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「『ゲーム依存症』が病気に」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

◇WHO・世界保健機関が、“ゲーム依存症”を病気にするということだが?

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 6月18日、WHOがICD(国際疾病分類)と呼ばれるガイドラインを28年ぶりに改訂する最終案をまとめました。その中で「ゲーム障害」、いわゆるゲーム依存症を初めて病気のひとつであると位置づけました。病気の名前やその基準が国によってまちまちだと統計をとって比較することもできませんので、その基準になっているのがICDです。
 正式には来年のWHO総会で採択されることになりますが、今回の改訂案で精神などの病気の1つとして、従来からあったアルコールやギャンブルなどの依存症と並んでゲーム依存症が盛り込まれました。

◇どれぐらいゲームに熱中すると「ゲーム依存症」?

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 ゲーム障害とされる基準になるのは、「ゲームの時間や頻度をコントロールできない」「日常生活でゲームを最優先する」「(仕事や生活に)問題がおきてもやめられない」、そして、「こうした状態が1年以上」続いている場合としています。

◇具体的にはどんなケース?

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 2011年に国内初の「ネット依存外来」を始めた、国立病院機構・久里浜医療センター(神奈川県)の症例です。
 ある中学生の男子は、中学入学後にゲーム機で行うネットゲームに熱中し始め、中2からは夜更かしで遅刻が目立つようになりました。そして、冬休みには昼夜逆転で1日十数時間も続けるようになり、3学期には不登校になりました。中3になって初めて保護者に連れられ受診しましたが、その時は既に体重が減って栄養失調状態でした。また、白癬菌、つまり水虫などと同様の菌にも感染していました。
 一方で大人でも深刻化するケースは沢山あります。26歳の会社員の男性は、就職してからスマホのゲームに熱中し始めました。特にレアアイテムを手に入れるためのいわゆる「ガチャ」=一種のくじに夢中になり、その課金が年間650万円と本人の収入の2倍にも膨れあがりました。それでも自分で抑えることができず、両親の年金で補う状況になったと言います。

◇ゲーム依存症は海外にも?

 世界的に問題になってきており、例えば日本以上にネットゲームが盛んな韓国では、何日もの間ゲームを続けた男性がいわゆるエコノミークラス症候群で死亡するなどの問題も起きています。

◇ゲーム依存症を病気とすることには反対の声も?

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 日本のゲーム会社も多く加盟しているアメリカの業界団体ESAは、WHOの発表のあった日に「ゲーム障害について客観的な証拠はない」として見直しを求める見解を表明しました。
 またこうした業界の反対とは別に、社会的に困った状態にあるからと言ってむやみに病気と決めつけるべきではない、という考え方もあります。社会システムが専門の東京工業大学・出口弘教授は、何らかの理由があってゲームに没入するようになった人に病気というレッテルを貼ることには問題があるし、本質的な解決にならないのではないかと指摘しています。これは例えば、学校になじめずにゲームの世界が心の支えになっていたという生徒に、それは病気で治さなければならないとゲーム機を取り上げてやめさせても、別の問題が起きるだけと言うことも考えられます。ちゃんとその人に向き合うことが前提で、ゲームに熱中すること自体が悪いとか異常だといった偏見につなげないことは大事だと思います。
 一方で深刻なゲーム依存症は、健康を損ねたり生活が破綻してしまうケースがあるのも事実ですから、それに対するなんらかの治療や支援は必要だと思います。

◇治療はどういうことをする?

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 久里浜医療センターでは例えばこんな取り組みをしています。
 まず、問診や体の状態・脳機能などの検査を行った上で、本人にどれぐらいゲームをしているのか行動記録をつけてもらいます。「これだけ時間を取られて仕事や勉強の時間がなくなっている」とか「食事も抜いて体力が落ちてきた」など、問題を本人に気付いてもらうことが大切だと言います。その上で、ここはゲーム時間を減らせるかもしれないという所をみつけて目標を設定します。最初は例えば「食事中だけはしない」「布団に入ったらしない」など、出来る目標から始めます。
 定期的に通院して半日ほどの改善プログラムに取り組んでもらうこともあります。そこでは、例えば卓球などのスポーツや絵を描くなど、ネットゲームから離れた時間に楽しみを見いだす活動をします。また、ゲーム依存症になる背景に人間関係やコミュニケーションがうまく行かずゲームに没入するようになったケースも多いということで、患者同士で話し合ったり、臨床心理士と対人コミュニケーションの練習をすることもあります。
 これまで1千人ほどに治療を行ってきましたが、なかなか依存から抜けられない人が少なくないと言います。ゲーム依存症の治療法は世界的にもまだ確立したものはありませんし、そもそもまだ病気として扱われていないため、治療を受けられる医療機関も全国に数えるほどしか無い状況です。

◇治療や予防がもっと進んでほしい

 WHOが病気と扱うことで期待されているのもまさにその点で、これを機に治療法・予防法の研究開発が進むことや支援策の充実が望まれます。

◇子供がゲームばかりして心配だという人はどうしたらいい?
   
 ゲーム依存症の基準は、問題が1年以上続いているなどかなり重度なものですが、ここまで進んでしまってから改善するのはより大変ですから、なるべくそうなる前に日頃からお子さんの状況を把握して、ゲームをしていい時間などのルール作りは本人と一緒にすることが大切なので、ぜひよく話し合ってほしいと思います。

(土屋 敏之 解説委員)

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