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「どう実現する?障害者の雇用促進」(くらし☆解説)

竹内 哲哉  解説委員

中央省庁が障害者雇用の水増しをしていたことが発覚し、大きな問題になっています。背景には何があったのか、そして、どうすれば障害者雇用を進めることができるのかを考えます。

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【政府の検証委員会によって報告された水増しの実態】
Q.中央省庁の水増しが問題になっていますね。
A.障害者の雇用は障害者雇用促進法で定められており、行政機関や民間企業は、一定の割合以上の障害者を雇うことが義務付けられています。
行政機関では2.5%。民間企業では2.2%となります。
政府の検証委員会の報告書によれば、国の機関はこの数字を達成するために、法律を恣意的に解釈し、不適切な方法で“障害者”を数えていました。
そして、その数は去年6月の時点で国の8割にあたる28の機関であわせて3700人が水増しされていました。

Q.かなりの人数ですね。どうやって数えたんですか?
A.法律では原則として障害者手帳で障害の確認をするということになっていますが、それをしていなかったんです。私も持っているんですが、これですね、ここに身体障害者手帳、なかをみると障害名や障害の程度も書かれていますから、見ればすぐにどんな障害かは分かるわけです。
その確認を怠った結果、どんなことが起きていたかというと…。

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「うつ状態」や「不安障害」など精神疾患の人を手帳を確認せずに計上し、さらにその際に精神障害者ではなく身体障害者としていた。
「眼鏡などの矯正視力で0・1以下」の人を視覚障害者とすべきところを、裸眼で測定し、実際には近眼の人などを計上。
こうしたことを長い間おこなっていました。

Q.近眼の人が障害者に入っているというのは驚きますね。
A.こうした不正が二度と行われないようにするために厚生労働省はチェック機能を強化するとしています。ただ、それだけでは問題を矮小化してしまうような気がしています。

Q.チェック機能を強化すればいいという問題ではないということですね。
A.障害者雇用促進法は障害者の自立や社会参加をみんなで支えましょうという観点から作られた法律です。それにも関わらず、障害者雇用を進めてこなかったのは、障害者を支えて一緒に仕事をするという意識の欠如、さらには障害者は「働けない」「雇うのは面倒」という差別や偏見が潜在的にあったからではないかと指摘する専門家もいます。

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これは官庁だけがもっている意識ではないとも思います。雇用率の達成を義務づけられている民間企業のうち半分しか、その数値を満たしていません。

【障害者雇用を増やすためには~仕事への配慮とマッチングが必要】
Q.では、どうすれば、障害者の雇用を増やすことができるのでしょうか。
A.障害があっても、その人の障害の種類や程度に応じた配慮をしてもらえれば、仕事をすることができます。一人一人が持つ力を最大限発揮できるよう、環境を整えるということが、大事なのだと思います。
たとえば、私のような車いすだと多機能トイレの設置や職場でも自由に動ける通路の幅の確保などです。

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Q.障害が違えば、必要な配慮も変わってきますね。
A.知的障害や精神障害はより個々に即した配慮が必要になります。ある企業の例をご紹介しましょう。この企業では、まず履歴書とどういった配慮が必要なのかが書かれた書類を提出してもらい、職場体験をしてもらいます。

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そして、その仕事の様子を見て、社内にあるジョブサポートチームが障害者とその支援者と3者で面談し、本人の意向を尊重しつつ職場を決めます。たとえば人と接するのが大好きでいつも笑顔を絶やさないという人は接客に。一方で、人とのコミュニケーションはあまり得意ではないという人はなるべく人と関わらなくてもすむ職場に、という形です。

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どんな配慮が必要かの情報は、先ほどの書類から得てはいますが、実際とは違う場合もあるので働きながら見極めます。一日のスケジュールの伝達は紙で行うか、それとも口頭で一つ一つ確認が必要かということを確認していきます。

Q.仕事のマッチングや配慮の仕方を見極めることが重要なんですね。
A.そうですね。さらにここでは、ストレスがたまらないよう、定期的なヒアリングはもちろん、業務日誌を「交換日記」のように活用して、日常生活や対人関係の悩みを聞き届けられるようにしています。それを丁寧に読み解き、仕事につなげています。

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Q.仕事だけでなく日常にも目を配るんですね。
A.そうですね。生活の乱れは仕事にも影響しますからね。そして、ほかにもう一つ大事なことがあります。

Q.それは何ですか?
A.それは「達成感のある仕事」の提供です。どういうことかというと、いま行っている仕事よりも、少しだけ難しい仕事をさせる。はじめはうまくいかず失敗して落ち込んでしまっても、きちんとアフターフォローをし続ける。そして、成功に導く。こうした作業を繰り返すことで、向上心を芽生えさせ自信につなげていくというものです。

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どうしても、障害のある人に失敗させないようにという心理が働いてしまうことがありますが、腫れ物に触るような扱いだと自尊心を傷つけてしまいます。戦力として活躍してもらう、人材を育てるという意味でも大事です。

【私たちができることは?】
Q.いままで見てきた配慮ですが、正直、障害のない人にあってもいい、むしろあれば嬉しいと感じたんですが…。
A.そうですね。障害者に配慮するということは、人ときちんと向き合うことにほかなりません。適性はあっているか、どうすれば、能力を発揮できるか。そこに障害のあるなしは関係ありません。障害者が働きやすい環境を作るというのは、すべての人にとって働きやすい環境が作られることにつながります。

Q.なおさら障害者への配慮は職場全体で共有することが必要ですね。
A.とはいえ、障害のある人と接したことあるという人はまだまだ少ないでしょうから、何をどう配慮していいか分からないというのが本音だと思います。そういった方は、まず、温かい目で見守るところからのスタートしてみてはいかがでしょうか。そして、特性や性格が分かってきたら、タイミングを見て声をかけてみてください。そういった接点を少しずつ増やしていけば、自然とお互いに打ち解けることができると思います。

一方で障害のある人も努力は必要です。必要な支援は伝えるようにする。過度な要求かも、と思っても遠慮せずに相談してみるのは大切だと思います。

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Q.当たり前の人間関係を作るということですね。
A.そうですね。障害者雇用がうまくいっている会社のアンケートを見ると、障害者雇用をしたことで、
「コミュニケーションが増え職場が活性化」した、
「お互いを尊重しながら業務を遂行」するようになったという回答が数多く見受けられます。
さらに、障害者を雇ったことで、効率があがり生産力が上がったという企業もあります。これは、障害者一人一人にあった仕事を切り出すことで、仕事の棚卸につながり、「分業」体制を確立できた結果だということからでした。

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【まとめ】
今回の省庁の不正は許されないものですが、障害者雇用を見直す、いいきっかけになればと思います。障害者の能力に目を向け、いきいきと働ける職場を作れれば、おのずと障害者雇用は達成できると思います。そのときこそ、多様性を認め合う共生社会が生まれるのではないでしょうか。

(竹内 哲哉 解説委員)


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