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「知っていますか『死後事務委任』」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

亡くなった後の必要な手続きを「死後事務」と言います。今、身寄りがない高齢者などを対象に、この「死後事務」の依頼を生前に受ける事業や、サポートする自治体の取り組みが注目を集めています。

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【死後事務って何?】
Q:死後事務というのは、具体的にはどういう事務でしょうか。
A:文字通り亡くなった後の事務手続きです。似たような制度で「成年後見制度」とか「遺言」もありますが、それぞれ役割は異なります。「後見制度」は、判断力が衰えてその人が亡くなるまでのサポートで、亡くなった時点で契約は終了します。遺言書は死亡後に執行されますが、法的な効力があるのは財産などです。
そこで、例えばお墓のことや関係機関への通知、行政への届け出などを「死後事務」として扱うというものです。これは資格が必要な制度ではありませんが、弁護士や司法書士などが、生前に委任契約を結んで手続きを代わりに行うことも多いそうです。

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Q:残された家族がいれば事務を進めてくれますね。
A:もちろんやってくれる家族や親族がいれば、死後事務を委任する必要はありません。しかし、65歳以上の単身世帯は2040年には男女とも2割を超えると推計されます。いわゆる「お一人さま」あるいは高齢の夫婦で身寄りがない、あるいは遠い親戚には頼むことができない。そういう場合は、あらかじめ委任を検討してもいいのではないでしょうか。
実際にあったケースですが、高齢の夫婦2人で、先に亡くなった夫は自分の墓に入りました。しかし、後に一人暮らしになった妻が亡くなった時には、身寄りがなくどこに墓があるか誰もわかりませんでした。結局妻は自治体が火葬にして、無縁納骨堂に収められたということです。

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Q:希望していてもそれが伝わらず、夫婦別々になるのは、悲しいですね。
A:今、自治体も対応に苦慮しています。現場を取材してきました。

【苦慮する自治体】
神奈川県横須賀市で高齢者などの福祉を担当している北見万幸さんです。北見さんには、忘れられないケースがあります。身寄りがなく70代で亡くなった男性がアパートの部屋に残した書き置きがありました。「15万円を残しているので、これで私を火葬にして無縁仏にしてほしい」などと書かれていました。男性は口座に葬儀費用を残していたんです。
しかし、この紙が部屋で見つかったのは、亡くなった7か月後。預貯金は自治体が引き出すことはできません。結局希望通りにはならなかったそうです。
引き取り手のない遺骨を一時的に保管している部屋を見せてもらいました。かつてこうした遺骨の多くは身元不明でした。ところが、今はこの部屋にある遺骨の9割以上は、身元が分かっているんです。見えないように加工していますが、箱にはそれぞれ名前が書かれています。昨年度は身元が分かったのに引き取られない遺骨はおよそ50人分に上ったということです。
遠く離れた親族しかいないため、引き取りを断られるケースや連絡をしても返事がないケースもあるそうです。

【横須賀市の新たな取り組み『わたしの終活登録』】
Q:ちょっと悲しいですね。
A:そこで北見さんたちが中心になって、横須賀市で今年の春から始めた制度があります。「わたしの終活登録」という制度です。
登録カードに万が一の際にあらかじめ必要なことを記入しておくと、市が保管してくれるというものです。

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中を見ますと、エンディングノートの保管場所とか、臓器提供の意思表示、葬儀や遺品整理などについて書く欄もあります。

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また、登録の際には市の担当者が聞き取りを行って、身寄りがない場合は、第三者に死後事務を委任するよう促したり、空き家が発生しそうなときには、事前に専門家に相談するように勧めたりしているということです。

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この登録カードは普段は厳重に保管して、医療機関や警察、それに生前、本人が登録した連絡先の人にしか内容を伝えないようにしています。
市が直接死後事務を行うのではなく、万が一の時に必要なところに取り次ぐ仕組みです。また、空き家問題などのトラブルを未然に防ぐことにもつながります。

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北見さんは「これは住民の安心と尊厳を守るための取り組みだ」と話していました。亡くなった本人の希望がかなえられないのは、悲しいことです。私もこれは尊厳の問題だと思います。横須賀市の取り組みは全国的にも珍しいものです。今後も各地に広がってほしいと思います。

【死後事務委任はどうやって行う?】
Q:身寄りがなくても自分の葬儀などで希望がある人は多いと思います。
A:人に迷惑をかけたくないと、自分の葬儀費用を残しておく人は多いんだそうです。

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しかし、身寄りがない場合、口座の預金を他人が引き出すことはなかなかできません。タンスなどに現金を置いていても、きちんと自分の希望を残しておかないと、せっかくのお金が国庫に納められることもあるそうです。生前に自分の希望を明確にして委任契約をすることでこうしたケースを防ぐこともできます。

Q:死後事務委任の契約は、どのように進めていけばいいのでしょうか。

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A:まずは、遠い親戚でも引き受けてくれる人がいれば、事前に希望を伝えておくのが一番です。それがいない場合、先ほど述べた弁護士などのほかに税理士、行政書士、NPOや企業、一部の社会福祉法人など様々な団体が今、この死後事務の委任を受けています。自分に合った信頼できる相手を見つけることが必要になります。
日本司法書士会連合会では、身寄りがない場合、遺言書を作るときに、一緒に死後事務委任の契約をすることを勧めているということです。
また、契約書に書き込む内容ですが、葬儀だけでなく、役所への届け出、入院費などの精算、施設に入っている場合は退去の手続き、友人や知人に自分が亡くなったという通知。それに今は、SNSのアカウントの削除などを頼むこともできるということです。

Q:費用はどのようにして支払うのですか。
A:亡くなった後に支払うことはできないので、葬儀費用など実費と報酬を生前にあらかじめ預けておくというケースが一般的だということです。事務手続きの内容や数によっても費用は大きく異なりますが、数十万円から100万円以上が必要になるそうです。
これは葬儀の内容や依頼する手続きの数などによっても異なります。

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日本司法書士会連合会常任理事の伊見真希さんは「亡くなった後の必要な手続きを今から考え、死後事務を任せる信頼できる人を早めに探して相談してほしい。死亡後の法律や制度を学んで正しく理解してほしい」と話しています。

【自分が望む「最期」のために】
今後は、後見制度や遺言などと合わせて、この「死後事務委任」をセットで依頼することもできるのではないかと思います。
亡くなった後の手続きは、これまでは残された家族が行うことが一般的でした。ただ単身世帯が増えていく中で、きちんと希望を伝えておかなければ、自分の望む最期を迎えることができないおそれもある、そういう時代になったということだと思います。

(清永 聡 解説委員)

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