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「人生100年時代 働く支援策は?」(くらし☆解説)

竹田 忠  解説委員

最近、よく聞く、人生100年時代、という言葉。
必要になるのは、できるだけ長く働く、ということのようです。
では、その働き、どうやって支えていくのか?
きょうは、働くことを巡って日本とは全く違う政策をとっている北欧の二つの国をご紹介します。

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Q1竹田さん、この人生100年、本当にそうなるんでしょうか?

A1
はい、これ、決してオーバーな表現ではなく、
次第に現実味がましている、と言うところだと思います。

まず、平均寿命を見てください。
1950年(昭和25)には、女性が61、5歳、男性が58、0歳。
それが年々伸びてきて、
今や、女性が、87歳(87、26)、男性が、81歳(81、09)です。

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国の専門機関の推計では(国立社会保障・人口問題研究所)、
今後も平均寿命はさらにのびて、およそ50年後の2065年には、
女性が91歳(91、35)となって90歳を超えます。
そして男性は85歳(84、95)になるだろうと。

そして、これはあくまで平均の寿命でして、
実際に100歳を越える人が、どんどん増えていきます。
今は、100歳以上の人は約6万8000人なのが、2065年には54万7000人にまで増えるだろうとみられています。

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Q2人生100年、本当にオーバーではない、という感じなんですね。
でも、長生きするのにかかるお金はどうすればいいんでしょう?

A2
そこが気になりますよね。
人生が長くなるといっても結局、長くなるのは、老後なんです。

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これまではよく人生80年、といわれてまして、
65歳で引退すると、老後が15年。
この15年を、年金や貯金でどうやりくりするか、
ということを考えていたわけです。
しかし、人生100年となると、老後はグッと伸びて35年。
もう人生の3分の1が老後!ということになります。

こうなると、もうこれまでの設計は通用しません。
多少の資産があったとしても、できるだけ長く働いて、少しでも収入を得る。
つまり、「生涯現役」が重要になってくるわけです。

Q3でも、それで充分な収入があればいんですが、
もともと、低収入で働いている人はどうすれはいいんでしょう?

A3
そこが重要な点です。
長く働けば働くほど、雇用格差の是正が必要になってくる。
ここが、きょうのポイントなんです。

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たとえば、年をとって再雇用になると普通、賃金は大きく下がります。
また、正規・非正規では、同じような仕事をしていても、収入に大きな差がある。
また個人で働くフリーランサーの人たちは雇用が不安定だったりする。
こうした人たちが働き続けることをどう支援するのか?
そこが重要なんです。

Q4それは、どうすればいいんですか?

A4
その解決のヒントが、実は、日本から遠く離れた北欧の国、
フィンランドとスウェーデンにある、ということで、
日本の主要なメディアが加盟する日本記者クラブが取材団を派遣しまして、
私も参加していってきました。

まず、フィンランドですが、
ここではベーシック・インカム(以下、BI)といわれる政策の実験をしています。
ベーシックは基本、インカムは所得。
つまり生活に必要な最低限の基本所得を国がみんなに配るというもので、
フィンランドでは、失業者を対象に
毎月560ユーロ、7万3000円を実験として配っています。

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フィンランドでは、
社会保障の様々な給付を行っている社会保険庁がBIの実験をしています。
役所を統括する社会保険担当相のピルッコ・マッティラさんは
実験の狙いについて、こう話します。
「経済的に厳しい人でも、ベーシックイ・インカムがあれば、
 働く意欲が持てるようになる」

実験の対象者は、失業者の中からくじで選ばれた2000人。
仕事をしてもしなくてもお金はもらえます。
つまり、働いた方が、収入が増えるので
もっと働こうという気になることを期待しているわけです。

BIを受けている、トゥオマス・ムラヤさん。
かつて大手新聞社で働いていましたが、今は失業中。

BIがあるおかけで
不定期でジャーナリストの仕事が続けられるといいます。
その上でこう話します。
「BIがあれば生活は安定する。しかしBIは、それだけで生活するには
不充分な額。仕事もがんばろうということになる」
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Q5今の感想を聞いてますと、ベーシックインカムには
一定の効果がありそうだ、ということのようですが、
日本にとってヒントはどこにあるんでしょう?

A5
結局、フィンランドで行われているBIの実験というのは、
非常に限定的なBIなんです。そこにヒントがある。
本来、BIというのは、
国民全員に無条件に、一定のお金を配る、という政策ですが、
この実験では、対象を失業者にしぼって、
低賃金の仕事でも、働いて生活できるようにお金を出している。
いわば新たな賃金補填の仕組みなんです。

日本にこういう制度はありません。
日本は仕事がなくなったり、収入がなくなると、
失業給付や、生活保護の対象になりますが、
低収入でもがんばっている人に
賃金をほてんするような制度はありません。

欧米では、多くの国が
低所得や低賃金を補填する仕組みを持っています。
(たとえば「給付つき税額控除」など)

生活保護以下の水準の収入でがんばって働いている、
いわゆるワーキングプアの人たちへの支援としてヒントになると思います。

Q6実験は今後どうなるんですか?

A6
実験は、当初の計画通り、今年年末で2年間の実験を終了する予定です。
フィンランド政府としては、
低賃金の補填をもっと効率的に行うための
別の政策(たとえばイギリスのユニバーサル・クレジットなど)を検討中で、
試考錯誤が続いている、ということだと思います。

Q7そして、もう一つの取り組みというのは?

A7
もう一つは、スウェーデンで行われている
“積極的労働市場政策”といわれる政策です。
これは一言でいうと、
「企業は守らず、働くヒトを守る」といわれる政策です。
どういうものかというと、
経営難が続いている企業は、たとえ大企業であっても、国は助けない。
むしろ勢いのある外資に買収してもらい、
高い賃金を払ってもらおうというぐらいです。

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一方、国は、失業者に対しては、
手厚い職業訓練や再就職を支援して
より条件のいい仕事につけるようにする。
日本は、雇用を維持するためには
まず企業を助ける、という考え方ですから、発想が全く違います。

Q8たとえば、どういう事例があるんですか?

A8
たとえばスウェーデンを代表する車メーカーだった、ボルボやサーブ。
いずれも経営難の末に外資に身売りされました。
でもその結果、スウェーデンは日本よりも高い経済成長を実現しています。
この政策について労使双方に聞いてみました。

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ホワイトカラーの労働組合、
ユニオネンのマルティン・リンデル委員長は、
「赤字企業は倒産させて、労働力を成長分野に移すべきだ」
スゴイ発言です。
“労働力を移す”というのは、
言い換えれば労働者が大量に失業して、転職するということです。
日本の組合の人が聞いたら、驚くような発言です。
でもその方が、労働者にとって、より良い職場につくことができ、
プラスになるという確信があってこそ、できる発言です。

一方、日本の経団連にあたる、
産業連盟のペーテル・イェプソン副会長は
「我々は、国際競争に勝たねばならない。
 そのために、ダメな経営者には、退場してもらう」
これもビックリです。
経営者団体みずからが、このような厳しい発言をする。

人口1000万足らずの小国にとって
働く人や、働く環境を守ることこそが、
国の力の源泉なのだという、強い共通認識が感じられます。

人生100年時代、生涯現役を実現するために、
日本では、働く人や働く環境をどう支えていくべきなのか
大きな議論が必要だと思います。

(竹田 忠 解説委員)

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