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「被害のおカネが戻ってきた! 集団訴訟制度2年」(くらし☆解説)

今井 純子  解説委員

消費者が受けた被害について、消費者に代わって国から特別の認定を受けた消費者団体が、事業者を訴え、おカネを取り戻してくれる、新しい集団訴訟制度が始まって2年。
 
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この制度のおかげで、おカネを取り戻せた、という事例が出始めています。今井解説委員。

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【おカネを取り戻せたというのは、どのような事例ですか?】
2つ紹介したいと思います。まずは健康食品です。去年、消費者庁が、明らかな根拠がないのに、運動や食事制限もしないで、飲むだけで、やせられるかのように宣伝しているのは、違法な表示だとして、16社に行政処分を出しました。ただ、国の処分は、違法な表示・宣伝はやめなさいという内容です。将来の被害を防ぐ効果はありますが、すでに被害にあったおカネが戻ってくる法的な効果はありません。

【おカネは戻ってこないのですか?】
実際には、処分を受けて、自主的に、お客さんにおカネを返した会社もありましたが、1社だけでした。そこで、消費者団体が、ウソの表示で買わせたことは、消費者契約法という法律に違反している。消費者は契約を取り消すことができるとして、残る15社に対して、
▼    商品をすでに飲んでしまった人を含めて、購入した人全員に、代金を全額返すと通知すること。
▼    そして、連絡があった消費者に、おカネを返すことを求めました。
その結果、先月までに、11社から、全面的に応じるという回答が、そして、3社から、通知はしないけれど消費者から要請があった場合、代金は返すという回答がありました。
実際、これまでに、およそ9000人におカネが返されたことが確認できたそうです。

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【残る一社は?】
回答がなく、消費者団体が対応を見守っている状況です。

【消費者団体の申し入れで、多くの人に被害のおカネがかえってきたわけですね。もうひとつは?】
シャンプーです。髪にやさしい天然由来の成分だけでできているかのように表示・宣伝していたのが、実際には、合成成分が入っていたことがわかり、販売会社が自主回収をしていました。

【自主回収だったら、いいのではないですか?】
それが、自主回収と言っても、表示を正しくしたシャンプーに交換するだけで、おカネは返してもらえないという消費者からの相談が、消費者団体にありました。合成成分が入っているシャンプーなら、そもそも高いおカネをだして買わなかったというわけです。そこで、消費者団体が販売会社に、こちらも違法な契約だから、おカネを返してほしいという人がいたら、全額返すべきだと要請したところ、一部条件はあるものの応じると回答してきました。実際におカネを返していることが確認できているということです。

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【これも、ありがたい成果ですね】
これまでは、個人、あるいは、消費者団体がいくら申し入れても、企業はなかなかおカネを返してくれませんでした。被害額が、1人あたり、数千円から数万円程度のため、泣き寝入りしていた人も多かったと見られています。今回、いずれも、裁判になる前に、企業の側から、泣き寝入りしている消費者も含めて多くの人に、「返金します」という連絡をして、実際、おカネを返したということは、画期的な成果と言っていいと思います。

【これまで応じなかったのを、なぜ、今回は、返金に応じたのか?】
申し入れをした消費者団体が、国から特別の認定を受けていて、強い権限を持っているからです。具体的には、
▼ 2つの例のように、ウソの表示で販売したというケースのほか、
▼    結婚式場を、まだ一年あるのに解約したら、高い解約料を請求された。
▼    エステを解約したら、前払いしたおカネを一切返してもらえない
こうした同じ事業者、同じ手口で、数十人以上の被害者がでているケースについて、消費者からの情報を元に、消費者団体が、自ら原告になって、おカネを返すよう、事業者を訴えることができるからです。

【それが新しい制度に基づく、強い権限ですね】
そうです。申し入れを受けた会社からみると、無視したら、訴えられるかもしれない。ですから、申し入れに正面から向き合い、裁判になる前に解決しようということになったとみられます。

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【泣き寝入りしていた人にも、おカネが戻ってくるというのは、ありがたい制度ですね】
そうです。ただ、課題も見えてきています。
ひとつは、本当に悪質な詐欺的な事業者。本来、こうした事業者ほど、どんどん訴えておカネを返してもらいたいと思うのですが、実際には、多くが事業の実態がなく自転車操業です。裁判で勝っても倒産しておカネが戻ってこないかもしれないということで、今は、対象にしにくくなってしまっています。
もうひとつは、今回の2つのケースのように裁判の前に解決することが多くなってくると、逆に制度がもたなくなる心配があるという点です。

【どういうことですか?】
この制度では、消費者団体は、裁判で勝った場合に、消費者が取り戻したお金の中から、一定の報酬が入る仕組みです。
裁判の前に解決すると、多くの消費者にとっては、裁判の手続きを踏まずに、しかも、全額おカネを取り戻せることになり、ありがたいのですが、消費者団体の側には、調査や申し入れにかかった費用も入ってこないことになります。

【おカネが戻ってきたのは、消費者団体が申し入れをしたからですよね。でも、費用は持ち出しということになるのですか?】
そうです。もともと、消費者団体の活動を支えている弁護士や大学の先生は、ほとんどが手弁当。ボランティアで制度を支えています。加えて、調査や申し入れの費用が持ち出しになると、いつまでも続けられないという指摘も上がっています。

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【ぜひ活動を続けて欲しいですが、なにかいい方法はないのでしょうか】
今、国から特別の認定をうけた「特定適格消費者団体」は、全国に3つあります。ここが、行政に代わって、消費者のおカネを取り戻している面がありますので、国が財政的に、きちんと支えることは、必要だと思います。資金的な余裕がでてくれば、もっと多く、申し入れや裁判をおこすことも可能になってくると思います。

【どんどん申し入れや裁判をして、被害のおカネを取り戻してほしいですね】
そうですね。そして、私たちにできることもあります。こうした活動を社会で支えようと、去年、「スマイル基金」という基金が発足して、一般の人や企業から寄付を募っています。活動を支えたいという方は、こちらの番号に電話をするか、ホームページで調べるかして、検討していただきたいと思います。

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【一方、被害にあって、おカネを返してほしいという人はどうしたらいいですか?】
まずは、身近な消費生活センターに相談してみてください。全国共通で(消費者ホットライン)「188」に電話をすれば導いてくれる仕組みになっています。
その上で、制度ができた後の被害の場合、この3つの消費者団体のいずれかに、情報の提供をしていただきたいと思います。すぐにではなくても、同じ事業者による被害が集まれば、申し入れや裁判につながり、自分を含め多く人の被害回復につながることも期待できます。

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被害にあったと思ったら、泣き寝入りをせずに、とにかく相談をすることが大事だと思います。

(今井 純子 解説委員)

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