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「なぞの惑星 水星の素顔に迫る」(くらし☆解説)

水野 倫之  解説委員

大きさは地球の半分ほど、たくさんのクレーターがある400度の灼熱の惑星・水星。その水星に向けて日本があす、ヨーロッパと協力して探査機を打ち上げます。
水星はどんな惑星で、探査で何がわかるのか、水野倫之解説委員の解説。

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あすに打ち上げが迫った水星探査機「みお」は高さ1m、幅1m80cmの八角柱で、側面には太陽の熱から内部を守るため光を反射する鏡が貼り付けられている。
ヨーロッパの探査機とともに打ち上げられて、水星の磁場や地表面の様子を協力しながら観測。
ただこの水星、少し前の教科書を見ると半分くらいしか写っていない画像が載せられている。
つい7年前まで表面の4割しか撮影できていなかった。
それは水星は地上からの観測も、探査機による観測も難しいからで、素顔がよくわかっていなかった。
観測難しいのは水星の位置が関係している。
水星は地球の内側を回る内惑星で地球から見ると太陽のすぐそばにあって、太陽が沈んだ直後に初めて姿を現す。
しかし1時間もしないうちに水星も沈んでしまって長時間観測できない。
これが素顔がよくわからない最大の理由。
そこで1970年代、火星や金星に探査機を送り込むことに成功していたアメリカで、次は水星へという機運が高まった。
ところがこれが段違いに難しいことがわかった。
火星や金星より倍以上のエネルギーが必要だから。
地球から打ち上げられた探査機が火星に向かうには、秒速3キロ分だけ加速して軌道を広げてやればよいが、水星へ向かう場合、探査機は逆噴射で急ブレーキをかけて減速しなければならない。そうすることで太陽の重力に引かれて軌道が内側へと変わり、水星の軌道に入ることができる。ただこの時秒速7キロ分逆噴射しなければならない。
地球からはほぼ同じ距離なのに、水星に行くには火星に向かうよりも倍以上のエネルギーが必要で、当時は探査機にこの強力なブレーキをかける能力はなかった。
そこで当時考え出されたのが天体の重力を利用する「スイングバイ」。
探査機が天体のすぐ後ろを通過すると、天体の重力に引っ張られて探査機は前に加速。
逆に天体のすぐ前を通れば、探査機は天体の重力に引き戻されてブレーキがかかる。
この減速スイングバイを使って初の水星探査機となったのがアメリカのマリナー10号。
打ち上げ後、まず金星に接近。
その重力で減速スイングバイして軌道を内側に修正し水星に接近。
その後も2回水星に接近して撮影したもののこの時は十分に接近できず全体の4割しか撮影できなかった。
もっと接近して水星の周りを回るにはさらに秒速10キロ分の減速が必要で、それが実現したのは30年も後のアメリカの探査機メッセンジャー。
スイングバイを合計6回もやって秒速10キロ分減速し、2011年にはじめて水星を回る軌道に入る事に成功。ようやくほぼ全体が撮影できた。

この2機の探査機によって素顔が徐々にわかってきた。

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こちらは水星最大の盆地で、中心にはくもの巣のような地形が見えます。
クレーターができた後、底の部分が収縮してできたと考えられている。

また水の存在も明らかに。
太陽との位置関係で北極や南極にはまったく陽があたらない部分があり、数千億トンもの水が氷の状態で閉じ込められていることがわかった。

さらに灼熱の惑星なのに硫黄やカリウムなどの揮発しやすい物質が多くあることも。実は水星は太陽から離れた場所で誕生し、その後何らかの原因で今の場所に移動してきたのではないかという説も。

そして天文学者を最も驚かせたのが、磁場の存在。
地球は内部でどろどろに溶けた鉄が対流していて、この対流で磁場が生み出されていると考えられる。
しかし水星のような小さな天体はすでに冷えきっていて内部は固体だというのが当時の常識で、実際地球より小さい火星や金星にも磁場はほとんどなく、当然水星にもないと思われていましたので驚きだった。
今も磁場を生み出しているということはその内部は冷えておらず、何らかの液体が対流するなど、いまだ活発に活動しているんではないかと考えられるようになった。そこでもっと磁場のことを詳しく調べようというのが、今回の日本の探査機「みお」の最大の目的。
「みお」に搭載された磁力計や荷電粒子の観測装置で、水星の磁場をより詳しく調べて、内部がどのような構造をしているのか、どんな物質でできているのかなど、
謎の解明に挑むことに。
「みお」はあす、ヨーロッパのロケットで打ち上げられるが、スイングバイを合計9回も行う計画で、水星到着は2025年の予定。
今回の探査で教科書がさらに詳しく書き換えられることになるのか、まずは明日の打ち上げに注目。


(水野 倫之 解説委員)



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