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「廃炉ロボコン 3年目の挑戦」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

▼先週12月15日、福島県楢葉町で「廃炉創造ロボコン」が行われた。

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 このロボコンは今年で3回目。福島第一原発の廃炉に貢献したいと地元・福島高専が全国に呼びかけ、文部科学省などが主催して行われています。実際に廃炉用のロボットを学生が作るわけではありませんが、40年かかるとされる廃炉を支える人材の育成を主な目的に挙げています。今回は事前審査を通過した14の高等専門学校に加え、福島高専と交流があるマレーシア工科大学も特別参加。海外からは初出場です。

▼どんな競技が行われた?

 今年の課題は、言わば「わかさぎ釣り」です。わかさぎ釣りというと氷の穴から糸を垂らして魚を釣り上げますが、福島第一原発で原子炉の下に落ちた燃料デブリの様子を調べるのに、外から配管を通してロボットを投入し足場の隙間からカメラをつり下げて調べる、という方法がとられ、その様子から通称「わかさぎ釣り型」ロボットとも呼ばれたんです。それを今回、ロボコン競技にしました。

 この現場の実物大の模型を、日本原子力研究開発機構が技術開発や教育のために作ったので、今回それをロボコンの競技フィールドとして使いました。

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外にあたる場所がスタート地点。学生はここでロボットを遠隔操作します。ロボットは長さ4m、内径24cmの配管を通って内部に入ります。床に四角い穴があいていて、ここからロボットの一部を下ろします。3.2m下に燃料デブリに見立てたボールが置かれ、このボールを回収して10分以内にスタート地点に戻る、というのが課題です。非常に難度が高い課題であるうえ、NHKのロボコンだとロボットを見ながら操縦できるのに対して、廃炉では「強い放射線を浴びる現場に人は入れない」という設定なので、中は目視できずロボットに付けたカメラの映像だけで操作しなくてはなりません。
 競技前に関係者に聞いたところ、今回はクリア出来るチームはゼロじゃないかと予想していた程です。

▼競技の結果は?

  大会は福島県楢葉町にある廃炉技術の研究拠点、楢葉遠隔技術開発センターで行われました。最初に挑んだのは去年、最優秀賞を獲得した奈良高専です。

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順調にトンネルを抜けて床の穴に子機を下ろし、着地にも成功。しかし、2本の腕でボールを取り込もうとしますが、うまくつかむことが出来ず、残念ながら時間切れでした。続く神戸市立高専も子機を分離し、着地にも成功。ただ、ローラーでボールを取り込もうとしたところ、故障でうまく動きませんでした。
呉高専のロボット名は「Ca salvage(カ・サルベージ)」。

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その名の通り、つり下げた子機に付いているのはまるで「ビニール傘」で、広げた傘を閉じることで一気に沢山のボールを抱え込むことに成功しましたが、子機を引き揚げる機構にトラブルがあって、回収できませんでした。
 苦戦が続き悲観的な空気も漂う中、予想を覆したのが長岡高専でした。メンバーはNHKの高専ロボコンに4年連続参加したというベテラン揃いです。そのロボットは快調にトンネルを抜け、子機を穴から下ろします。

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アームでしっかりテニスボールをキャッチ! すぐに上昇します。再びトンネルを戻ってきた長岡高専のロボット。開始から5分でゴールし、見事クリアしました。
 そして地元の期待を集めた福島高専も、子機の粘着テープでボールをくっつけ回収に成功。

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惜しくも最後のトンネルで時間切れになってしまいましたが、会場から大きな拍手を浴びて笑顔で競技を終えました。

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 最優秀賞にあたる文部科学大臣賞は唯一課題をクリアした長岡高専。呉、福島、一関もボールを捉える所まで行って惜しい内容でした。
 そしてこれらの受賞校以外にも強い印象を残したのが、神戸市立高専です。実は前日のテスト走行でロボット全体が穴から落ちて、大破してしまったんです。

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それを一晩で必死に修理して本番に間に合わせ、もう少しでボールを回収できる所まで善戦しました。あきらめずにベストを尽くす姿勢は素晴らしいものでした。
 廃炉という現実の問題を真剣に考えてロボット作りに挑んだ経験を通して、学生たちが今後、幅広い分野で活躍してくれるようになることを期待しています。

(土屋 敏之 解説委員)


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