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「2020へ 進化する?バリアフリー」(くらし☆解説)

竹内 哲哉  解説委員

障害者や高齢者などが公共交通機関や建築物などを快適に利用できるように定めたバリアフリー新法が施行されてから、あさって(20日)で12年になります。2020年にはオリンピック・パラリンピックが開催されますが、どのくらいバリアフリーは進んでいるのでしょうか?競技場への移動手段として欠かせない、鉄道のバリアフリーについて伝えます。

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【鉄道のバリアフリーは進んでいるか?】
Q.竹内解説委員も車いすで生活されていますが、どんな風に感じていますか?

A.地域格差はありますが、かなり進んできていると思います。

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1日あたりの利用者数が平均3000人以上の鉄道駅のバリアフリーの進捗度ですが、出入り口から乗降口までスロープやエレベーターが設置されている、いわゆるバリアフリーなルートが1つは確保されているという駅は89%。視覚障害者を誘導する点字ブロックが設置されているという駅は94%。障害者用トイレいわゆる多機能トイレがある駅は85%となっています。

Q.かなり高い数字ですね。

A.そうですね。ロンドンやパリといった海外の大都市でさえ、地下鉄の駅にエレベーターがないところもありますから、都市圏特に東京のバリアフリー設備は世界でも先進的だと思います。ただ実際の使い勝手でいうと、出入り口が1つしかないとか、地下鉄で地上行きのエレベーターはあっても、乗り換えエレベーターはないとか、表示をたどっていったら階段しかなかったというように、数字で表されていない、バリアな部分はあります。

【改善点① ホームと車両の間の段差と隙間の解消】
Q.なかでも改善が必要なのは?

A.1つはホームと車両の間の隙間と段差の解消です。多くの車いすユーザーは駅員に頼んでスロープを設置してもらい乗降しています。せっかく、ホームまでは一人で行けても乗車はできないのが現実です。

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Q.はじめから段差や隙間をなくすようにはできないのでしょうか?

A.ホームと車両の段差はできる限り少なく、隙間もできる限り小さいものにすることは省令で定められていますが、隙間をなくすとホームに接触するなどの理由から、完全になくすことはできません。
そこで、ことし10月、国土交通省はこの問題を解決するための検討委員会を立ち上げました。

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路線が相互乗り合いをしていると列車とホームの隙間の幅や段差も変わってきますので、なかなか難しいのですが、たとえば、銀座線上野駅では隙間を埋めるための可動ステップを設けています。大阪市交通局のホームではスロープ上にかさ上げして段差を解消し、隙間を解消するゴムも設置しています。こういった事例を参考にしながら、実際に車いすユーザーとともにどのくらいの隙間や段差なら大丈夫かを検証して方針を決めていきたいとしています。

Q.この隙間と段差の問題。解消されると車いすの方だけではなく、ベビーカーを押す親御さん、あるいは小さなお子さんやお年寄りも安心して乗降できるようになりますよね。

A.その通りです。「バリアフリー」というより、むしろ、誰にでも使いやすい「ユニバーサルデザイン」ということになりますよね。

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【改善点② ホームドアの設置】
Q.ほかには課題がありますか?

A.「ホームドア」の設置です。視覚障害者にとって駅のホームは「欄干のない橋」や「柵のない絶壁」といった形で例えられますが、日本盲人会連合が実施したアンケートによると、視覚障害者の実に4割の人がホーム転落を経験しています。

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Q.どのくらい整備は進んでいるんでしょうか?

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A.国土交通省が優先して整備を行っているのは、転落事故のおよそ半数を占める1日10万人以上が利用する駅です。駅の数は275、そのうち整備されているのは105駅。およそ4割弱です。日本全体だとおよそ9500(9479)の駅があるのですが、整備されているのは725か所、わずか8%に過ぎません。

Q.さきほどのバリアフリーのデータに比べると進んでいませんね、なぜですか?

A.問題は多額のコストです。自治体からの補助金もありますが1駅当たりの工事費は数億円以上かかります。理由はホームドアに加えてドアを支えるホームの補強工事も必要だからです。さらに、設置した後の維持費もかなりの負担になります。

Q.何かいい方法はありませんか?

A.いま検討されているのが「利用者負担」制度の導入です。これは、ホームドアの整備などを含む鉄道のバリアフリー化について、利用者にも一定の負担を求める新しい仕組みです。国土交通省の全国4000人を対象に行った調査では、およそ6割が賛成しています。

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「企業努力すべき」「国がまかなうべき」といった意見もあり、利用者から反発を招く可能性はあります。ですので、値上げ幅も含め慎重にすすめる必要はあります。
ただ、ホームでの列車との接触や転落は障害者や高齢者に限ったことではありません。転落で圧倒的に多いのは酒に酔った人です。体調不良、携帯電話の使用中に転落するケースもあります。利用者負担に同意する人が増えてきているのは、バリアフリー化は社会福祉施策であるという概念から脱却し、だれにも必要なユニバーサルなものとして浸透してきているからではないでしょうか。

【改善点③ こころのバリアフリーの浸透】
Q.バリアフリーをさらに進めるために必要なことは?

A.「心のバリアフリー」です。いろいろな国に遠征にいくパラリンピアンに聞くと、「日本のバリアフリーは進んでいない」という声をよく聞きます。でも、それは物理的、いわゆるハード面ではなくソフト面に関してなんです。
海外ではよく見かけますが、車両に乗るのに周りの人が手を差し伸べる。視覚障害のある人をホームで誘導する。日本でもそうした人が年々増えてはきていますが、物足りなさは感じます。

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車いすの人や高齢者を見てもエレベーターに乗る。優先席で席を譲らない。また、私が困るのはスペースがあっても車両の出入り口付近で止まってしまう人たちです。降車駅との兼ね合いなど事情もあるとは思うのですが、立ち止まられると車いすでは入れません。声をかけるのは、なかなか勇気が必要です。

Q.障害のあるなしに関わらず、互いに尊重しあう「共生社会」の実現がオリンピック・パラリンピックのレガシーとしてかかげられていますが、浸透していないということですね。

A.先月、改正されたバリアフリー新法が施行されたのですが、そのなかに「共生社会の実現」「社会的障壁の除去」が初めて明記されました。

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そして、国民の義務として、障害者や高齢者が公共交通機関を利用して移動するために必要な支援、エレベーターや席を譲ることもそのなかに入ると思いますが、そうした支援を行うことが明文化されました。ただ法があるからではなく、法がなくてもそうしたことが実践できるのが本来目指す姿だと思います。
そのためには、障害のある人も積極的に街に出て行くことは欠かせないと考えます。なぜなら、困っていたり不便であったりすることの情報を発信できるのは当事者しかいないからです。完璧なバリアフリーなど存在しません。ソフトをどのように充実させていくか。障害のある人もない人も一緒になって整備していくことで、2020年には世界に誇れるTOKYOそして日本になれるのではないでしょうか。

(竹内 哲哉 解説委員)

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