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「AIが描いた絵が4,800万円!創作ってなに?」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

◆先月、AI(人工知能)に描かせた肖像画がニューヨークのオークションで日本円にしておよそ4800万円もの高値で落札された。
 
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◆オークション会社によればAIが描いた絵画の出品は初とのこと

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 この作品は、パリに拠点を置く起業家や芸術家などのグループがAIを使って製作し、プリンターで出力したものです。「エドモンド・ベラミーの肖像」という作品名ですが、実在する男性ではなく14世紀から20世紀までに描かれた肖像画1万5千枚をAIに学習させ創作したそうです。ディープラーニングという最近よく話題になるAI技術がありますが、その中でも新しい「敵対的生成ネットワーク」と呼ばれる技術を使ったそうです。

◆一体どういう技術?

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 イラストはわかりやすくするためのイメージですが、要するに2つのコンピュータープログラムを競い合わせて賢くする技術です。一方は創作担当で、例えば膨大な人物写真をデータとして学習することで、なるべく本物の写真に見える画像を創ろうとします。これに対してもう一方は識別担当で、示された画像が本物の人物写真か?それとも創作AIが作った偽画像か?を見分けようとします。

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 創作AIが最初に創った画像は見るからに不自然ですぐ見抜かれます。しかし、競わせ続けていくと、創作側はだんだん創った画像とばれないように本物らしい画像を創るようになり、識別側も言わば目が肥えて細かい不自然さも見抜くようになる、これを重ねるとやがて本物の写真と見分けがつかない画像を創れるようになると言います。
 今回はこうした技術を使い写真でなく肖像画を創ったので、人間の画家が描いた肖像画の中に混じっても区別できない絵を創り出した、というイメージです。

◆これは新たな作品を生み出したと言えるのか?他の様々な作品の模倣では?
 
 確かにそう感じる人もいると思います。それに、創作とか創造性といったものこそ人間だけのものであって欲しいしAIにやらせなくても、という気持ちを持つ人も多いでしょう。一方で、ではそもそも人間の創作って何なのか?芸術家も過去に見た絵や人物・風景などから学習して作品を生み出しているはずで何が違うのか?という考え方もあって、そうした人間の創造性を解明したいと考え取り組んでいるAI研究者も少なくありません。

◆絵画以外でもAIによる創作が行われている分野はある?

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 今や多くの分野で開発が進んでいます。例えば音楽。日本の研究グループが開発した「Orpheus」という自動作詞・作曲AIは既にネット上で公開され、利用者がお好みの曲を作ることが出来ます。そして小説。2年前、AIを使って書かれた小説が短編小説のコンクール・星新一賞の一次選考を通過したとして話題になりました。他にも、映画の脚本や広告のキャッチコピーを創るなどの分野でも開発が進んでいますし、将棋や囲碁の分野では、既にAIが編み出した新たな手をプロ棋士が使うケースも出てきています。これも創造性の発揮と言えるかもしれません。

◆とはいえAIが描いた絵が高く売れるようになると、その利益や権利なども気になる

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 そこがまさにホットな話題です。実は今回肖像画を出品したグループは、別の人が開発したAI技術も利用していて、その開発者がツイッター上で不満をもらしているそうです。このようにAIの創作がもたらす利益は誰のものか?と考えると、まず今回のように「AIを使って絵を描かせた人」だという考え方の他にも、その「AIを開発した人」には権利はないのか?とか、さらに言えば、AIは膨大な絵のデータを学んで作品を作ったのだから、その「元々の絵を描いた画家たち」にオリジナリティーがあるのでは?とか、色々なことが考えられそうです。また、このようなAIが学習データとする膨大な著作物の権利はどう扱うべきか?という問題もあります。これは世界的にまだ統一ルールなどはありませんが、ちょうど日本で新たな動きがありました。
       
◆日本で新たな動きとは?     
   
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 今年著作権法が改正され来年1月から施行されますが、その中でAIに学習させるために膨大な著作物をコンピューターに取り込むなどの利用には、著作権者の許諾は不要ということになっています。日本はAIにデータを学ばせる、いわゆる「機械学習のパラダイス」だという専門家もいます。これは欧米と比べてもAIの開発者側に有利なルールで、研究開発や新たなビジネスを生み出すという面では都合が良いと言えます。
    
◆まだまだ色々な議論がありそう

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 他にも例えば、「ゴーストライター問題」とでも言うべきテーマがあります。以前、著名な作曲家が実は別の人に作曲させていたのでは?といったトラブルがありましたが、AIに絵や音楽を創らせてそれを自分の作品として発表すれば、AIは「自分の作品だ」と暴露するようなことはありませんし、実は今既に行われていたとしてもなかなかわかりません。
 「誰々先生の作品だから高い値段を出したのに」といった問題が起きることも考えられる一方で、これは私たちがそもそも芸術とか創作物の何に価値を見いだして対価を払っているのか?が問われることにもなりそうです。
     
◆今後こうしたAIと私たちはどうつきあっていけばいい?

 難しい問題ですが、ひとつ押さえておきたいのはAIには「人を感動させたい」といった意志はありませんし、基本的に人が使わなければ勝手に創作はしません。ですから、芸術家がカメラを道具として写真を撮るように、AIを道具として使い作品を生み出すというのは「それはそれであり」になっていくかもしれません。
 また私たちに身近な用途として考えられるひとつが、パソコンならぬパーソナル創作AIです。例えば、自分の両親の肖像画をAIに描かせて誕生日プレゼントにしたり、自分を主人公にした冒険小説を書かせて楽しむ、といった個人的ニーズにもAIは生かせるかもしれません。

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 いずれにしても、急激に進歩しているAIを社会でどう生かしていくべきなのか?権利や利益配分のことも含め、もっと幅広い議論が必要だと思います。

(土屋 敏之 解説委員)

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