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「深海探査レース 最終決戦へ」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

◆最近、深さ数千mという深海の探査が出来るロボットの開発が各国で行われている。

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深海というとダイオウイカなど不思議な生き物の世界、というイメージがありますが産業の分野でも深海探査のニーズが増しています。

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まず、海底油田やメタンハイドレートといったエネルギー開発の分野。そして、スマートフォンやハイブリッドカーにも欠かせないレアメタルなど金属資源の探査。さらに、今やインターネットやIT技術が暮らしの隅々に広がっていますが、それを支えている海底の通信ケーブルの敷設にも。
 従来は深海探査というと人が乗った大きな母船から潜水艇を下ろして調べるなどが主流で、これには時間もコストもかかりますので、もっと高速で低コストで調べられる革新的な技術が求められてきました。そこで、アメリカの財団が大手石油会社の支援を得て世界初の競技大会を企画しました。

◆どんな競技大会?

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 水深4千mの海底で24時間以内に250km2以上、大阪市やさいたま市より広い面積の地形を調べ地図を作成するというものです。地球の海の水深は平均3800mとされますから、4千m以上潜れれば広大な海域が開発可能になります。そして、これを無人で、海岸からスタートして戻ってくるまでロボットが行うという競技です。深海探査は熟練したスタッフが行っても高度な技術が必要ですし、従来の技術では1回に探査できる範囲は10km2ぐらいとされますので、250km2の地形図を丸一日で作るというのは、桁違いの難しさです。
 賞金総額が700万ドル、およそ8億円ということもあって、当初は世界各国の大学、研究機関、企業など32チームがエントリーしましたが、既に書類審査とロボットの性能試験などで2段階の選考が行われ、11月からの決勝ラウンドには8チームが挑むことになりました。
 
◆決勝ラウンドに挑むのはどこのチーム?

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 アメリカから3チーム、イギリス、ポルトガル、スイス、ドイツ、そして日本のTeam KUROSHIOです。TeamKUROSHIOは海洋研究開発機構や東京大学をはじめ、産官学の8つの組織から研究者・技術者らが集まった合同チームです。これまでのラウンドでその技術力は審査員から高く評価されています。他のチームの詳しい手の内が明らかにされないので比較は難しいですが、関係者によるとアメリカの1チームとドイツのチームはかなり強敵そうだと言います。そしてこの大会では技術に加えてどう課題に挑むかの作戦も重要になりそうです。
 
◆作戦が重要とは?

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 ルールでは、長さ12mのいわゆる海上コンテナ1つに収まればロボットは何台使ってもよいとされています。そのため、高速高性能を追求した1台のロボットで岸から深海へ往復してもよいですし、分業式で小型の潜水ロボットを沢山用意し目的の海域までは高速のドローンで運んでばらまくといった方法も考えられます。
 但し水中では電波による無線通信が通じないため多数のロボットをうまく連携させるのは難しさもあります。また地上の400倍の400気圧にもなる深海の水圧に耐える必要がありますし、高速で24時間駆動できる動力やバッテリーなどを搭載しようとすると、小型化にも限度があります。
 「何台のロボットにどんな機能を持たせて組み合わせるか?」が工夫のしどころです。
 
◆日本のチームは?

おととい(9月18日)横須賀の海洋研究開発機構で初めて決勝ラウンド用のロボットと戦略が一部公開されました。

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<自律型海中ロボットAUV-NEXT>

まずこちらが先月完成した「自律型海中ロボット」。深海でも時速8km以上というかなりの高速で移動できます。おなかの下には超音波を出すソナーが収められていて、これで海底地形を調べて地図を作ることができます。この日公開されたものの他に東京大学がもう1台同様の機能を持つロボットを作っていて、海域を半分ずつ分担すると見られます。

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<無人船(三井E&S造船「洋上中継器」)>  

そしてこの海中ロボットを現場の海域まで引っ張っていくのがこちらの「無人船」です。水中でも届く音波による通信装置を備えていて、陸上と水中を結ぶ中継点の役割もします。

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 つまり、無人船と海中ロボット2台の計3台で挑む作戦です。海中ロボットは基本的に自ら判断して動きますが、必要に応じて陸上のスタッフから無人船までは電波で、そこからは音波にして指令を送ることができます。計算上、24時間で250km2の地図作成は可能だと見込んでいます。ただし優勝できるかどうかはライバルチームの実力次第でもあります。この大会は、各チームが同時に潜って競うわけではなく同じ海域に順番にトライして成績を比較する形なので、その時の気象条件の違いなどで運不運もあります。
 チームKUROSHIOでは、昨日(9月19日)から日本近海の南海トラフなどで実際に4千メートルまで潜るテスト航海に出ています。
    
◆本番の競技会場はどこの海?

 今のところ公表されていません。事前に正確な場所がわかると時間をかけて調査して地図を作っておくことも出来るかもしれませんので。各チームには実施時期にあわせてロボットをどこに輸送するか知らされています。
 全チームがトライした後、12月に結果が発表される見込みです。

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 日本は資源が少なく深い海に囲まれた国ですから深海探査の技術は特に重要になります。チームの共同代表である海洋研究開発機構の中谷さんは、将来、企業や研究者などがパソコン上で調べたい海域をクリックすれば、即日ロボットによる無人探査が行われて海底の地形やデータが得られるような「ワンクリック・オーシャン」を実現したい、と語っていました。そうなれば幅広い産業や科学研究、防災まで様々な分野で役立つかもしれません。ですから、この大会自体ももちろん期待したいですが、これをきっかけに世界をリードするような独自の技術をさらに育てて行ってほしいと思います。

(土屋 敏之 解説委員)

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