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「クイーン映画で高まる関心 今エイズは」(くらし☆解説)

水野 倫之  解説委員

イギリスのロックバンド・クイーンの代表作といえる「ボヘミアン・ラプソディ」。今、そのボーカリストで、エイズで亡くなったフレディ・マーキュリーの生き様を描いた同名の映画が大ヒット。
クイーン人気が再燃するとともに、映画であらためてエイズへの関心も高まっている。
きょうはエイズの現状について水野倫之解説委員の解説。

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私はまだ3回しか見ていないが、観客が一緒に歌うことができる応援上映にも行き、代表作「We will rock you」のシーンになると足踏みと手拍子で、さながらライブ会場にいるような感じで楽しむことができた。

映画「ボヘミアンラプソディーは」、1970年代のクイーンの結成当初から、ボヘミアン・ラプソディなどの名曲がいかに生み出されていったのかを軸に描かれ、メンバーが対立しながらも、最後は家族のようにまとまり、20世紀最大のチャリティーライブに挑むまでを名曲を織り交ぜてたどっている。

私の周りでも何回も見に行ったという人がいて、クイーン世代だけでなく若い人の支持も高く、この1か月で240万人も動員。

その最大の魅力は何といっても、ボーカルのフレディ・マーキュリーの生きざま。
その奇抜ないでたちだけでなくロックにオペラの要素を取り入れるなど当時としては斬新な手法でクイーンを世界のトップバンドに押し上げ、1980年代まで常にヒットチャートの上位を独占。
しかし人気絶頂期にエイズを発症、1991年エイズと闘ってほしいと世界のファンに呼びかけながら亡くなった。

今回の映画は彼の音楽性だけでなく、同性愛者だったことや命を奪うことになったエイズについても描かれていて、SNS上では「映画を観てから、エイズ、HIVに関心を持つようになった。」とか「映画をきっかけにエイズの正しい知識理解が行き渡りますように。」といった書き込みが多くみられるようになり、エイズに対する関心が 再び高まってきている。

エイズはフレディが亡くなった頃は騒がれていたが、今は耳にする機会が減った。
しかし決して過去の病気となったわけではない。

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これがエイズを引き起こすウイルス・HIV。
このHIVの感染者は、毎年およそ1400人と高止まりの状態が続いている。
中でも問題なのは、このうち3割の人がエイズを発症して初めて感染に気付いたという点。

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何が問題なのかというとこの3割の人が感染を広めているおそれがある。
HIVは精液や膣の粘液、血液などに含まれている。
多くの場合性行為で感染し、9割以上は男性、でも女性の感染者もいる。
つまり誰でも感染しうるわけだが、HIVに感染しただけではエイズは発症しない。
感染を放置していると体を守る免疫細胞が減っていき重い肺炎などを起こしてしまう、これがエイズの発症。
感染から発症までおよそ10年の潜伏期間があって自覚症状がほとんどない。
検査を受けず感染を知らずにいる間に、ほかの人にうつしてしまうおそれがあるわけ。

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今、治療法はフレディが感染した1980年代から90年代に比べて劇的に進歩。
発症前の感染段階であれば、多くの場合ウイルスを抑える薬を1日1錠服用することで、ウイルスは検出限界以下に減って人にうつすこともほぼなくなり、健康な人と変わらない生活を送ることができるようになっている。
以前は1日に何回も飲まなければならなかったが今では1錠でいい。
つまり「死の病」から「一生付き合っていける慢性疾患」へと姿をかえたわけ。

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先日、中国の研究者が親のHIVが感染しないよう、ゲノム編集で遺伝情報を書き換えて双子が生まれたと発表したが、専門の医師は、「今では親が適切な治療を受けていれば子供に感染せずに出産することが一般にできていてゲノム編集の必要はない」と話していて、自然妊娠できるくらい普通の暮らしができるわけ。

ところが今年内閣府が行った世論調査でエイズについての印象を聞いたところ、「死に至る病である」を挙げた人がいまだに半数以上。
また30%余りが「原因不明で治療法がない」という印象を持っているなど、正しい知識が行きわたっていない現状が明らかに。

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正しい知識がないと「どうせ死ぬんだ」というような思い込みで検査を受けない例もあるとみられ、保健所などで行われている無料の検査件数はピークだった10年ほど前より6万件ほど減少。

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HIVの感染は検査でしかわからない。
予防にはコンドームが有効だが、そういった避妊具を使わずに不特定多数と性行為をするなど心当たりがある人が検査を受けることが重要。

そこで厚生労働省では12月1日の世界エイズデーにあわせて今月上旬をエイズウィークと位置付け、次の日曜日にはたとえば渋谷のハチ公前で無料検査を行うなど啓発活動。
また、民間でもゲイの人たちを中心にエイズに真剣に向き合おうと活動を続けているグループもあり今回取材。

東京の新宿2丁目。
ゲイの人たちが多く集まるこの街に毎週金曜日になるとユニフォームを着たボランティアの人たちが集まる。この日はゲイバーに勤める若者やサラリーマンなど14人がグループに分かれてゲイバーを回り、コンドームを配布。
私がついて回った4人が訪れた店はフレディも訪れたことがあるとのこと。
店の担当者にコンドームとエイズの最新情報が書かれたチラシを渡して、エイズ予防を呼びかけた。
お店の人は『やっぱりすごく効果あって。(コンドームを)もらっていく人も結構います。だから補充してもらっているの。』と話していた。
またボランティアのメンバーは、『この毎週の活動によって自分たちに必要なツールだって言う認識をもってもらっている感じはあります。』と。
彼らは配り終わった後再び集まり、さらに効果的な活動方法について話し合う。
中には女性もいて、フレディがエイズで亡くなったことにショックを受けてエイズ予防のボランティア活動にかかわるようになったということで、映画も3回見たとのこと。
このボランティアの女性は、『ボランティア活動していて大変だなとかつらいというのもあるんですが、ボヘミアン・ラプソディ見てもう一回初心に戻ってがんばりたいなと思いました。』と話していた。

映画がこうした活動にも影響与えている。
グループでは厚生労働省の支援を受けて、ゲイの人たちの相談窓口も開設し、検査情報を提供するなど、今後も地道に啓発活動を続けていくとしている。
今回の映画をきっかけにエイズについて正しい知識が広がり、少しでも感染の拡大が抑えられるようになることを、フレディも願っているんではないかと思うし、私も今回の取材で強く感じた。

(水野 倫之 解説委員)

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