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「フランスで磨く文化国家ブランド」(くらし☆解説)

増田 剛  解説委員

きょうのテーマは、「フランスで磨く文化国家ブランド」です。
外交担当の増田解説委員に聞きます。

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Q1)
フランスと言うと、サッカーのワールドカップ!優勝しましたね。

A1)
はい。20年ぶり2回目の優勝、かつて「世界最強」と言われたフランス代表「レ・ブルー」の完全復活ですね。(VTR)
選手たちは、16日、パリの凱旋門の前から、中心部のシャンゼリゼ通りをパレードしました。沿道には、30万人が詰めかけ、選手たちを大歓声で迎えました。
それにワールドカップでなくても、フランスは、毎年この時期、大いに盛り上がるんです。というのは、先週末、7月14日は、フランス革命記念日。1789年のこの日、パリの民衆がバスティーユ牢獄を襲撃したことがきっかけで、フランス革命が始まりました。世界史の大きな転機になった日なんですよね。

(VTR)
パリ祭と呼ばれるこの記念日には、軍事パレードが行われます。
今年は、日本とフランスが外交関係を樹立してから160年の節目の年。このため、今年のパレードには、陸上自衛隊が招待されていて、第32普通科連隊の7人が参加。日本の国旗を掲げて行進しました。

Q2)
今年は、日本とフランスにとって、特別の年なんですね。

A2)
少なくとも、日本政府はそう捉えています。
そこでこの節目の年に、フランスを舞台に、日本としては、過去最大規模の文化イベントを仕掛けたんです。
このイベント、名づけて「ジャポニスム2018」。

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ジャポニスムとは、19世紀のフランスで、浮世絵に代表される日本文化が紹介されて、ゴッホやモネなど、当時の芸術家に多大な影響を与えた現象をいいます。
日本としては、日仏160年の今年、改めて日本文化を大規模に発信することで、日本への関心を高め、フランス、そして、フランスを通じて世界各国との関係を強化する狙いがあります。
イベントは、先週12日、公式に開幕しました。来年2月まで8か月間にわたり、パリをはじめフランス各地で、日本の美術品の展示や伝統芸能の公演など67の企画が予定されています。
政府の予算はおよそ40億円で、日本文化を発信する事業としては、過去最大の規模になります。

Q3)
具体的には、どのような企画があるんですか。

A3)
はい。いくつか紹介しますと、まず、先週12日、ルーブル美術館のピラミッドの内部に、巨大なモニュメントがお目見えしました。
彫刻家の名和晃平さんが手がけたもので、高さ10メートル、紀元前のエジプトで始まったとされる金箔貼りと最新の3Dプリンターの技術を組み合わせた作品です。ルーブル美術館のまん前にあるので、観光客には、相当なインパクトがあると思います。
それに、近年、日本の美術界でブームになっている江戸時代の絵師、伊藤若冲。この伊藤若冲の大規模な展示がヨーロッパで初めて行われるほか、江戸時代、京都を中心に活躍した琳派の展覧会も行われ、俵屋宗達の国宝「風神雷神図屏風」がヨーロッパで初公開されます。

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また、尾形光琳の傑作「かきつばた図屏風」の絵柄が、パリのエッフェル塔に投影されたりします。これ、すごいですよね。

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現代文化としては、バーチャルシンガー「初音ミク」のヨーロッパ初上陸となるコンサートも開催されます。

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Q4)
いろいろありますね。これ全部、フランスで開催されるんですよね。どれくらいの数の人が来そうなんですか。

A4)
始まったばかりで、正直言って、わからないんですが、日本政府は、期間中の目標人数を100万人以上としています。

Q5)
100万人ですか。それだけ来てくれるでしょうか。

A5)
世界観光機関によりますと、フランスは、年間8000万人以上、世界で最も多くの観光客が集まる国です。
日本政府としては、フランスを訪れる各国の観光客がイベントに足を運んでくれることに期待しているわけです。

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それに、フランス国民についても、「19世紀の昔から、日本文化の最もよき理解者だ」と期待しています。
ただ、実際のところは、どうなのでしょうか。
外交官の夫とともに、2002年から2004年にかけてパリで生活し、その後も、年に1回は、フランスを訪れるという千倉真理さんに話を聞いてみました。ラジオのパーソナリティとしても活躍されている方です。
千倉さんの話では、「フランス人は、教養とか知性とかに人生の価値を置く国民性で、老若男女、日本文化に関心がある人が多いです。お年を召した方は、古都・京都の町並みとか、禅に代表される日本の精神文化とかに憧れる人が多いし、若い世代は、日本のアニメや漫画にこちらが驚くほど、詳しいです。和食も人気があるし、日本映画の評価も高い。お互い買いかぶりも含めて、日本は文化のある国で、日本人は、フランス人と同様、文化を愛する国民とみているのではないでしょうか」と話していました。

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こちらは、千倉さんが撮ったパリの街角の本屋さんの写真。日本関連のコーナーです。専門書店ではなく、普通の本屋さんだということで、一般のフランス人の日本への関心がよく表れているかと思います。

Q6)
そういう話を聞くと、本当に、フランスって、日本文化を受け入れる土壌があるんだなと思いますね。

A6)
そうですね。日本政府が、今回のイベントをフランスで企画したのも、そうした背景があります。日本文化の理解者であるフランスに、まず集中的にアピールし、文化大国フランスを通じて、世界に日本を発信するという狙いです。安倍総理は「日本外交に、新たに文化の柱を打ち立てたい」と述べています。いわゆる文化外交戦略です。

Q7)
文化外交戦略ですか。

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A7)
はい。文化外交とは、ある国家が、その国の芸術や思想などを国外に普及させ、文化的影響力を拡大する中で、国益を追求していくという対外政策です。
フランスは、この文化外交が、得意というか、力を入れていますし、実際、国の文化的イメージ、国家ブランドが高くて、世界で最も有力な国のひとつであり続けていますよね。

Q8)
日本も、それを学び取ろうとしているわけですね。

A8)
そうです。それに、この文化外交という考え方は、世界的にみても、21世紀の外交のトレンドのひとつになっていると思います。
例えば、アメリカを代表する政治学者で、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が提唱したソフトパワーという概念も、この系譜にあります。軍事力や経済力といったハードパワーで、無理やり相手の国を動かすのではなくて、その国が持つ文化や価値観といったソフトパワーの魅力でもって、相手を魅了し、自らが望む方向に動かしていくという考え方です。
ヒラリー・クリントン氏が、オバマ政権の国務長官時代に提唱したスマートパワー、軍事力に経済力と文化力を組み合わせて、外交目的を実現するという考え方も、このソフトパワーに影響を受けているというか、延長線上にあるとされています。

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Q9)
トランプ大統領は、どうなんでしょうか。

A9)
外交の世界では、トランプ大統領の出現で、こうしたトレンドはいったん収束したという見方があるのも事実ですが、ソフトパワーやスマートパワーといった用語がすたれたとしても、そうした考え方がなくなったわけではなくて、少なくとも、軍事力に頼れず、経済力にもやや陰りが見える日本のような国家にとって、文化外交そのものの重要性は、今後、ますます高まると思います。
今回のフランスでのイベントのような文化外交を促進することで、世界中のより多くの人が、日本への関心を高め、親近感を深めてくれることに期待したいと思います。

(増田 剛 解説委員)


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