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【外国人受け入れ拡大 課題は?】(くらし☆解説)

堀家 春野  解説委員

こんにちは くらしキラリ解説です。
日本で働く外国人を増やすための法律が8日、国会で成立しました。
来年4月から始まる新たな制度の課題について考えます。
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(新制度とは)
Q)いまでも、多くの外国人が働いていますが、新たな制度で何が変わるんでしょうか。
A)現在、およそ128万人の外国人が日本で働いています。最も多いのが、日系人や日本人と結婚した人で、働くことに制限はありません。そして、こちら、合わせて全体のおよそ4割を占めているのが留学生のアルバイトや日本で技能を学ぶことを目的に来ている技能実習生です。人手不足を補う欠かせない存在になっていますが、働くことを目的とした在留資格ではないんです。ですので、実態に合わせた、就労目的の在留資格をつくって、即戦力となる外国人に来てもらおうというのが今回の新しい制度の考え方なんです。
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Q)具体的にはどんな制度になるんでしょうか。
A)新しい在留資格を2つ設けます。特定技能の1号と2号です。1号は相当程度の技能を持つ外国人、2号はより熟練した技能が必要とされます。在留期間は1号では最長で5年。家族が一緒に来ることは認めないとしています。2号は在留期間の上限を設けず、事実上、永住することができ、家族と一緒に来ることも可能です。受け入れは介護や農業など14の業種が検討されていて、人数は、5年間で最大でおよそ34万5000人と見込まれていますが、詳細は今後決まることになっています。
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そこで懸念されているのが、働く外国人の待遇、低賃金や人権侵害の問題です。
新たに設けられる在留資格、特定技能1号には、技能実習生は3年の経験があれば試験なしで移行でき、その占める割合は半数程度と見込まれています。いわば、新しい制度を下支えする存在ともいえます。ところが、去年までの3年間に69人の技能実習生が死亡していたことが明らかになるなど、問題が繰り返し指摘されているんです。
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(外国人技能実習生 その実態は)
11月、支援団体に寄せられたあるケースです。岐阜県の縫製工場で働くミャンマー人の女性3人です。午前7時から午後10時までスカートやジャケットをミシンで縫う仕事をして受け取るのは月に10万円から13万円ほど。時給に換算すると最低賃金以下です。残業は月100時間以上に上っていて、過労死ラインを超えています。実習生は「こんなに働いても少ない給料でショックです。人間らしい生活がしたいです」と話していました。
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Q)こうしたケース、よくあることなんでしょうか。
A)もちろん、適正に実習生を受け入れているところもあります。ただ、受け入れ企業の7割で残業代の未払いなどの法令違反が確認されているんです。新たな制度では、日本人と同等以上の報酬額を確保するとしています。技能実習制度でも同様の仕事をする日本人と同等以上の報酬とするとの規定があるんですが、実際は守られていません。国は外国人を受け入れる企業の指導を徹底して実効性のある対策を行わなければなりません。

そして、受け入れる企業側の責任もあります。先ほどの、実習生が働いている事業者は「最低賃金より少ない額だと認識はあったが経営が成り立たないため仕方なかった」などと話しているんです。実習生を受け入れている企業の半数以上が零細企業で、大手の下請け、孫受けといったところも少なくありません。発注元に実態を把握してもらい改善を進めることも必要です。
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(企業の対策)
Q)大元のところの責任、ということですね。
A)はい。対策も始まっているんです。大手衣料品チェーンの「しまむら」です。商品を仕入れていたメーカーの下請け企業で実習生を違法に働かせていたことが明らかになったんです。このため、すべての取引先およそ400社に実習生への人権侵害がないよう求めました。そして、大手下着メーカーの「ワコールホールディングス」。実習生が働くすべての委託先の工場の調査を自ら行っています。賃金台帳やタイムカードなどを調べ、不正が確認されたら改善を求め、必然性があれば発注額を見直すことも検討するとしています。ホームページでは国内外の委託先のリストも公表しています。
Q)企業の社会的責任も問われていますね。
A)企業にとってみますと、対策をとることは企業自身を守ることにもつながると思います。私たち消費者にとってみても、身近な商品をつくっている外国人の処遇が適切に行われているのか。商品を選ぶ際に考えるきっかけになると思います。
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そして、これから更に多くの外国人を受け入れようという中で、働き方と合わせて重要なのが生活環境の整備です。政府は、今月中に総合的な対策をまとめるとしています。この中では、▽日本語教育、▽医療の体制整備、▽子供の教育などの対策が盛り込まれる予定です。こちら、医療では、ともすれば命にも関わることですが、いま、外国人にとって安心して受けやすいという環境とはいえません。
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例えば、最近、医療の現場で懸念されているのが、日本に住む外国人の間で結核の患者が増えていることです。
Q)結核というと、過去の病気だという印象もありますが。
A)世界的には死亡する人が最も多い感染症で流行している国から日本にやってきている人も少なくないんです。
東京都内の結核専門の診療所では毎月50人ほどの外国人の患者を診ています。
中国語やベトナム語など5つの言語の通訳が常駐して対応にあたっています。
中には、体調が悪くてもどこに行ったらいいのかわからず受診が遅れてしまった人や、
ほかの医療機関にいっても言葉の問題でコミュニケーションがうまく取れなかったという人もいるといいます。結核は早期に発見し、治療すればほぼ治る病気です。治療が遅れると本人が重症化するだけでなく、周りにも感染を広げてしまいます。診療所で治療にあたっている田川斉之医師は「調子が悪いときにがまんしないで医療にアクセスできる体制づくりが必要だ」と話していました。
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Q)外国人が医療にかかりやすくするためにどんな対策が必要なんでしょう。
A)医療通訳などを備えた基幹病院を地域に整備すること。そして、日本で働く外国人にも日本の医療制度を理解してもらって公的医療保険に加入してもらうことが必要です。
一方で、いまの医療保険制度は多くの外国人を対象にすることを想定していません。不適切な利用や、扶養家族が増えれば財政負担につながるのではないかという懸念も出ていることから、厚生労働省は、扶養家族については原則として日本国内に住んでいる人を対象にすることなどを検討しています。
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Q)医療の分野ひとつとっても、外国人と共に暮らしていくための基盤整備が必要ですね。
A)新しい制度は来年4月から始まりますが、残された時間は多くはありません。人手不足の中、外国人に期待する面は大きいと思います。働いてみたい、住んでみたいと思われる環境づくりを急がなければならないと思います。

(堀家 春野 解説委員)


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