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「防災情報レベル化 狙いと課題は」(くらし☆解説)

松本 浩司  解説委員

今年の漢字には「災」の字が選ばれましたが、相次いだ災害を受けて防災情報をわかりやすくするために「レベル化」をすべきだという報告がまとまりました。その狙いと課題について考えます。

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【今年は本当に大きな災害が相次ぎましたね】

大阪湾に過去最大級の高潮をもたらした台風や北海道で初めて震度7を観測した地震、さらに逆走台風や災害級の猛暑などこれまでにない被害が続きました。なかでも7月の西日本豪雨は死者・行方不明者が230人以上と、平成になって最悪の豪雨災害になってしまいました。広い範囲で過去最大の雨量が観測され、土砂災害の発生件数は平均的な年の1年分の2倍以上にのぼりました。

【そうした災害を受けて「防災情報」をレベル化するというのはなぜなのか】
 
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西日本豪雨では気象庁が2日前の段階で警戒を強く呼びかけました。集中豪雨としては異例の早さでした。さまざま防災情報が出され、土砂災害の犠牲者が出た箇所の70パーセントで災害発生前に避難勧告が出ていました。しかし、その情報が住民の避難に十分に結びつきませんでした。総務省消防庁のまとめでは、自治体から最大で860万人に避難勧告などが出されたが、避難所に避難したことが確認された人数は、避難勧告などの対象人数の0.5パーセントでした。

そこで情報を避難行動に結びつけるためにどうしたらよいのか、国の中央防災会議の作業部会が検討し、おととい報告書をまとめました。対策の柱として打ち出されたのが、洪水と土砂災害の防災情報を理解しやすいように5段階に「レベル化」するというものです。

【レベル化の内容は】
 
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警戒レベルの低い方から
▼レベル1は、数日以内に大雨が予想される時
▼レベル2は、注意の呼びかけ
▼レベル3は「避難準備の情報」で、高齢者などは避難を開始する
▼レベル4は「避難勧告」や「避難指示」で、速やかに避難所に移動する、直ちに命を守る行動をとる
▼レベル5は「災害の発生」で、命を守る最善の行動をする

ポイントは川の氾濫でも土砂災害でも、危険地域に住む人全員が避難をするタイミングを「レベル4」に統一する。市町村はレベル4になった地域に「避難勧告」や「避難指示」を出し、住民は避難をする、ということを明確にした点です。

【「レベル5」にはどういう意味があるのか】

作業部会では情報を5段階にするのか、4段階にするのかで議論がありましたが「レベル5」は既に災害が発生したときに出すという位置づけになりました。この情報が出たときには避難を済ませている必要があるのですが、それでも避難できていなかった人は例えば家の2階に避難するなど、少しでも安全性が高まる行動をとるとされています。

【情報が増えてかえってわかりにくくならないか】

そもそもこの議論は防災情報の数が非常に多くなって、住民はもとより、住民に避難を呼びかける市町村などからも「わかりにくい」という声があがったことから始まったものです。

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防災情報は大きな災害を経験するたびに増えてきました。
「大雨・洪水警報」に加えて「指定河川洪水予報」、「記録的短時間大雨情報」、「土砂災害警戒情報」、「洪水警報の危険度分布」、「土砂災害メッシュ情報」、「大雨・洪水特別警報」、それ以外に避難情報として「避難指示(緊急)」「避難勧告」「避難準備・高齢者等避難開始」といった具合です。

観測や解析、予測技術の向上に伴ってさまざまな情報を出せるようになり、災害の危険性は以前にくらべて飛躍的にわかるようになりました。それぞれの情報はとても役に立つのですが、例えば川の洪水に関する情報は4種類もあります。そこで情報をシンプルに、わかりやすくしようというのが作業部会での議論の狙いでした。しかし、この作業部会は時間が限られていて、情報を整理する、減らすということまで議論は踏み込めませんでした。

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土砂災害と川の洪水の情報で、基準は違うが既にレベル分けをして運用されているものがあって、それについて規格、つまり物差しを統一しましょうということで、レベル3で避難準備、レベル4で避難と決めたのです。特別警報をはじめほかの防災情報とレベルとの関係をどう位置づけるのかや色分けをどうするのかなどは今後、議論されることになっています。

【レベル化の意味をどう考えたら良いのか?】

今回の「レベル化」は防災情報をあらためて整理してわかりやすく体系化する「土台」を示した、という意味があると思います。

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防災情報はひとつひとつ意味と役割があって定着もしています。整理するといっても簡単なことではありません。それでも役割が低下した情報は思い切って統合したり、減らしたりすることはできないか。情報の名称をもっとシンプルにできないか、住民向けの情報と行政向けの情報をわける必要はないか、検討すべき課題は多くあります。今回の「レベル化」をいわばスタート台として、シンプルでわかりやすい防災情報のあり方を正面から議論していく必要があると思います。

【情報を避難につなげるために、ほかにどのような取組みが必要なのか?】

中央防災会議の作業部会の報告には、情報のレベル化だけでなく防災教育のあり方や地域の防災力強化などさまざまな提言が盛り込まれています。その中で、これまでの同種の報告書と大きく違うのが、住民に対する訴えです。

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▼「行政は万能ではなく、ひとりひとりを助けに行くことはできません。」
▼皆さんの命は皆さん自身で守ってください」
▼「行政も全力で皆さんや地域をサポートします」と呼びかけています。

行政の責任放棄のように聞こえるかも知れませんが、西日本豪雨をはじめ多くの災害現場を調査してきた専門家たちからのメッセージです。一部に的外れな行政批判も見られるメディアの報道姿勢を含め、住民側が過度な行政依存になっているのではないか。いわば「災害過保護」になって「自分の命を自分で守る」という意識が低下しているのではないか、という危機感からこうした呼びかけになりました。

今年相次いだ災害は、特に気象災害の激甚化がはっきり現われたものと言えます。もちろん防災情報の出し方、伝え方をはじめ行政側が取り組まなければならない課題はたくさんあります。一方、住民の側もメディアも気象災害のフェーズが一段あがったということを前提に、災害に向き合っていくことを求められているのだと思います。

(松本 浩司 解説委員)

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