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「日本産食品の規制はいま」(くらし☆解説)

合瀬 宏毅  解説委員

東京電力福島第一原発事故から7年以上が経ちますが、台湾は先日、事故以降続けている、日本産食品の輸入規制を、継続することになりました。日本産食品の海外での規制はどうなっているのか、合瀬宏毅(おおせひろき)解説委員です。

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Q.事故から7年以上続く今も、規制が続いていると言うことですか

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 そうです。先日規制の継続を決めた台湾は、2011年の原発事故以降、福島や茨城、栃木など5つの県の食品を輸入禁止とし、3年前からは、残る42都道府県の全食品に産地証明を義務付けるなど、規制を強化しています。
 もともとこの規制強化、当時台湾内で食の安全問題への関心の高まりや、表示偽装問題などを背景に行われたもので、日本政府は科学的根拠に乏しいとして、その見直しを強く求めていた。
 ただ、台湾内での放射性物質への不安は強く、そこで今回、日本産食品の規制についての賛否を住民投票で決めることにした。

Q.投票の結果、継続が選ばれたと言うことですか?

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はい。野党国民党が提案した、原発事故から続く、日本産食品の輸入規制の継続について、賛成が779万票余り、反対が223万票と、賛成が、反対の3倍以上と大きく上回り、有権者の25%以上という条件を満たしたため成立しました。
台湾当局としては、今回の結果を尊重しなければならず、日本が求めていた輸入規制の見直しは当面、困難となりました。

Q.日本としては残念ですね。

 原発事故から7年以上が経ち、日本国内では、被災地の農水産物や食品に対する不安の声は、減ってきていていました。それだけに農家は「美味しい野菜などを作っているのに残念だ」とか「厳しい検査体制などをもっと海外に、アピールすべきだ」などの声が上がっている。

Q.海外ではまだ、日本産食品に対する規制が多いのでしょうか?

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 もちろん、日本産食品への輸入規制、年々少なくなってはいる。
事故当時は、世界で54の国と地域が、日本産食品に対して輸入禁止などの規制を行っていたのだが、現在までにカナダやオーストラリアなど、29の国と地域が規制を撤廃しました。現在、一部の地域からの輸入を禁止したり、検査証明書の添付を義務付けたりしている国と地域は、25にまで減っています。
ただ、中国や韓国などの近隣諸国は相変わらず、厳しい対応のままです。

Q.どう厳しいのですか?

例えば中国は、宮城や福島、新潟など10の都県の食品と、家畜のエサは全て輸入を禁止しています。そのうち新潟のコメについては先週、中国政府が輸入再開を発表しましたが、それ以外はこれまでのまま。他の地域からの野菜などにも厳しい条件を付け、事実上、日本からの輸出を許していません。
韓国も5年前、福島第一原発からの汚染水流出を理由に規制を強化し、青森など太平洋岸を中心に8つの県からの水産物全てについて輸入を禁止し、その他の食品についても、日本国内全てを対象に産地証明を求めています。

Q.厳しいですね。

このうち韓国については、規制の強化が、科学的根拠がないとして、日本は国際機関に訴え、WTO世界貿易機関は今年2月、韓国が行う輸入規制は「不当な差別で、必要以上に貿易を制限している」として、韓国にその是正を求めた。
ところが韓国はこれを不服として上訴し、状況は変わらずにいるということなのです。

Q.それにしても何故、海外で日本産食品への規制が強いのでしょうか?

 政治的な問題だけでなく、韓国や中国などでは原発事故当時のイメージが抜けきっていないと指摘する専門家もいます。

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 これは、東京大学と福島大学とで去年2月、世界10カ国、地域の3000人を対象にした日本産食品に対するアンケートです。「積極的に日本産の食品は避けている」とする人の割合、アメリカやイギリスで20%台ですが、韓国は57%、中国では77%、台湾で54%と高くなっている。

Q.中国では77%に上っていますね。

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 高いですよね。そうした国と地域の人たちに、福島原発事故について聞いてみたところ、「いまだに福島原発からの放射性物質が大気中をかなり飛んでいる」と答えた人は、韓国で61%、中国で45%、台湾で54%に上る。
 もちろん、今の日本、大気中に放射性物質が飛んでいるという状況にはありませんし、食品についても基準値を超える農林水産物や加工食品が流通しない仕組みとなっている。

Q.実際の検査、いまはどうなっているのか

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 原発事故後、放射性物質の検出が少なくなったことから、食品に関する検査は縮小されてはいます。
それでも全国17の都県については、国が過去に基準値を超えた山菜や野生鳥獣、それに水産物など、1キログラムあたり100ベクレルの基準を超えたものが市場に流通しないように厳しい検査を求め、高い濃度が出ているものについては、出荷制限がかけられています。
また、その他の都道府県でも、野菜や果物、畜産物などの一定数を自主的に検査して、汚染の広がりをチェックしている。その件数は合わせて、全国で年間30万件に上っている。

Q.基準を超えた食品は、あるのか?

 去年1年間で、基準値をこえたのは、200件。割合にして0.07%で、ほとんどが、一般には出回らないイノシシなどの野生鳥獣の肉や野生の山菜でした。
 この基準での規制が始まった2012年は、基準超えの件数が2400ほど、ありましたので、6年間で10分の1以下になっています。
 こうしたこともあって、日本での放射性物質に関する関心、落ち着いては来ている。

Q.それなのに、どうして海外と国内と差が出るのか?

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先ほどの国際アンケートを行った東京大学の関谷直也准教授は「各国の認識が、事故直後から改善されていない。検査体制や検査結果も含め、現在の状況を海外に向けて発信していく必要がある」としています。

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実際に、日本では都道府県がモニタリング調査を行っていることを知っている割合は、韓国で16%、中国で24%、台湾で23%と低く、また、イノシシなど野生の動植物以外で、限界値以下を超えるものは「ほとんど無い」ことを知っている人は、韓国で11%、中国で27%、台湾で18%とこちらも低い。

Q.日本での状況がほとんど知られていないということでしょうか?

 もちろん国としても、各国の言語でのパンプレットや動画を作って、いろいろなイベントで披露したり、メディアを被災地に呼んだりして、被災地の現状や、検査体制をアピールしてはいる。
 しかしそうした取り組みも、先ほどのアンケートを見ると、あまり効果が上がっていないようです。

Q.今後どうすればいいのでしょうか?

日本政府内の中には、韓国のように、他の国や地域もWTOに訴えるべきだという強硬論もあります。しかし、日本政府が今やるべきは、そうした強硬策ではなく、これまでやってきた対策を検証し、今後の情報発信に生かす取り組みを進めて行くことが求められていると思います。

(合瀬 宏毅 解説委員)


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