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「荒廃農地をワイン畑に」(くらし☆解説)

合瀬 宏毅  解説委員

こんにちは。くらし☆解説です。「荒廃農地をワイン畑に」。日本でのワインブームを追い風に、荒廃した農地をワインぶどう畑に変えようという地域があります。担当は合瀬(おおせ)解説委員です。

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Q. 荒廃した農地、たくさんあると言うことですか?
我が国には、米や野菜を作る農業用地が全体でおよそ450万ヘクタールあるのですが、農家の高齢化や後継者不足で年々、使われない農地が増えている。耕作放棄地と呼ばれるそうした農地、すでに42万ヘクタールと富山県に匹敵する面積にまで広がっている。
耕作放棄地は使われずにもったいないだけでなく、放置すると害虫の発生源となるなり周りの迷惑ともなります。
地域としては、新たな作物を植えて農地をどう再利用するか。これが大きな課題となっている。そこで今日はその解決策としてワイン作りに取り組む地域を見てみたいと思う。

Qワインですか。
 ここは、長野県東御市にあるワイナリーです。南向きの斜面が広がるこの地域では20年ほど前からワイン作りが始まり、地区がワイン特区を取得。ワインの製造免許が比較的容易にとれるようになり、今では6軒のワイナリーがここでブドウを栽培し、ワインを製造しています。
どのワイナリーも比較的小規模ですが、ワイナリーを結ぶバスも定期運行され、ここだけでも年間4万人の観光客が訪れます。

Q,ワイナリーを訪ねるのは楽しみですよね。
東御市ではいま、ワイン作りが町の活性化にもつながるとして、32ヘクタール、東京ドーム7個分にあたる耕作放棄地を、ワイン畑に作り直しています。
かつてこの地区は養蚕業が盛んで、カイコの餌となる桑畑が広がっていました。しかし養蚕業が衰退するにつれ、桑を栽培する人は減少、農地は長い間荒廃したままになっていました。
そこで注目したのがワインです。市と県では2年前から総工費10億円をかけてここを、ワインブドウ畑用に造成。ブドウ畑が完成すれば十数万本のワインがここで製造され、国内でも大きな産地になることが期待されています。

Q.東京ドーム7個分のワイン畑とはすごいですね。
 ここに東御市で作られたワインを並べてみました。いずれも個性的なワインで従業員数人の小規模なワイナリーで作られています。

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実は、こうした地元のブドウを使った日本ワインの人気高まっている。国税庁が調べた日本ワインの出荷量は平成28年に年間1万5800キロリットルと、3年前と比べる10%以上増えている。
国内では地域のワインを好んで使うレストランが増え、海外のコンクールに入賞するワインも数多く出てきている。日本のワインの評価は高くなってきている。

Q.それはなぜですか?
醸造技術の向上など理由はいろいろあるのだが、一番大きいのは、原料となる、ぶどうが変わったことだとされている。
ワインの美味しさは、8割がブドウの品質で決まるとされている。ところが、これまで国内で作られていたワイン、甲州などの専用種はともかく、多くは生食用として作られたブドウなどを使ったり、ワインには適していないブドウを使ったものが多かった。

Q.それが変わってきたということですか?
はい。10年ほど前から日本在来の専用種の改良や、ヨーロッパなどからの品種の導入が進み、ブドウの品種が格段に向上してきた。そしてそうしたワインをブドウから作りたいとする個人の人たちが増えている。

Q.とは言っても、ワインを一から作るのは大変ですよね。
そうですよね。なによりワインのことをよく知らなければなりません。
こちらは、ワイン作りを目指す人を対象にした施設です。国などの支援を受けて地元のワイナリーが4年前に作りました。
受講しているのは全国から集まった26人で、一年間をかけて、ブドウ栽培の技術から醸造、ワイナリーの経営などワイン作りの全てを学んでいきます。この日は世界のワインがいま何を目指しているのか、土の質だけでなく天候や、醸造の方法をワインの味から探ろうという授業が行われていました。
「いますでに夫婦でブドウ作りを始めたところ」「農業経験ゼロで農家に飛び込みました」「ゆくゆくは5年では難しいが10年くらいではじめられたらいいなと。やる気だけはありますので」

Q.ワイン作り人気なんですね
 そうですね。この施設では、すでに60人を超える人がワイン作りを学び、半数以上が実際にブドウ作りに取り組んでいます。卒業生の一人、星野勇馬さんです。およそ1.2ヘクタールの農地に、ピノノワールなどのヨーロッパ種のブドウを栽培、今年初めてワインを仕込みます。
星野さんがここでブドウ作りを始めたのは3年前。京都の大学病院で医師をやっていましたが、ワインに魅せられ、どうしても自分で作りたくなって東御市に移住しました。全国各地で畑を探しましたが、東御市での支援の厚さが背中を押してくれたと言います。
 「ワインを作るという意味では有数の適地。住民が果樹やブドウに対する理解が深く、ブドウを始めたい人には敷居が低い土地」

Q.決断にもびっくりだが、農業を始める人への環境が整っているということでしょうか?
 はい。ワインを作りたい人たちを支える様々なサポートを用意している。例えばJAの新規就農者受け入れ事業です。

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地元のJAが立ち上げたのは、実際の農作業の研修を行う農業法人で、ここではブドウ作りを目指す人を雇って2年間の研修を行います。研修中は給料も出ますし、独立する際には、作業で使っていた畑を貸し出し、住宅も斡旋。ブドウ苗もJAが用意します。

Q.ずいぶん手厚いですね。
よそから移住し、新たにブドウ作りを行おうとする人が最も苦労するのは、農地探しです。土地にゆかりのない人に農地を貸してくれる農家はまずいません。新規就農者にとっては魅力的な事業なのです。

Q.どうしてJAはそこまでやるのですか?
背景にあるのは農家の高齢化と、増え続ける耕作放棄地です。組合員が減り農業が衰退すれば、農産物を取り扱うJAも衰退する。農協にとっては死活問題なのです。

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農業を活性化するためには、農業をやりたいという人を積極的に呼び込む必要があります。研修を担当する農業法人の船田寿夫さんは「ワイン作りは地域にとって未来の産業。農業を衰退させないためにも新規就農者を支援しなければならない」と話していました。

Q.ただ、個人が飛び込むのはなかなか難しいですよね。
そうですね。ワインを作るためには資金も必要ですし、農業には天候リスクもあります。なによりワインのことをよく知っていなければなりません。
ただ、それを乗り越えてここで様々な人がいろんな種類のワインを作ってくれれば、外国のワイン産地のように観光客も集まってきます。それは地域の活性化にもつながる。
 農家を支援しながら耕作放棄地の問題を解決し、地域活性化につなげる。東御市での取り組みは全国から注目されています。

(合瀬 宏毅 解説委員)


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