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「女性自衛官 活躍広がる背景は?」(くらし☆解説)

増田 剛  解説委員

こんにちは。くらし☆解説の時間です。
きょうのテーマは、「女性自衛官 活躍広がる背景は」です。

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政治・安全保障担当の増田解説委員に聞きます。
Q1)
増田さん、最近、自衛隊で働く女性が増えているようですね。
A1)
はい。自衛隊というと、「男の職場」というイメージが強いと思うんですが、最近は、女性の積極的な登用が進められています。
例えば、ことし8月、初の女性の戦闘機パイロットが誕生しました。宮崎県の航空自衛隊新田原基地に所属する松島美紗2等空尉です。これは、F15戦闘機の訓練課程の修了式の映像ですね。
防衛省は、ちょうど3年前の2015年11月、それまで男性に限ってきた戦闘機パイロットを女性に開放する方針を決めました。
これを受け、松島さんは、おととしから、戦闘機の操縦訓練に取り組できました。戦闘機パイロットは、自衛隊の花形とされていますが、精神的にも肉体的にも負担が大きい任務です。
超高速で旋回する機内では、最大で体重の9倍の重力がかかり、その中で操縦棹を引き上げるのは、男性でも相当な腕力が必要なんです。松島さんは、身長1メートル59センチと小柄ですが、そうした作業を支障なく行うことができるそうです。
「小学校の時に映画の『トップガン』を見て以来、戦闘機のパイロットに憧れていました。後に続く女性のためにも努力を続け、職責を全うしたい」。

Q2)
戦闘機のパイロット、厳しい任務ですよね。ようやく女性に開放されたということですが、まだ女性に開放されていない任務もあるんですよね。
A2)
あります。海上自衛隊の潜水艦の乗組員です。
ただ、この潜水艦についても、性別による配置制限を撤廃する方向で現在、検討が進められています。

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潜水艦は、海中に潜航して、敵に存在を知られないようにする。隠密行動が鉄則です。乗組員はおよそ70人。1か月以上、海中で活動することもあり、密閉された空間で、長期間の集団生活を送ります。
女性用の部屋もトイレもなく、シャワーを浴びる際の脱衣所もありませんでした。ただ、それでも、女性の志願者がいるということで、現在、扉や仕切りを新たに作って、性別に配慮した居住空間を設けることができるかどうか、検討を進めています。
潜水艦が女性に開放されることになれば、自衛隊の性別による配置制限は、事実上、全廃されることになります。

Q3)
これまで男性に限られてきた任務に、女性の登用を進めていくのは、なぜなんでしょうか。
A3)
ひとつには、女性の軍事への登用が、国際的な流れになっていることがあります。
2000年に国連安全保障理事会が採択した決議1325号。女性と平和・安全保障を関連づけた初の国連決議とされ、紛争予防・紛争解決・紛争後の平和構築という全ての段階で、女性の積極的な参画を進めるよう要請しています。過去の幾多の国際紛争で、多くの女性が深刻な被害を受けたことをふまえたもので、そのようなことが起こらないよう、軍事組織の意思決定に関わるポジションに女性を積極的に登用するよう促したものです。

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軍事組織とジェンダーに関する研究をしている一橋大学大学院の佐藤文香教授は、自衛隊での女性の登用推進も、こうした国際的な潮流を強く意識したものだと指摘しています。その上で、「自衛隊の現在の取り組みは、国際的な流れからみれば、普通のことで、むしろ他国に比べれば、遅れを取ってきた」と話しています。
実際、人数という点からみれば、女性自衛官は、ことし3月末現在で、1万4686人。全自衛官のおよそ6.5%です。

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一方、主要国の女性軍人の割合をみていきますと、アメリカは15.9%、フランスは15%、ドイツは11.3%となっていて、各国の軍隊に比べると、自衛隊の女性の割合は、まだまだ低い水準なんです。

Q4)
では、自衛隊は今後、女性の活躍の場を広げると同時に、女性自衛官の数そのものも増やす方針なんですね。
A4)
そうです。防衛省は、2030年までに全自衛官における女性の割合を9%以上にするという目標を掲げています。
ただ、このような女性の登用推進の動きは、必ずしも男女平等だとか、女性の権利拡大という観点からだけではないという指摘があります。

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先ほど紹介した佐藤教授は、こうした取り組みを基本的に評価するとした上で、「女性の軍事登用が進む背景には、男女平等とは異なる、組織の論理も働いている。女性を積極的に登用することで、多様性のある進歩的な組織だと、自衛隊のイメージアップを図る狙いもあるのではないか」と話しています。
また、組織の論理ということでは、女性の登用推進には、もうひとつ、事情があるんです。

Q5)
何でしょうか。
A5)
自衛隊が直面している深刻な人材不足です。少子化の影響で、自衛官の採用活動が、年々、難しくなっているんです。この状況が続けば、将来、自衛隊の運用に深刻な影響を及ぼす恐れがあるとみられています。自衛隊内で「静かな有事」といわれるゆえんです。
現状を具体的にみていきます。
自衛官候補生試験の応募者数は、2013年の3万3534人から、2017年には、2万7510人に減りました。これに伴い、自衛官候補生の採用者数は、昨年度まで4年連続で計画を下回っています。

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自衛官の定員は、現在、24万7154人ですが、現員は22万6789人、充足率は91.8%です。特に「士」と呼ばれる一番下の階級では、充足率が73.7%と、かなり低いんですよね。

Q6)
厳しい状況ですね。対策はあるんですか。
A6)
ある防衛省幹部は、「対策は四人の活用だ」と言っていました。

Q7)
「四人」ですか。
A7)
はい。語呂合わせのジョークなんですが、切羽詰った自衛隊の本音が垣間見える表現だと思うんで、あえて紹介しますね。

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「四人」とは、「婦人」「老人」「省人」「無人」を指します。
「婦人」は、これまで話してきたような女性の活用。
「老人」は、ちょっと言いすぎですが、「若ければ若いほどいい」という発想から転換して、比較的年齢の高い層を活用することです。
実際、防衛省は、先月1日から、自衛官の採用対象年齢の上限を26歳から32歳に引き上げました。定年の延長も検討しています。
省人と無人は、AIやドローンを活用し、業務や装備の省力化、無人化を進めるということです。
また、現場も、いろいろ知恵を絞っています。
さて、岩渕さん、陸海空の三自衛隊の中で、最も人材確保に苦労しているのは、どこか、わかりますか。

Q8)
え、どれでしょう。なんとなく、海上自衛隊ですかね。
A8)
当たりです。海上自衛隊なんです。それで、こうした現状に危機感を抱いた海上幕僚監部は、海上自衛隊を選ばなかった若い自衛官にアンケート調査をして、理由を調べました。

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すると、「海に出ると、携帯電話が使えない。あり得ない」という声が多かったそうです。確かに、遠洋航海などに出ると、6か月くらい、日本を離れることもありますので、その間、家族や彼女とメールもできないということなると、今の若い人には、厳しいかもしれません。それで、海上自衛隊では、ことし5月から、船の上からでもメールができるような環境を整えたということです。

Q9)
現場も必死ですね。
A9)
そうなんです。本当に必死なんです。
ただ、これまで見てきたように、少子化という大きな流れは、今後も変わらないと思います。そうした中で、解決策のひとつは、やはり、意欲と能力のある女性を自衛隊が積極的に迎え入れることだと思います。そのためにも、防衛省・自衛隊には、例えば、駐屯地での託児施設の整備だとか、女性が将来にわたって安心して任務をこなせるような仕組みを作ることが、いっそう求められると思います。 

(増田 剛 解説委員) 

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