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「塀のない刑務所 その役割は」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

今年4月に愛媛県の刑務所から受刑者が脱走する事件がありました。
ここは「塀のない刑務所」とも呼ばれる「開放型施設」として知られていました。
事件を受けて法務省は、再発防止策を盛り込んだ報告書をまとめています。開放型施設の役割を紹介します。
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【開放型施設とは】
Q:「塀のない刑務所」と言うのは、どういう施設ですか。
A:文字通り高い塀を設置せず、比較的管理が緩やかな刑務所のことをこう呼んでいます。
施設に農場や工場などがあって、受刑者が集団生活をしながら作業を行っています。
こうした開放型施設は、今、全国4か所にあります。一部を除いて、多くは昭和30年代から40年代に作られました。
いずれも、態度がまじめで模範的な受刑者が選ばれるということです。

Q:この松山刑務所大井造船作業場というのは、逃走事件があった施設ですね。
A:連日、大規模な捜索が行われて、地元のイベントが中止になるなど、生活にも大きな影響が出ました。
4月末になってようやく男は広島市で身柄が確保され、逮捕されました。
私は今回、この開放型施設の取材を法務省に申請していました。で、このほど北海道の網走で取材の許可が出たので、訪ねてきました。
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【 「塀のない刑務所」その様子は】
本物の網走刑務所から少し離れたところにある網走監獄の博物館です。施設が移築、復元されて地元の観光施設になっています。この日も多くの人が訪れていました。
ただ、今回取材するのは、ここではありません。車で15分くらい離れたところです。舗装されていない道路を入っていきます。
見渡す限りの農場に到着しました。この広い場所が全部、刑務所です。ここは網走刑務所二見ケ岡農場と言います。
広さは東京ドーム76個分。向こうに見える森の先まで、刑務所の敷地なのだそうです。もちろん、塀はありません。
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Q:受刑者の人たちはどういう作業をしているのでしょう。
A:牧場では肉牛を受刑者が飼育し、地元に出荷しています。ここでは、牛のフンを運び出す作業をしていたのですが、重機を操作している人も受刑者です。
ここでは大型特殊自動車の免許やフォークリフトなどの資格の取得も可能で、出所した後の就職にもつながっているということです。
農場では、私が訪れた時は金時豆の畑で雑草を抜く作業をしていました。横についているのは刑務官です。
ここでは、馬鈴薯、小豆、ニンジンなども作っていて、刑務所での食事に使われるということです。

Q:奥で車が走っている様子が見えます。
A:国道が刑務所の敷地の中を通っているのだそうです。もちろん道路まで柵はありません。農機具も普通に置かれていて、使われています。
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そして、寮の部屋を特別に見せてもらいました。この農場にいる受刑者の数は20人ほど。全員が集団で生活をしています。
開放型施設の寮と言っても刑務所ですから、窓に鉄格子が入り、入り口にはカギがかけられます。
ただ、この部屋の中では受刑者がある程度自由に生活できるようになっているということです。

【開放型施設の大切さと意義】
Q:非常に広い施設なんですね。
A:施設には柵もないので、実際に観光客が間違えて敷地に入ってくることもあるそうです。

Q:一番心配なのは、逃走事件は起きないのか、ということです。
A:この農場では、平成に入ってから、逃走事件は1件もないそうです。私、受刑者に、開放型施設で起きた逃走事件について、どう思うか話を聞いてみました。
受刑者は「ここは外で仕事もできて、逃げる理由がありません」と話していました。
また、「自分たちが刑務所に信頼されていると思うと、裏切ることはできません」と話していました。
ここでまじめに働いて、仮釈放される日を待つほうがはるかに大事だということでした。

Q:こういう開放型施設を作る目的は何なのですか。
A:塀がある刑務所では、日常の多くが指示や強制をされます。
しかし、開放型施設では、例えばこの農場の場合、農作業の進め方の一部や、日常生活の一部は、普通の刑務所に比べると受刑者の判断に任せている部分も多いそうです。
つまり、塀がないことで、受刑者の自主性や自律を促して、社会復帰を後押しする役割があるということでした。
また、より社会に近い環境で、職業訓練を行うこともできるため、再犯防止につながる施設だということです。
ただ、取材をすると、農場では刑務官も一緒に炎天下に立って監視を行い、夜も交代で寮の近くに寝泊まりするなど、職員たちが本当に努力していることが分かりました。
現場の負担も大きいのですが、それでも更生を支援する、こうした「塀のない刑務所」が存在することの意義は、大きいと思いました。
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【松山の逃走事件はなぜ】
Q:網走では30年間逃走事件は起きていないのに、どうして、松山刑務所では逃走事件が起きたのですか。
A:法務省によると松山刑務所大井造船作業場での逃走事案は平成に入ってから6件と突出して多くなっています。法務省は今回の逃亡事件を受けて、このほど、報告書をまとめました。
それによると、松山刑務所大井造船作業場では、受刑者による自治組織が作られていました。
しかし、逃走した受刑者は、同じ受刑者の自治委員から厳しく叱責されるなどして、居場所をなくしたことなどが原因と考えられるとしています。
これを受けて法務省は、再発防止策として寮の周辺にカメラを設置するほか、刑務官による受刑者の指導や関与を強めるなどの対策をとるとしています。
ただ、過去にも同じような逃走事件が起きていること、そして地域にこれだけ大きな不安を与えたことを考えると、報告書では警備や管理など刑務所側の問題点をもう少し掘り下げてほしかったという印象も受けます。
そもそも、逃走事件に限らず、開放型施設にとって大切な点は、地元の人たちの理解が欠かせないということです。
事件を受けて、上川法務大臣が広島県尾道市を訪ねて住民にお詫びをしたり、法務省も愛媛県で会見を行ったりするなど、地元に非常に気を使っている印象を受けましたが、これも当局が、地域の理解が重要だと考えているからだと思います。
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【地域の理解と協力のため再発防止を】
Q:今も大阪で逃走事件が起きています。住民にとっては、二度と逃走事件は起きないようにしてほしいですね。
A:大阪の事件は刑務所ではなく、警察署の留置場の接見室から逃走という違いがあります。
ただ、どちらも一度逃走事件が起きると、地域に大きな不安を与えるという点では、共通しています。大阪の事件も一刻も早い解決が求められます。
政府は去年、再犯防止推進計画を決定しました。柱の1つは、個人や企業を含む民間の支援です。
地域の理解と協力を得るためには、やはり施設側は逃走を防ぐ取り組みを十分に行って、地域の信頼を得ることが、一番だと思います。

(清永 聡 解説委員)


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