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「『本人の声』から始まる 認知症にやさしいまちづくり」(くらし☆解説)

飯野 奈津子  解説委員

(岩渕) きょう9月21日は、認知症への理解を深めてもらおうと定められた世界アルツハイマーデーです。この日に因んで、きょうは認知症の人にやさしいまちづくりについて、飯野解説委員です。

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Q1 タイトルには「“本人の声”から始まる」とありますね。

A1 そうですね。その地域に暮らす認知症の人本人が何に困っているのか、耳を傾けて、まちづくりを進めることが必要だということです。本人の声を重視するようになったのは、認知症の人たちが2014年に当事者組織「日本認知症ワーキンググループ」を立ち上げて、私たち抜きに私たちのことを決めないでと訴えたことがきっかけでした。
この中で、これまで見過ごされてきた問題として提起されたのが「支援の空白期間」という問題です。医療体制が整ったこともあって認知症の初期で診断される人が増えているのに、その時期に支援がないというのです。

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これは、時間の経過と共に本人の状態がどう変化するか示したグラフです。
認知症と診断されてから、徐々に状態が悪くなっていきますが、介護保険のサービスを実際に必要となるまでの間は、支援がない空白期間になっています。この時期に必要な支援がうけられないために、不安と混乱で家に引きこもり、そのことが状態を一気に悪化させてしまっているというのです。最近の研究でも、この時期に適切な支援があれば、状態の悪化を遅らせることがわかってきています。

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Q2 適切な支援というのはどういうことですか?

A2 地域の中で認知症の人の相談に応じるとか、居場所を作って孤立させないといった支援です。まさに認知症にやさしいまちづくりで考えなければならない問題です。
この空白の期間の支援や本人の声を大事にしているという点で、私が注目しているのが、東京町田市でのとりくみです。紹介したいと思います。

注目するポイントは大きく3つあります。

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●認知症の人同士が集える場を設けていること。
●認知症の人たちが地域とつながって活き活きと過ごせる環境を整えていること。
●みんなで作り上げたまちづくりの将来ビジョンです。

Q3 まず本人同士が集える場を設けていることですね。

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A3 本人会議と呼ばれています。同じ立場の認知症のひとたちが、自らの体験や感じていること、悩みなどを話し合って、より良く生きるための知恵や心構えを共有しようというもので、身近な生活圏ごとに作られています。
今週火曜日に開かれた「認知症と共に歩む人・本人会議」では、認知症の人8人とその家族や介護関係者が参加して、日々の出来事などを報告しあっていました。
皆さん明るく話をされていましたが、ここに来るまでは、認知症と診断されたショックで自宅に閉じこもり、絶望のどん底にいたという人が少なくありません。同じ悩みをもつ仲間と出会い、心を開いて話せるようになって、元気を取り戻してきたのです。

Q4 仲間同士が集って話し合えるこうした場が地域の中に必要なのですね。
二つ目のポイントは認知症の人の地域とのつながりです。

A4 はい。本人同士話をするだけでなく、その情報を地域に発信したり、はたらくことで地域に貢献したりする場を広げようとしています。

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●本人会議のメンバーが学童保育や中学高校などに出向いて行われる認知症のミニ講座では、自らの体験を話しています。できることを大切にしているなどと話をすると、子供たちから認知症へのイメージがかわったと感想が寄せられるそうです。

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●デイサービスに通う認知症の人たちが車の販売店で展示用の車を洗って若干の報酬をもらっています。デイサービスでは、はたらきたいという本人の想いを実現しようとこうしたはたらく場を広げているということです。この取り組みを地域全体で行えるよう関係者の間で検討も進められています。

Q5 こうした形で地域に貢献できれば、認知症の人たちの自信につながりますね。

A5 前向きな認知症の人の姿をみてもらうことで、地域の中の偏見をなくすことにもつながると思います。
そして、最後のポイントがまちづくりの将来ビジョンです。自分たちが暮らすまちをどんな姿にしていきたいか、行政やNPO、民間企業だけでなく、認知症の人本人も参加して半年間話し合いを重ね出来上がりました。
認知症の人を主語とする16の文章にまとめています。

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◎私は、しごとや地域の活動を通じて、やりたいことにチャレンジし、地域や社会に貢献している。
◎私は、行きたい場所にいくことができ、きがねなく、買い物や食事を楽しむことができる。

Q6 認知症の人の願いがこもったビジョンですね。

A6 先ほど紹介した本人会議など、本人が声をあげやすい環境ができていたことが、このビジョンにつながったと思います。問題はこのビジョンをどう実現するかです。認知症の人に定期的に進み具合をチェックしてもらって、評価の低い項目を改善するための努力を続けることが、認知症にやさしいまちづくりにつながるのだと思います。

今回町田市の取り組みを取材して印象に残ったのは、認知症の人たちの笑顔が多かったことです。先ほどのデイサービスに来ている人も、仕事をするだけでなく、その日の昼食に何を食べるか、どこで食べるかも自分で決めて、押し付けられることがなく居心地がいいと笑顔でした。その笑顔が認知症の状態を維持することにつながっていると感じます。認知症は医学的に治すことはできませんが、一人ひとりのできること、やりたいことに寄り添って、力を発揮できる環境を整えることが何より重要なのだと実感しました。
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Q7 認知症の人を支える環境が大事ということですが、本人も、前向きになるために行っている工夫、何かあるのではないですか?

A7 認知症の人からきいたことをいくつかご紹介します。

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● まず、気持ちの問題です。できなくなったことを悔やまない。できることを大切にするということです。できないことがあれば、周りに手助けをお願いすればいい。自分ができることを生かして楽しむことが何より大事ということです。
●スマートフォンを使いこなす。薬の時間や外出の時間にアラームが鳴るようにしたり、忘れてならないことを写真にとったり工夫している人もいます。
●そして、認知症を受け入れて隠さないことです。勇気がいることですが、そのほうが取り繕う必要がないので楽になるといいます。
たとえば 「認知症本人です ご協力お願いします」などとかいたカードを持ち歩いて、困ったときに周りの人に助けを求めるそうです。

認知症の高齢者は2025年には700万人を超えて高齢者の5人に1人になると見込まれています。認知症になってからも自分らしく暮らし続けるために、どんな地域にしていくのか。認知症の人たち、これから認知症になるかもしれない人たちも一緒に考えていくことが必要なのだと思います。

(飯野 奈津子 解説委員)

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