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「日韓高校生交流キャンプ」(くらし☆解説)

出石 直  解説委員

夏休みを利用して日本と韓国の高校生が交流を深める「日韓高校生交流キャンプ」についてお伝えします。担当は出石 直(いでいし・ただし)解説委員です。

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日韓高校生交流キャンプというのは初めて聞きました。どういうものなのですか?

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(出石)日本と韓国の高校生40人ずつあわせて80人が寝食を共にしながら交流を深める催しです。言葉はできなくても構いません。日本から参加する人は参加費が1万円。宿泊代や食費などはすべて主催者側が負担します。参加動機などを書いた作文で選ばれた高校生が全国から参加します。

ことしの交流キャンプは、7月29日から8月2日まで4泊5日の日程で広島市で行われました。現地で取材してきましたが、とても楽しいそして感動的な経験でした。

(岩渕)こちらがその様子ですね。

(出石)参加者は、日本人と韓国人5人ずつのグループに分かれて様々な課題に取り組んでいきます。

(岩渕)言葉はできなくても参加できるということですが、どうやってコミュニケーションをとるのでしょうか?

(出石)アニメやアイドルを通じて言葉を勉強してしゃべれる高校生もいるのですが、各グループに両方の言葉ができる先生役がひとりずつついて通訳を務めます。通訳がいなくても漢字でやりとりしたり、英語を使ったり、最近はスマートフォンのアプリケーションに翻訳ソフトがついていますので、スマホを使ってコミュニケーションをとっている子供たちもいました。見ている限り、言葉の壁はあまり感じられませんでした。

(岩渕)キャンプではどんなことをするのですか?

(出石)現地見学と宿舎での共同作業に分けられます。

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現地見学では、広島市内の平和記念資料館を訪問しました。写真や資料などの展示を見学しました。さらに戦争を経験したお年寄りから原爆が投下された時の様子や被害について話を聞きました。

(岩渕)みんな真剣な表情ですね・・・

(出石)こうした体験をしたうえで、キャンプ3日目からはグループに分かれ、「環境」「農林水産」といった与えられたテーマごとにどんなプロジェクトができるのかを一緒に考えていきます。日本と韓国の高校生が知恵を出し合って事業計画を作っていくのです。その成果を最終日に発表するのですが、前の晩は午前2時、3時まで議論をした子供達もいたそうです。

(岩渕)どんな発表だったのですか。

(出石)どれもアイディアあふれる発表でした。

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あるグループは、環境にやさしい電気自動車を開発して南北の非武装地帯で走らせPRしようという計画を発表しました。非武装地帯は、軍事境界線の両側に設けられていてほとんど人が立ち入らないため、豊かな自然が残されています。南北の融和と環境の保護を実現しようという意欲的な発表でした。

(岩渕)高校生達が自分達で考えたというのは素晴らしいですね・・・

(出石)こんな発表もありました。

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日本でも韓国でも農林水産業の人手不足が深刻です。そこで難民の人達を受け入れて農業の人手不足と難民問題を一挙に解決しようというのです。

(岩渕)今、世界が直面している問題に正面から向き合って自分達なりに解決策を見出していこうという思いが伝わってきますね・・・

(出石)キャンプの最終日には、こんなお楽しみもありました。韓国の高校生が日本の浴衣を、日本の高校生が韓国のチョゴリを着てのファッションショーです。この頃にはみんなすっかり打ち解けて一緒に写真を撮ったりゲームで遊んだりしていました。

(岩渕)皆さんの笑顔が印象的ですね。

(出石)短い間でしたけれども、新しい友達がたくさんできて本当に有意義な経験だったと思います。

(室井穣さん)
「ジオン、カンインちゃん、イ君、キム君・・・」
「今までは、とっつきにくいイメージもっていたけど、積極的に話しかけてくれて気さくな人たちで友人として話すことできました。卒業したら韓国に行こうと思っている。案内してくれるというので一緒に韓国を旅行したいです」

(ソ・イェギョさん)
「日本と交流すればもっと理解が深まると思います。
平和で良い関係が続いて欲しいです」

(岩渕)今回、実際にこのキャンプを取材してどんなことを感じましたか?

(出石)「直接体験」がいかに大切かということです。実際に相手の国に足を運んで、直接話しをすることが、お互いの理解につながるということを痛感しました。
おととしのキャンプは東日本大震災で大きな被害を受けた南三陸町で行われたのですが、準備の段階では韓国側から「放射能の影響は大丈夫か」と心配する声もあったそうです。しかし、実際に現地を訪ねて説明を受けることで、これも杞憂に終わりました。

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養殖場では水揚げされたばかりのホヤやホタテの試食もしました。自分の目で確かめることで、偏見や誤解が解けた良い例だと思います。

(岩渕)まさに“百聞は一見にしかず”ですね・・・

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(出石)こちらは日本と韓国の団体がことし共同で行った世論調査結果です。
「相手国についての情報をどうやって得ているのか」という問いでは、日韓ともに「自国のメディアを通じて」という答えが圧倒的に多く、「会話や訪問」を通じて情報を得ている人はひと桁か10%程度に留まっています。

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もうひとつデータをご紹介します。こちらは韓国を訪れた日本人と日本を訪れた韓国人の推移を示したグラフです。ご覧のように年々増えていてことしは1000万人を超える勢いです。ただその内訳を見てみますと、日本を訪れる韓国人は格安航空会社の参入や日本食ブームもあって大幅に増えているのに、韓国を訪れる日本人は一時期より減っていて今も横ばい状態です。韓国の人口は日本の4割程度ですから、これはちょっと残念な傾向だと思います。

(岩渕)日本では直接体験する機会があまり増えていないということでしょうか。

(出石)その通りです。だからこそ交流キャンプのような「直接体験が大切」だと思います。
もうひとつ、今回の交流キャンプを通じて強く感じたのは「継続は力なり」ということです。
この高校生キャンプ、14年前の2004年から毎年行われていて、これまでに参加した高校生の数はすでに2000人を超えています。キャンプをきっかけに留学をして相手の言葉を学んだり、SNSを通じてやりとりを続けたりしている人達も大勢いるということです。キャンプの卒業生は自主的にOB・OG会を組織して交流を続けていて、今回も何人かの卒業生がボランティアでキャンプの手伝いに来ていました。卒業生のなかには、日本の企業に就職した韓国人、韓国系の銀行に就職した日本人もいます。こういう経験をした若者が増えていくことが、何よりの相互理解につながるのではないでしょうか。

最後にこちらの映像をご覧ください。
(VTR)5日間のキャンプを終えて空港に向かう韓国の高校生をみんなで見送りました。
仲良くなった友達と一緒に写真を撮ったり、連絡先を交換したり、最後は抱き合って涙、涙の別れでした。

(岩渕)キャンプに参加した高校生にとって忘れられない夏休みの思い出になったことでしょうね・・・

(出石)日本と韓国、お隣どうしの国でありながら、その関係はけっして良好とは言えません。しかし、この高校生達の笑顔と涙がある限り、日韓関係の将来はけっして暗くない、必ず良い関係が築けるはずだと意を強くしました。

(出石 直 解説委員)

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