NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「どうなる? パート労働者の年金」(くらし☆解説)

藤野 優子  解説委員

パートで働く人たちの年金制度の見直し論議が今年9月から始まった。パートで働く人ももっと厚生年金に入って、将来の年金を増やせるようにしようという見直し。
今回はどのような内容になりそうかをみていく。

k181004_01.jpg

【相次ぐ制度改正】
2年前も制度が見直されたが、その時は大企業でパートで働く人の一部だけに事実上限定された。それで、今度はもっと対象者を広げようとしている。

【なぜ厚生年金の加入者を増やそうとしているのか】
加入する年金によって大きな違いがあるから。
年金制度は、自営業の人たちが入る国民年金と、会社勤めのサラリーマンなどが入る厚生年金がある。

k181004_02.jpg

国民年金は、自営業なので、定年もなくずっと働ける人たちのための年金としてつくられたので、生活費を補助する程度の年金額で設計されている。このため、毎月支払う保険料は原則みな1万6千円。受取る年金も少なく、満額でも一人当たりひと月65000円。
一方、厚生年金の方は、定年のある会社勤めのサラリーマンのための年金。いつまでも働けるわけではないということで、退職後の生活費の大半を賄えるように設計されている。保険料は現役時代の収入に比例して負担することになっていて、いまは年収の18.3%。そのうち半分は企業が負担する。年金額も平均でひと月14万8000円程度と比較的多い。

【パート労働者の多くは国民年金】

k181004_06.jpg

パートで働く人たちの多くはどこに入っているかというと、会社勤めだが国民年金に加入している。
なぜかというと、保険料負担が増える企業が、パートで働く人たちを厚生年金に入れることを猛反対してきたため、長年、制度の見直しがほとんど進まなかったから。パートで働きながら一家の大黒柱という人がたくさん出てきたのに、やむなく国民年金に加入せざるを得ない人が増えた。
でも、国民年金は老後の生活費を補助するための年金。これでは生活できない。しかも、就職氷河期の頃に大学を卒業した団塊ジュニア世代、いま40代を中心に、低賃金で保険料を払うことができない人も多く、そういう人はこの満額より少ない年金しか受け取れない。
加えて、今後年金は20年以上徐々に目減りしていく。国民年金はここから実質3割も目減りするという推計。

なぜ3割も目減りするかというと、
今の年金制度は、今のお年寄りの年金を、今の現役世代が支える仕組み。だが、これから現役世代が急速に減少するので、現役世代の負担が重くなり過ぎないように、年金を徐々に下げていく仕組みになった。それで、パートで働く人の多くがこのまま国民年金だと、低所得の高齢者の急増が避けられない。それで、政府は、会社勤めのパートで働く人はもっと厚生年金に加入できるよう基準を見直して、年金を少しでも増やせるようにしようとしている。

【どんな基準に見直そうとしているのか】

k181004_08.jpg

今の厚生年金の加入基準がどうなっているか説明しておくと、パート労働者でも、一週間の労働時間が概ね「30時間以上」ある人は、厚生年金に加入することが義務付けられている。
ただし、2年前の改正で、一部の人は週の労働時間が「20時間以上」あれば加入することになった。どういう人かというと▽月収が8万8千円以上ある、▽従業員が501人以上などの条件を全て満たす人。
ところが、前回大企業で働く人の一部に限定されたため、新たに加入できたのは、900万人を越えるパート労働者のうち、5%にも満たない。

k181004_09.jpg

それで、今度は▽500人以下の企業で働く人や、▽ひと月の給与が8万8千円よりも少ない人も対象に含めることなどが検討される見通し。

【厚生年金に入ると、どのくらい年金が増える?】

k181004_10.jpg

働き方によっても違いはあるが、例えば、月収8万8千円で20年働くとすると、国民(基礎)年金に加えて月9千700円の厚生年金が一生涯受け取れる。しかも、月の保険料は収入の18.3%で1万6千円となるが、半分は企業が負担するので自分の払う分は8000円に減る。

これまでの話しは厚生年金への加入でメリットが大きい人の話。
でもここからは逆に、厚生年金に加入すると新たな負担が生じるケースの話。

【パートで働きながら、夫の扶養家族の主婦の場合】

k181004_11.jpg

パートで働きながら、サラリーマンの夫の扶養家族となっている主婦にとっては、新たに保険料の負担が増える。
なぜかというと、今、こうした人は、保険料を負担せずに年金を受け取れる。
ところが、自分で厚生年金に加入すると、年金は増えるが夫の扶養から外れるため、自分で保険料を負担しないといけない。

k181004_13.jpg

また、扶養家族でなくなると、年金保険料だけでなく、医療などの保険料も新たに負担することになり、中には夫の会社からの家族手当が無くなる人もいる。
それで、負担を避けて、夫の扶養家族から外れないよう働く時間を短くおさえている人たちも多い。

子どもの学費がかかるし、日々の生活で精一杯で働き始めたという方も多いので、働く時間を抑えなくてはならない人も大勢いると思う。
でも、これからの年金は、現役世代の減少で徐々に目減りしていく。夫もこの先何があるかわからない。平均寿命の長いのは女性なので、夫に先立たれると、将来生活が苦しくなる可能性もある。
足元の家計への影響も大事だが、将来の備えという視点でもみてみることも大事。

【厚生年金に加え、現役時代の万が一の備えも】
自分で厚生年金に加入すれば、自分の厚生年金を受け取れるので年金額が一生涯にわたって増えるし、現役時代の万が一の備えもある。例えば、障害を負った時の障害年金や、病気で仕事を休んだ時には1年半、給与の3分の2の傷病手当金が受け取れる。
育児、介護で時間の制約がある人も多いので、働く時間を増やすのは難しい人も多いと思うが、働ける人は自分の老後に備えておくことも大切だと思う。また、その大前提として、政府や企業には、子育てや介護をしながらでも、もっと働きやすい環境づくりを進めることや、パートで働く人たちの賃金も今は少ないので、パートで働く人全体の賃上げを急いでほしい。

(藤野 優子 解説委員)


キーワード

関連記事