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「新制度から1年 住宅セーフティーネットをどう広げる?」(くらし☆解説)

飯野 奈津子  解説委員

(岩渕) 一人暮らしの高齢者など住宅を借りようと思っても断られることが多い人たちを支援する、住宅セーフティーネット制度が始まって一年になります。取り組みは進んでいるのでしょうか。飯野解説委員です。

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Q この住宅セーフティーネット制度、去年始まったときにも番組で取り上げましたね。

A そうですね。これまで十分とは言えなかった高齢者や低所得の人たちを支える住宅制度が新たにできるというので、去年期待してとりあげたのですが、この1年の状況をみると、思うように取り組みが進んでいません。それがなぜなのか、どうすれば誰もが安心して住まいを確保できるようになるのか、考えていきたいと思います。

Q 改めて、住宅セーフティーネット制度はどんな仕組みですか

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A 対象となるのは、月収15万8000円以下の低所得者や高齢者、障害者などです。
行政の住まいの相談窓口などを取材すると、最近特に目立っているのが低所得の一人暮らしの高齢者からの相談だといいます。高度成長期に立てられたアパートが建て替えの時期を迎えていて、住んでいるアパートから立ち退きを迫られているとか、夫が亡くなり年金が減って家賃を払えなくなったという人たちが、駆け込んでくるそうです。
ところが、こうした人たちが民間の住宅を借りようと思っても、家主から断られる事が少なくありません。家賃を滞納するのではないか、事故や孤独死のようなことが起きるのではないかと、家主の側が心配するからです。その結果、行き場をなくして劣悪な環境の宿泊所のようなところで生活せざるをえなくなる人が増えていて、大きな社会問題になっているのです。

Q 住宅セーフティーネット制度は、そうした人たちの住まい探しを支援しようというものですね。

A そうです。低所得の人たちのための公営住宅は、数が限られていて、東京などでは、20倍を超える競争率です。それだったら全国各地で急増している空き家や空き室を活用して、住まいの確保につなげようという発想です。
その具体的な仕組みがこちらです。

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行政が空き家や空き部屋の家主に働きかけて、低所得の人や高齢者等の入居を拒まない住宅として、都道府県などに登録してもらいます。その住宅の情報を、入居を希望する人たちに提供して、借りやすくしようという仕組みです。
そして、住宅を登録した家主には、自治体や国が、月々の家賃に最大4万円まで補助したり、住宅を使いやすくするための改修工事に、最大200万円まで補助したりする制度を設けています。
また、一人暮らしの高齢者などが住宅に入居した後、必要であれば、見守りなどの生活支援を受けられるよう、そうした生活支援を行う法人を指定して、費用を補助する仕組みも備えています。

Q 家賃の補助や生活支援があれば、入居する人も助かりますし、家主の側の、家賃の滞納や孤独死といった不安も軽減できますね。

A ところが、実際には、期待通りに取り組みが進んでいません。

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まず、家主に対する家賃や改修費の補助。これは住宅を登録すれば誰でも受けられる仕組みになっていません。補助を行うかどうかは市区町村の判断に委ねられているので、今年度実施しているのは、全国の自治体の2%足らず、30の自治体にとどまっています。財政的な負担が生じるので、補助を行うことに慎重になっている自治体がほとんどです。
また住宅に入居した後の生活支援。これまでに指定を受けた法人は全国で150程度。生活支援を受けたいと思っても受けられない地域が少なくありません。

Q こんな状況では、入居を拒まない住宅の登録も進んでいないのでしょうね。

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A そうなんです。
登録された入居を拒まない住宅は、昨日現在で、全国で4926戸。国が2020年度まで登録を目指すとしている17万5000戸の目標の3%程度にとどまっています。住宅の登録数を都道府県別にみると、100戸以上登録があるのが東京や大阪、愛知、岐阜、山梨の5都府県。それ以外は100戸未満、登録住宅がひとつもない県が12もあります。

Q 制度が始まって1年たっても、思うように取り組みが進んでいないわけですね。どうすれば、空き家や空き室の家主が、住宅を登録しようと思えるようになるのでしょうか。

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A この制度、仕組みを簡単に紹介しましたが、住宅を登録するにしても、家賃や改修費の補助を受けるにしても、様々条件があって複雑でわかりにくい。まずは、家主がメリットを感じられるようなわかりやすい仕組みに改善して、制度を周知することが必要だと思います。
その上で、積極的に取り組む自治体を取材して感じるのは、それぞれの地域で、一人暮らしの高齢者が入居した後の見守りなど、生活を支援する体制を整えることが、家主の不安軽減には欠かせないということです、そのために、地域の中の住宅と福祉の関係者が連携できるかどうかが、鍵を握ると思います。

Q どうすればその連携が進みますか?

A 住まいと入居後の見守りを一体的に提供する仕組みをつくり、一人暮らしの高齢者の住み替えにつなげている、京都市の取り組みが参考になります。

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●京都市の「すこやか住宅ネット」。参加しているのは、これまでほとんど顔をあわせることがなかった、自治体の住宅部局と福祉部局の担当者、不動産関係の団体それに福祉関係の団体です。ここで住まいと見守りを一体的に提供する仕組みができたのは、地域の実情を見える化したことがきっかけだったといいます。アンケートなどで、火の不始末や事故を警戒して高齢者に家を貸したがらない家主が多い実態が浮き彫りになり、それだったら高齢者が入居した後の支援を担おうと、福祉団体が申し出たのです。
その仕組み、一人暮らしの高齢者から住み替えの相談があると、不動産業者の協力店と入居後の見守り支援を行う社会福祉法人が一緒に対応します。高齢者の面談をして、希望に沿った物件を提示し、家主との契約まで立ち会って、入居後も高齢者の生活支援を続けることを丁寧に説明します。

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●これまでに住み替えにつながったのは85件。80歳を超える高齢者も多く、継続的な入居後の生活支援がなければ、住み替えは実現しなかったといいます。

Q 高齢者の見守りを続ける事が、家主の安心感につながるわけですね。

A そうです。まずはそれぞれの地域で住宅と福祉の関係者が顔の見える関係を作って、地域の状況を共有して、できるところから始める事が大事なのだと思います。京都市では、入居後の見守りに加えて、今年度から、家賃や改修費の補助もモデル的に始めています。
これから10年の間に一人暮らしの高齢者世帯は100万世帯増えると見込まれています。一人暮らしでも所得が低くても、誰もが安心して住まいを確保できるよう、どう住宅セーフティーネット制度を生かすのか。国やそれぞれの自治体の姿勢が問われているのだと思います。

(飯野 奈津子 解説委員)

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