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「温暖化に『適応』できますか?」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

◆12月1日から「気候変動適応法」という新しい法律が施行される。

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◆そもそも温暖化に“適応”するとは?

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 温暖化対策には大きく2つの柱があり、「緩和」と「適応」と呼ばれています。緩和というのは「CO2などを減らして温暖化を食い止める」ことで、具体的には省エネや植林など、一般にはこれが温暖化対策のイメージではないでしょうか。これに対し適応は、「温暖化がある程度進んだとしても大丈夫なように備える、被害をなるべく減らす」といった対策です。
         
◆それだけ温暖化が止まらない、温暖化するのが前提になっているということ?

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 その通りです。世界気象機関は2017年の大気中のCO2濃度が405.5ppmと過去最高を更新したと先週発表しました。これは産業革命前の1.5倍近くに増えていることを意味していて、世界の気温も既に1℃上昇しています。
 その被害についても、先週アメリカ政府が、2015年以降だけで温暖化に関連した山火事やハリケーンなどで4千億ドル、日本円にしておよそ45兆円もの被害が出ていると発表しました。こうした被害は世界で生じていると見られ、3年前に採択されたパリ協定でも、温暖化を食い止める緩和と並行して各国に適応策も求めています。
         
◆どうやって「適応」する?

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 政府は新たな法律に基づいて、27日に温暖化への「適応計画」を閣議決定しました。内容は農業をはじめとする産業分野から国民生活、防災など幅広い分野に及びますが、これに沿う形で各自治体も地域の適応計画を整備したり、企業やさらには私たち個人まで、義務ということではありませんが適応に努めるよう求められています。
 具体的には自治体の例だと地域の特産物の品種改良があります。お米や果物などは気温が高すぎると育ちが悪くなりますので高温に適した品種を開発するなどです。健康面では、猛暑で命の危険にさらされる人が増える他、デング熱などの熱帯性の感染症も広がると予測されますので媒介する蚊の駆除なども適応策になります。また、気候変動によって深刻な風水害も増えますので、堤防の強化から住民を適切に避難させる仕組み作りまで色々な対策が求められます。

◆防災計画や感染症対策など、これまでも重要だと言われていたことが温暖化の適応策にも位置づけられるということ?

 そういう面もあります。同様に私たち個人レベルでも適応策への理解と行動が求められています。例えば災害への備えです。台風や洪水に備えて非常食を準備したり避難訓練に参加するなども個人で出来る温暖化への適応策と言えます。熱中症予防として、暑い時期には水分補給を欠かさないよう外出時に水筒を持参したり、犬の散歩は早朝涼しいうちに、といったことも身近な適応策です。さらに、節水というのも挙げられています。これは水害への備えと矛盾するように感じるかもしれませんが、温暖化というのは単に気温が上がるだけではなく「気象が極端になる現象」なので、豪雨が増える一方で雨が降らない日も増えるとされ、水不足も起きると考えられていますので、そういう時は節水に協力する必要が出てきます。
 そして、企業の適応策としては、災害時にも事業を続けられるよう非常用電源から物流ルートの確保まで平時に手を打っておくべきことは少なくありません。一方で、適応のための新たなビジネスなども生まれると期待されています。要するに温暖化が進む中、社会全体で備えておくこと、が適応策だと言えます。
      
◆温暖化があまりに進むと適応すると言っても限度があるのでは?

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 やはり並行して温暖化を食い止めることも不可欠です。12月2日からポーランドで気候変動枠組条約の国際会議COP24が始まります。パリ協定では今世紀末の気温上昇を2℃未満、できれば1.5℃に押さえることをめざしていますが、現在各国が出している対策を全て達成しても気温は3℃上昇してしまうと見込まれるので、どうやって対策を強化するのか?が課題です。
 もう一つ注目されるのは、今回パリ協定の具体的な実施ルールが決められることになっている点です。パリ協定は3年前のCOP21で採択されましたが、激しく対立していた先進国と途上国など、各国がとにかく「合意できること」を最優先したため大枠だけしか決められていない点も多いのです。例えば各国のCO2排出量や削減量を何に基づいて計算するか?他の国と共同で削減に取り組んだという場合、ダブルカウントになるのをどう防ぐか?といったことも具体的に決まっていません。さらに途上国がCO2を減らすのに必要な資金を支援することになっていますがその詳細も未定で、先進国と途上国の主張には大きな隔たりがあります。どこまで実効性のあるルールを決められるか?難航も予想されます。
 各国が行う適応策の報告方法などもCOP24の議題のひとつになります。

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 途上国支援という面では日本は今週、途上国の適応策を支援するプラットホームを立ち上げると発表しました。「AP-PLAT」と言って、アジア・太平洋諸国に温暖化の科学的データや適応策の具体例などの情報を発信し利用してもらおうというものです。
      
◆アメリカがパリ協定から離脱宣言をしている中、日本への期待も大きい?

 日本の負担が増える事への懸念もあると思いますが、いずれにしても温暖化対策は世界全体で進めないと効果が薄いので、日本が技術や情報などを支援することで途上国の対策がより進めば、結局は日本のためにもなると言えます。
 そして、温暖化で気象が極端になると西日本豪雨のような災害が増えたり、私たちの暮らしにも深刻な影響は避けられません。ですからやはり温暖化対策は国際的なスケールから自治体・企業・個人といったあらゆるレベルに関わってくる課題です。私たちも、節電など温暖化を食い止める「緩和」と併せて、被害から身を守るための「適応」も意識していきたいですね。

(土屋 敏之 解説委員)

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