「ダークマター」と呼ばれる宇宙を満たす謎の物質の分布を調べるのにも活躍しています。そして去年11月には、太陽系で最も遠い地点で天体を発見したと発表がありました。

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(Scott S. Sheppard, David Tholen)

 この斜めに動く小さな点で、太陽系外縁天体2018 VG18、通称ファーアウトと呼ばれています。太陽から地球までの距離を1とすると、ファーアウトはその120倍も遠く冥王星よりも3倍以上遠い所にあります。

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 こちらは観測を元にした想像図ですが、ピンク色っぽい氷の天体で直径500kmぐらい、月の7分の1程度の大きさと考えられています。

◆技術は日進月歩なのに、すばるは20年も経つのに古くならない?

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 近年国からの予算が減っていてメンテナンスにも苦労しているとも言われますが、そうした中でもすばるは新たな観測装置を開発して組み合わせることで進化し続けています。例えば、「超広視野カメラ」や「分光観測器」と呼ばれるものです。

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 超広視野カメラというのは、文字通り広い視野、具体的には満月9個分もの範囲を一度に撮影できるカメラです。普通、高性能の望遠鏡は、遠くの星のかすかな光でも捉えられる一方で一度に見られる範囲は狭いのが一般的です。ところがすばるは超広視野カメラによって広範囲を一気に高画質で撮影できる、この面では世界最高性能と言われます。そのおかげで、どこにあるかわかっていない未知の天体を探すのが得意で、先ほどのファーアウトも発見できたというわけです。

◆「分光観測」とは?

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 分光観測というのは星などが出す光の色をプリズムのような装置で分けて詳しく分析するものです。太陽の光が七色の虹を作るように星の光は沢山の色に分けることができ、しかも一つ一つの星でその特徴が異なります。これを使うと、その星がどんな物質をどれぐらい含んでいるかが詳しくわかります。さらにすばるは、こうした装置を組み合わせることで宇宙の過去から未来まで探ろうとしています。

◆タイムマシンでもないのに過去から未来まで探れる?

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 まず過去ですが、実は遠くを見ることは過去を見ること、です。光は1秒間に30万km進みますが、星はその光でも何年もかかる程遠くにあり、これを「何光年」と表現します。例えば1万光年先の星を見るということは、1万年前にその星が出した光が今地球に届いているということなので、私たちは1万年前の過去の星の姿を見ていることになります。先ほど、すばるは128億光年彼方の銀河を発見したと言いましたが、これは128億年前の宇宙を見たことになります。宇宙は138億年前のビッグバンという大爆発で誕生したとされているので、宇宙ができてかなり初期の様子ということになります。つまり、より遠くの天体を観測できる望遠鏡はそれだけ昔の宇宙を見られることになるわけです。
 そして、未来の宇宙を直接見ることはできませんが、すばる望遠鏡が「未来を探る」というのは、宇宙の未来がどうなるかを調べる、という意味です。宇宙はビッグバンの後もずっと膨張を続けているのですが、その膨張速度の変化を調べれば、将来はどうなるのか?予想出来ると言います。

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◆宇宙が膨張している、というのがそもそも想像できないが?

 確かに実感できませんが、宇宙には私たちがいる銀河系の他にも無数の銀河があって、宇宙全体が膨張しているため、どれも私たちから遠ざかっており、しかも遠くにある銀河ほどその遠ざかり方が速い、ということが観測で確かめられています。風船が膨らむと、描かれている模様どうしの間が広がっていくようなイメージです。

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 そして、詳しい理屈は省きますが、遠ざかるスピードが速いほどその天体の色は赤っぽく見える、という性質があります。ですから分光観測で天体の色を見ると、どれぐらいの速さで遠ざかっているか?がわかります。そしてその「遠ざかる速さ」の変化を調べることで、今後は宇宙はどうなるのか?例えば、どんどん膨張が加速して散り散りになってしまうのか?あるいは、ゆっくり冷えて凍り付いた宇宙になるのか?など、これは何百億年後といった遠い未来の話ですが、色々な説が考えられていて、東京大学などが「SuMIReプロジェクト」として研究を進めています。

◆20年経ったすばる自体の未来はどうなる?
  
 今マウナケアでは、TMTと言う口径30mもある超巨大望遠鏡の建設計画が日本を含む国際共同プロジェクトでスタートしています。その完成後は、すばるの広い視野で天体を見つけてそれをTMTで詳しく観測するといった連携プレーでのさらなる活躍も期待されます。すばる望遠鏡は日本のみならず世界の科学者に利用されて日本の科学のレベルの高さを示してきた存在ですし、これからも宇宙の不思議や美しさへと私たちをいざなって欲しいと思います。

(土屋 敏之 解説委員)

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