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「どこまで膨らむ? 消費増税への対策」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

来年10月に消費税率が10%に引き上げられるのを前に、政府は、景気対策の基本方針をまとめました。今井解説委員。

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【消費増税への対策。以前、この番組でも取り上げましたが、増税の後、消費が落ち込むのを防ごうという狙いですね】
そうです。前回、消費税率が8%になった時の個人消費の推移を見てみますと、直前のかけこみ需要があまりに大きかった。その反動で、増税後の買い控えが深刻になり、経済の足を引っ張る要因になったと、政府が分析しているからです。この年度は、マイナス成長に陥りました。

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今回は、この消費の山と谷を、なだらかにすることで、景気の低迷を避けようと、安倍総理大臣は「あらゆる施策を総動員する」と話しています。その結果、どんどん対策が膨れ上がっているのです。

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【どのような対策が検討されているのですか?】
政府は、おととい、基本方針を示しましたが、その主な柱は、こちらです。

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【いろいろありますね。まずは、セールの推奨ですか?】
そうです。増税で、一気に税込みの価格が上がるのを防ぐために、小売店などに対して、増税後にセールを行うことを、政府が事実上推奨することにしています。ただ、中小の店は、なかなか自腹でセールをする体力がない。

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ということで、打ち出されたのが、次の「キャッシュレスでの買い物へのポイント還元」です。

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【どのような内容ですか?】
対象の店は、中小の店。食料品や日用品などの小売店だけでなく、飲食店や、美容院などのサービスを提供する店も含まれます。こうしたところで、増税後の一定の期間、現金以外のカード=例えば、クレジットカードや、コンビニなどの電子マネー、それに、スマートフォンのアプリを使ってQRコードを読み取って決済する仕組み。消費者がこうした方法で、代金を支払った場合、代金の一定の割合で、使ったカードにポイントが還元されるという内容です。ポイントの分は、国が税金で補助します。ポイントでなく、翌月の支払いからその分を差し引いたり、その場で値引きしたりすることも認める方向で検討が行われています。

【一定の割合というのは、どのくらいですか?】
安倍総理大臣は、増税後の9か月間、5%分のポイントを還元する意向を示していて、その方向で検討が進む見通しです。
 
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【増税は、2%分ですよね。5%というと、それを上回る幅ですね】
そういうことです。例えば、本体価格が1万円の洋服の場合、今買うと、税込みで1万800円ですね。増税後は、1万1000円になりますが、対象の店でカードで買うと、しばらくは実質1万500円になるということです。しかも、今回。食料品や酒を除いた飲み物などには、軽減税率が導入されて、消費税率は8%のまま据え置きです。例えば、八百屋で、本体価格1000円分の野菜を買ったら、今は、1080円払いますが、増税後しばらくは、カードで買うと実質1030円ということになります。

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【中小の店が対象ということは、大手のスーパーや量販店などは対象外ですか?】
そうですね。具体的な線引きはこれからですが、大手のスーパーや量販店などは、対象から外れる見通しです。そこは、自力でセールをやってくださいと。一方、コンビニや外食チェーンについては、本社が運営する直営店は、大手ですが、個人がフランチャイズの形で経営している個別の店は、中小の扱いになり対象になる見通しです。

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ただ、今、現金しか扱っていないという店が、新たにカードなどを扱えるようにするには、手数料などの負担もかかります。具体的に、どの店が対象になり、そのうち、どの程度の店がこの仕組みに参加するのか。どのカードやアプリが対象になるのか。どういう還元の方法をとるのかは、今後の調整や検討次第ということになります。

【次、プレミアム商品券はどのようなものですか?】
はい。所得の低い人は、カードなどを使わない人も多く、ポイント還元の恩恵を受けられないということで、盛り込まれました。
 
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自治体が、低所得者と2歳以下のこどもがいる世帯に、増税後の一定期間、割増しで買い物ができる商品券を発行する内容です。政府の中では、最大2万円を払ったら、2万5000円分の買い物ができるようにする案が検討されています。差額の5000円分は、国が補助します。

【どこで使えるのですか?】
発行した市区町村の中でなら、こちらは、スーパーや量販店など大型の店でも使えるようにする方向です。こちらも、具体的な仕組みは、これからの検討です。

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対策は、これだけではありません。
▼    自治体のボランティア活動に参加したりすると、マイナンバーカードにポイントがもらえ、地域の商店街で買い物ができる仕組みがあるのですが、そのポイントをもらう際に国の補助でポイントを加算して、割り増しで買い物ができるようにしようという対策も検討されています。
さらに、金額が大きいため、かけこみ需要と反動による買い控えが大きくなると予想される住宅と車についても、
▼    ローンを組んで住宅を買った人が、残高に応じて最大年間50万円の減税をうけられる「住宅ローン減税」について、減税の期間を、今の10年から数年間長くして、それだけ減税の恩恵をたくさん受けられるようにすることや
▼    増税後に自動車を買った人の税金を軽くする。
こうした対策も、今後具体的に検討が進められます。
 
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【ずいぶん盛りだくさんですね】
そうです。そもそも、今回、多くの人の増税の痛みを和らげる狙いで、「軽減税率」が。そして、子育て世帯への対策として、幼児教育や保育の無償化といった対策を実施することも決まっています。それによって、増税で年間5兆6000億円増えるはずだった家計の負担は、およそ2兆2000億円に軽減されるという試算もあります。

【その上、新しい対策もやるということですね】
そうです。「あらゆる施策を総動員する」という総理の掛け声のもと、消費の落ち込みを食い止めるという、もともとの狙いに加えて、海外と比べて遅れている「キャッシュレスの決済」を一気に進めよう。低所得者対策を充実させよう。なかなか進まないマイナンバーカードの普及を、これを機会に後押ししよう。自動車の販売の低迷をなんとかしよう。と、様々な立場の人たちの様々な思惑が詰め込まれ、どんどん、膨らんでいるのです。目的も入り乱れていますし、それぞれの効果や、消費者が使いやすいか、といったこともきちんと検証できていない、混沌とした状態です。

【どのくらいの規模になるのですか?】
これからの調整次第ですが、負担の増加分を上回るのではないかという見方すらでています。ですが、そもそも、増税に踏み切るのは、先進国で最悪の日本の財政を健全化することが、大きな目的のはずです。増税を乗り切るために、さらに、借金を膨らませるようなことになれば、増税をする意味がなくなりかねません。今後、具体的な仕組みや規模を検討する中で、効果の高い対策に絞り込むこと。

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メリハリをつけていくことが欠かせないと思います。

(今井 純子 解説委員)

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