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「難民問題を観て考える」(くらし☆解説)

二村 伸  解説委員

UNHCR難民映画際が来月開幕します。難民にあまり馴染みがなかった日本の人たちに、難民問題に関心を持ってもらおうと国連難民高等弁務官事務所・UNHCRの駐日事務所が世界の難民に関する映画を集めて上映を始めてから、ことしで13回目を迎えました。複雑な難民問題を映画を通じて学ぶことができるうえ、心を打たれる作品も多く、毎年、大きな反響を呼んでいます。今年のテーマは「観る、という支援」、観ることで難民問題を知り考えてほしいというメッセージです。

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Q.どんな作品が上映されるのですか?

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こちらの6本です。レバノンの難民キャンプで生まれ育ったパレスチナ難民の女性がビジネスに奮闘する姿を追い続けた作品や、ミャンマーのロヒンギャ難民を追い続けた作品、イラクの避難民キャンプで障がいを抱える女の子とその家族を追った作品、これら3本ともドキュメンタリーです。父親がある日突然兵士として戦地に向かい、残された10歳の女の子の目を通して戦争の悲惨さや逃げ惑う人々の苦悩を描いたドラマもあります。
残りの2本はこれまでの映画祭で評判が高かった作品のアンコール上映で、シリア最大の激戦地アレッポで瓦礫の中から市民の救出を続けた男たちを描いたドキュメンタリーと、日本で暮らすミャンマー難民の生き様を14年かけて追い続けた作品です。

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パレスチナ難民の女性が起業に挑戦する映画「ソフラ」。
舞台はレバノンの首都ベイルート郊外。イスラエル建国によって故郷を追われたパレスチナ人が、70年も難民生活を送っています。
主人公は料理が得意なマリアムさん。イラクやシリアから来た難民たちと力を合わせながら
食事を作って車で販売することをめざします。
しかし、市民権もなく、不動産の所有も認められない難民たち。
なかなか許可が下りず、マリアムさんは奮闘します。
様々な困難を乗り越え、夢をかなえる日がきます。

Q.難民というと悲惨なイメージが強いのですが、たくましさも感じますね。

この映画は難民の女性たちの前向きな姿を描いています。レバノンにはパレスチナ難民が45万人、シリア難民は100万人もいます。難民たちは逃げた先のレバノンでも内戦の被害を受け、映画の舞台となった地区では、3年前爆弾テロで40人以上が死亡、200人以上がけがをする事件もおきました。過酷な生活を強いられてきた難民たちですが、マリアムさんのように希望を失わず夢の実現に向けて頑張っている人たちが大勢います。そうした難民たちの才能を伸ばし自立を手助けすることが難民支援で重要だということをこの映画を見てあらためて感じました。

もう1本は、ロヒンギャと呼ばれるミャンマーの少数派イスラム教徒の難民を追ったドキュメンタリー「アイ・アム・ロヒンギャ」です。

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映画に登場するのは、カナダで第二の人生を歩み始めたロヒンギャの難民14人です。
彼らは壮絶な過去のトラウマを抱えながら、演劇を通じて事実を世界に伝えようと、稽古に励んできました。犠牲になった人の分まで表現しようと本番臨みます。
ミャンマー政府はロヒンギャの人たちを不法移民だとして国籍を剥奪し、弾圧してきました。
多くの住民が軍の兵士に拷問や虐待、性的暴行を受け、隣のバングラデシュに逃げました。
舞台で少女は語ります。「暴力、虐殺、無国籍、難民、世界最悪の迫害。大統領はロヒンギャの存在を否定していますが事実ではありません。私たちは存在します。その真実を伝えたいのです」

Q.私たちが想像できないすさまじい経験をしたのですね。

ミャンマーから70万人もの住民がバングラデシュに避難してから先週でまる1年になりました。モンスーンのシーズンに入った現地では難民たちが激しい雨と戦いながらテント暮らしを余儀なくされていますが、故郷の村の復興の見通しは立たず帰還のめどは立っていません。
世界では、迫害や紛争によって家を追われた難民や国内避難民が戦後最も多い6850万人に上っていいます。今こうしている間にも、2秒に1人が新たに避難民になっているのです。映画祭を主催するUNHCRは、難民問題に関心がない人でも気軽に参加し、まずは映画を観てほしいと話しています。

Q.映画際はいつまで開かれるのでしょうか。

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来月7日から10月7日まで東京、札幌、名古屋の3都市で上映されます。事前の予約が必要ですので、こちらから申し込んでください。すでに予約がいっぱいの日もありますが、当日券もありますので、くわしいことはこちらのウェブサイトで確認してください。また、電話での問い合わせ先はこちらです。

映画ではありませんが、観るという点で今話題になっているのが、この絵本です。

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戦闘が続くイラクからから逃れた難民の一家が、途中でかわいがっていたネコと離れ離れになってしまいますが、5000キロも離れた場所で再会するストーリーで、実話をもとに作られました。

Q.実話なのですね。

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再会を果たしたときは世界中のニュースで伝えられ、それをもとにアメリカで絵本が作られ、今月日本語の絵本が出版されました。
2015年10月、一家がトルコからボートでギリシャにたどり着いたとき、ネコが行方不明に後になってしまいました。家族はネコのクントーシュを探しましたが見つかりませんでした。その後、迷子のネコを見つけたボランティアの人たちがSNSで飼い主を探した結果、4か月後に一家が移住していたノルウェーで再会を果たしました。幸せだった家族が突然、紛争や迫害に巻き込まれて住む家を終われ、家族やペットとも離れ離れになってしまうケースは少なくありません。そうした現実をこどもたちにも知ってもらいたいというのが絵本を作った理由です。映画でも絵本でも観ることによって難民の問題を考える機会としてほしいと思います。

(二村 伸 解説委員)

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