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「夏休み明け 子どもの居場所は」(くらし☆解説)

西川 龍一  解説委員

きょうのテーマは、「夏休み明け子どもの居場所は」です。西川龍一解説委員です。

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Q1.私たちの頃は、夏休みは8月いっぱいまでというのが一般的でしたが、今はもっと早く学校が始まるところもあるようですね?

A.授業時間の確保のために、長期の休みを短くするという理由で、8月中に再開という学校が増えてきています。

Q2.となると、今、子どもたちは学校にいるということになるのではないですか?

A.そう単純ではないんです。楽しく学校に通う子どもたちがいる反面、新学期を迎えることになんとなく気持ちが乗らなかったり、憂鬱な気持ちになったりしている子どもたちも少なくないんです。学校が必ずしもすべての子どもたちにとって居心地のよい場所になっているとは限らないわけです。

Q3.どんな理由があるのですか?

A.子どもによって様々な理由があります。もちろん、長い休みで生活のリズムを崩してしまったというケース、夜更かしや朝寝を繰り返していたため、学校が始まっても早起きが出来ないという経験、私たちもありますよね。一方で、いじめなどの学校でのトラブルといった深刻な理由を抱えている子もいますし、今はそういった深刻な状況はなくても、以前いじめられた経験を新学期が近付くことで思い出してしまって学校に行きたくなくなるとか、何となく学校の雰囲気になじめないという子もいます。

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Q3.8月下旬から9月上旬の夏休み明けの前後は、子どもの自殺が多くなるという報道もありますし、子どもを持つ親御さんとしては、心配ですよね。どうしたらいいのでしょうか?

A.これが解決策というのはなかなか難しいのですが、参考になる2つのことを紹介したいと思います。1つは、▽学校以外にも居場所があることを知ること、もう1つは、▽子どものSOSを見逃さないことです。
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Q4.まず、▽学校以外にも居場所があることを知ることですか?

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A.こちらをご覧ください。フリースクールなどで組織するNPOフリースクール全国ネットワークのホームページです。フリースクールというのは、不登校の子どもたちの学習支援や体験活動などを行っている民間の施設です。「夏休み明け学校がつらくてもココがあるよ!プロジェクト」を立ち上げて、この問題に取り組んでいます。追い込まれる子どもたちを救う手立てとして、駆け込み場所でもあることを知って欲しいという思いから、こうした取り組みを始めました。今年は全国各地の20以上のフリースクールが、居場所や相談先として紹介されています。ホームページでは、子どもたちへのメッセージとして動画も載せられています。その1つを紹介します。
(VTR)「もし学校に対して苦しい気持ちがあるなら、そんな自分をいたわってあげよう」「学校に行きたくない、なぜだかわからないけどそんな思いになる」「理由がわからないと不安だよね」「あなたと同じ思いを持つ人は目に見えないようで実はたくさんいるんだ」

Q5.子どもが呼びかけているんですね。学校に行けなくて苦しい思いをしている子にはほっとするような言葉ですね?

A.そう感じる同世代の子どもは多いと思います。こうした学校以外にも子どもたちの居場所があることを知らせようという取り組みは、SNSなどを通して広がりつつあります。

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例えば、川崎市の市民グループが作ったこのステッカー。止まり木と鳥をイメージしているんですが、学校以外に平日の日中に子どもたちが立ち寄れる場所を可視化しようと、そうした場所に貼る取り組みを始めています。
こうした取り組みが広がるきっかけになったのは、3年前のこの時期にツイッターに投稿された、神奈川県鎌倉市の図書館のこのツイートでした。

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Q6.「もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほど辛い子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。」公立の図書館がこうしたツイートをしたということで、ずいぶん話題になりましたね?

A.このツイートは、リツイートが10万件を超え、大きな反響を呼びました。フリースクールの中には個別に同じような呼びかけを行っていたところがありましたが、学校以外の居場所のニーズが高いことが改めて示されたと考えられました。
その後、文部科学省でもフリースクールのように現に子どもたちの居場所になっているところを公教育の中でどう位置付けるのかという議論が進み、去年2月には、学校を休んでもよいことや学校以外の場の重要性を認めた「教育機会確保法」という法律ができました。
学校に通えない子どもたちを学校復帰させることが前提だった不登校対策も転換が図られ、文部科学省も今ではこうした立場です。ただ、こうした法律の趣旨は、必ずしも社会の中で浸透していないという指摘があります。実際、「学校に行くのが普通の子ども、行かないのは特殊な子ども」という偏見がまだまだあります。こうしたことが子どもたちを追い込むことにならないように、理解を深める必要があります。

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Q7.ほかにも居場所はあるということを知ることが重要なんですね。もう一つは、▽子どものSOSを見逃さないことでしたね?

A.そうです。子どもは明確に言葉で自分の置かれている状況を説明するのは難しいですし、「助けて」「困っている」「いじめられている」などと直接言えず、我慢する場合も多いと言われています。このため、子どものSOSは、大人が気づいてあげる必要があります。

Q8.どんな点に注意すればいいのでしょう?

A.専門家によりますと、いくつかポイントがあります。
▽「学校に行きたくない」「学校がいやだ」などと話す。
▽頭痛や腹痛、思うように身体が動かないといった身体の不調を訴える。
▽何度も肩をすくめる、咳払いをする、まばたきをする。
▽長時間繰り返し手を洗ったり、長時間風呂に入ったりする。
▽急にイライラしたり落ち込んで話さなくなったりする、逆に急に明るくなる。

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Q9.よくわかるものもありますが、「学校に行きたくない」と子どもが言い出したら、怠けていると思ってしまうような気がして難しいですね?

A.何か変化があるということを受けとめてあげると言うことだと思います。たとえば、まばたきや繰り返し手洗いをするといった変化は、はっきりしないわだかまりのようなものが身体の表現として出てきていることだということです。

Q10.そうした変化に気づいたら、どうすればいいんですか?

A.まずは、そうした子どもが「ほっとする状況」を作り出すことです。問い質すのではなく、子どもに寄り添いながら何かあったのではないかを聞いてあげる。そして辛ければ学校を休むことも選択肢の1つであることを子どもに教えてあげることが重要です。そして先ほど紹介したようなフリースクールなど子どもの支援にあたる団体などに相談することです。

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Q11.親も1人で抱え込まないということですね?

A.今週から各学校では本格的な授業が始まって、まだまだ子どもたちにとっては精神的に追い込まれる可能性がある時期が続きます。普段から重要なことではありますが、ここしばらくは、こうした子どもたちの変化を大人たちが引き受ける力がより必要です。

(西川 龍一 解説委員)


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