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「遺産相続 どう変わる?」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

7月、民法が改正され、相続制度が大幅に見直されました。私たちにかかわる遺産相続見直しのポイントについてお伝えします。
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Q:遺産相続のどういう点が見直されたのでしょうか。
A:変更点は数多くあります。ただ、高齢者に関連する制度、それから住まいに関する制度がいくつか設けられたのが今回の特徴だと思います。相続制度の大幅な見直しは実におよそ40年ぶりだそうです。

まずは今の、法律上の遺産相続がどうなっているかを例で見てみます。
夫婦と子供の場合です。もし遺言を残さないまま、夫が3000万円を残して亡くなれば、法律上の相続分は、妻と子供で半分ずつになります。つまりこの場合ですと、残された妻が1500万円。子供に1500万円です。
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(ケース1「配偶者居住権」)
ところが、もしこの3000万円が、評価額2000万円の自宅と、預貯金1000万円だったら2人で同じ金額にできません。もし妻が残された家を相続するとすれば、預貯金は全額子供に行く計算です。
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Q:それでも子供の相続分が少ないですね。
A:これは家の評価額が、取り分を上回ってしまうからです。もちろん話し合って双方が納得すれば、平等でなくても構いません。しかし、調停などになった場合は、平等にするため妻が息子に500万円を支払って解決するということもあるそうです。
Q:遺産相続したのに、お金を払うことになるのですね。では、家を売却して平等にすればいいのではないでしょうか。
A:実際にそういうケースもよくあります。ただ、そうすると現金は受け取れますが、今度は妻が住む場所を失います。いま高齢者の一人暮らしで住まいを見つけるのは難しいといいます。
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そこで今回の法改正で、従来の「所有権」とは別に「配偶者居住権」という新しい権利が作られました。配偶者に限って遺産に属する建物に暮らしていた場合、引き続き住み続けることができる権利です。
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この「配偶者居住権」がいくらになるのかは、ケースによっても大きく異なります。ここでは、わかりやすくするため、あくまで一例として配偶者居住権を1000万円、所有権を1000万円にしてみました。住宅の相続の金額は同じですから、預貯金も半分の500万円ずつです。奥さんは住み続けることができて、子供は所有権を持つことができます。
いずれも、遺産相続のトラブルで高齢者が住まいを失うことがないようにする狙いです。ただ子供からみれば、所有権があっても、自由に売却できないケースも出ますから、不満に感じることがあるかもしれません。
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(ケース2「生前贈与」)
続いて生前贈与などのケースです。最初は同じで評価額2000万円の自宅と預貯金が1000万円ありました。ところが、この家を夫が亡くなる前、妻に生前贈与していました。

Q:つまり残された遺産は、預貯金1000万円だけですね。これを二人でわけるのでしょうか。
A:これまでは違いました。生前贈与された自宅も、遺産分割の対象に含めて計算するとされていました。
これだと先ほどのように、平等にするためには自宅を売却しないといけなくなるケースも出てきます。
そこで、結婚して20年以上になる配偶者は、生前贈与された住宅を遺産分割の対象にしない、いわば優遇措置を設けます。
こうなると、自宅はそのまま。預貯金1000万円を500万円ずつ分け合うことになります。
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Q:これは結婚して20年以上の配偶者が対象ということですが、事実婚の夫婦などはどうなるのですか。
A:事実婚や同性婚のカップルは対象になりません。また結婚して20年にならない夫婦もやはり対象になりません。「配偶者居住権」も法律上結婚している配偶者が対象です。こうした条件が付いていることに対しては、批判の声も出ています。
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(ケース3「介護した人にも遺産を」)
続いてこのようなケースです。ある高齢の男性。奥さんはすでに亡くなって一人暮らしです。子供は男女2人ですが、長男も病死していて、健在なのは長女1人です。
ところが男性は病気で介護が必要になりました。そのときに、長女ではなく、病死した長男の妻が、男性を介護しました。その期間10年間。毎日毎日、義理のお父さんの家に行って、欠かさず世話をしてきました。
そして、男性が亡くなります。そうすると、介護をしてきた長男の妻は、法律上の相続人である法定相続人にはなりません。

Q:遺産はどうなるのですか。
A:遺言などが残されていないと、このケースでは法律上は長女のところに遺産が行きます。
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そこで、導入されたのが、介護や看病で貢献をした人には、相続人に金銭を請求できる仕組みです。
これは検討の段階では、親族以外も対象にすべきではないかという意見がありました。ただ、そうなると、近所の人や友人など「私も介護をしていた」「私も世話をしていた」と主張する人が次々と現れて、新たなトラブルになりかねません。
このため、改正された法律では、「相続人以外の親族」が対象になりました。その金額は、家庭裁判所で個別に検討されることになるため、今後はいくらが妥当なのかをめぐって新たな争いになるかもしれません。また、遺産を理由に介護の押し付け合いにならないようにする必要があります。
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(内助の功に手厚く?)
Q:全体的に、結婚して長年連れ添った夫婦とか、介護をした親族など、家族を支えた人への支援が手厚い印象ですね。
A:これはもともと法律上結婚して残された配偶者を優遇するという考えから検討が始まったからです。たしかに特に一人暮らしの高齢者の介護や住まいをどうするかは大きな課題です。しかしそれは、法律上結婚しているかどうかにかかわりません。

Q:事実婚の人や、高齢になってから結婚したという人もいると思います。
A:戦後、家族の姿は時代によって大きく変わり、今は多様化しています。

紹介した制度の中では、配偶者居住権は再来年までにスタートする見通しです。また、そのほかの多く項目は来年までに開始するということです。
できるだけ幅広く対象に含めることができるように、今後も検討を進めてほしいと思います。

(清永 聡 解説委員)

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