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「紛争地の人々を救うために」(くらし☆解説)

出川 展恒  解説委員

「くらし☆解説」、岩渕梢です。年の瀬を迎える中、今も、世界の紛争地で暮らす人々は、苦しい生活を送っています。きょうは、こうした人々をどう救えばよいかについて、考えたいと思います。スタジオは、出川展恒解説委員です。
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Q1:
今年、イエメンやシリアなど、世界の紛争地で深刻になっている人道危機が、大きなニュースとなっていますね。
A1:
はい。世界では、数え切れないほど多くの内戦や紛争が起きていますが、きょうは、こちらの3つに焦点をあてます。▼イエメンの内戦と人道危機。▼シリアの内戦と難民問題。▼そして、ミャンマーの少数民族ロヒンギャの難民問題です。
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まず、3年半以上内戦が続くイエメンです。生まれて間もないこの赤ちゃん、栄養失調のため、極端にやせ細っています。イエメンは、今、「世界最悪」とも言われる人道危機に直面しています。深刻な食料不足で、人口の半分以上にあたる1500万人が飢餓状態で、5歳未満の子ども8万5000人以上が餓死したと見られています。「10分に1人の割合で子どもたちが亡くなっている」という報告もあります。
人々は、木の葉っぱまで食べて命をつないでいます。町にはゴミがあふれ、衛生状態は最悪で、病気になる人も多くいますが、肝心の病院は、戦闘で破壊され、全く使えなくなっています。
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【住民ON】
「家を含め、すべてを失った。水さえ残っておらず、子どもたちは病気だ」。

(岩渕)
Q2:
なぜ、このような食料不足に陥ったのですか。

(出川)
A2:
イエメンは、もともと資源もなく、貧しい国ですが、内戦に突入した後は、国連などからの食料支援に頼り切っていました。その食料の大部分は、イエメン西部のホデイダという港に運び込まれます。ところが、今年、ホデイダでの戦闘が非常に激しくなったため、食料を、港から国内各地に届けることができなくなったのです。そして、最も深刻な影響を受けているのが、幼い子どもたちです。
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(岩渕)
Q3:
このような悲惨な状況を改善する手立てはないのでしょうか。

(出川)
A3:
とにかく、ホデイダでの戦闘が続いている間は、食料の配布ができないわけですから、何としても停戦を実現させなければなりません。
イエメンの内戦は、政府と反政府勢力の戦いに、サウジアラビアやイランなど周辺国が介入し、出口が見えない状態が続いてきました。今月6日から、国連の仲介による和平協議が、およそ2年半ぶりに行われています。しかし、双方の対立と不信感は根深く、直ちに内戦終結に向かうとは期待できません。まず、ホデイダで、部分的な停戦を実現し、食料などの支援物資を届けるルートを確保することが重要だと思います。
WFP・国連世界食糧計画では、小麦や豆、油などの基礎的な食料に加えて、栄養失調の子どもたちに栄養を強化した食品を配布する計画でしたが、戦闘が続く中、スタッフの安全を確保できず、この計画はほとんど進んでいません。
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(岩渕)
Q4:
次に、シリアの難民について見てゆきたいと思います。シリアの内戦は、もう7年も続いていますね。

(出川)
A4:
はい。現在、難民が直面している最大の問題は、寒さです。戦火を逃れ、シリアの周辺国に避難している難民は560万人を超え、シリア国内で避難生活を送っている人々も660万人に上ります。これからの季節、氷点下まで気温が下がる日もあり、テント生活を強いられている難民や国内避難民にとって非常に苛酷です。難民たちは、周辺国で仕事につくことができず、寒さをしのぐための防寒具さえ、買うのが難しい状態です。
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(岩渕)
Q5:
シリア難民に対しては、どんな支援のしかたがあるのでしょうか。

(出川)
A5:
UNHCR・国連難民高等弁務官事務所では、シリア難民や国内避難民に対し、毛布や防寒具の配布、ストーブや燃料の提供など、防寒対策の支援を行っています。ところが、UNHCRも資金不足が深刻で、このままでは、支援を縮小せざるを得ないと話しています。
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(岩渕)
Q6:
もうひとつは、去年、ミャンマーから隣国のバングラデシュに避難したロヒンギャと呼ばれる人々ですね。

(出川)
A6:
はい。ロヒンギャは、ミャンマー西部で生活するイスラム教徒の少数民族です。去年8月、ミャンマーでの虐殺や暴行を逃れて、国境を接するバングラデシュに大量に避難しました。現在、バングラデシュ東部で生活しているロヒンギャ難民は90万人に上り、粗末なテントでの生活を余儀なくされています。その規模は、アジアでは最大です。
ロヒンギャ難民は、迫害からは逃れましたが、避難先のバングラデシュで、モンスーンやサイクロンによる大雨や洪水に悩まされ、不安な生活を送っています。難民キャンプでは、安全な飲み水や食料が不足し、衛生状態も極めて悪く、医療の態勢も整っていません。さらに、目の前で肉親を殺されたり、性的暴行を受けたりした記憶が、深い心の傷となって、今なお、苦しんでいる難民も数多くいます。
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(岩渕)
Q7:
こうした人たちに対しては、どんな支援が必要なのでしょうか。

(出川)
A7:
安全な住居、水、食料などは言うまでもなく、医療や保健のサービス、そして、心のケアも必要です。日本赤十字社が、去年9月以降、緊急医療チームを現地に派遣してきました。仮設の診療所をつくり、難民キャンプの中で巡回診療も行って、のべ8万人の難民を対象に、身体と心の健康を守る活動を続けてきました。

(岩渕)
Q8:
ロヒンギャ難民の暮らしは、良くなっているのでしょうか。

(出川)
A8:
UNHCRや赤十字の支援を受けて、生活できる環境は整ってきました。しかしながら、難民たちのミャンマーへの帰還は、全く進んでいません。帰ってからの安全が保証されておらず、住んでいた家も破壊されたままだからです。ロヒンギャ難民のバングラデシュ滞在は、今後長期化することも予想され、赤十字などは、地元の支援団体や難民自らも支援活動に参加するようにして、難民の自立を促してゆく方針です。
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(岩渕)
Q9:
ここまで、3つの紛争の例を見てきましたが、どんなことが言えますか。

(出川)
A9:
紛争によって、きょう一日を生きてゆくのさえ難しい境遇の人々が世界には大勢いることを考えさせられます。そして、紛争や内戦に、周辺国や大国が介入して解決が一層困難になり、長期化しています。

(岩渕)
Q10:
日本で暮らす私たちに、何かできることはないでしょうか。

(出川)
A10:
私たち市民が、イエメンやシリアなど、内戦が起きている現場に入って、支援活動ができる状況ではありません。国連機関や赤十字、そして、現地で活動する民間の援助団体を資金の面で支えるということが大切だと思います。そうした機関や団体の多くが深刻な資金難に直面しており、資金さえ集まれば、助けられる命があるからです。それぞれの機関・団体は、それぞれ専門とする分野で活動しています。たとえば、WFPは食料支援、UNHCRは難民支援。UNICEFは、子どもの命を救い、教育の機会を与える活動に重点を置いています。
そして、NHKの「海外たすけあい」は、日本赤十字社とタイアップして、今月25日まで行われます。義援金の一部は、ロヒンギャ難民や、シリア、イエメンでの人道支援に充てられる見込みです。
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(岩渕)
「NHK海外たすけあい」、そして、援助団体の問い合わせ先は、ご覧の通りです。「くらし☆解説」、出川解説委員でした。

(出川 展恒 解説委員)

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