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「ラグビーでアジアの支援を」(くらし☆解説)

西川 龍一  解説委員

きょうは「ラグビーでアジアの支援を」と題してお伝えします。西川龍一解説委員です。

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Q.そのラグビーでアジアを支援しようというのは、どういう取り組みなんですか?

A.こちら、「Pass it back」と名付けられた取り組みです。3年前に始まり、アジア地域のラグビーの総括団体である「アジアラグビー」とアジアの子どもたちの支援活動を続ける国際NGO「チャイルド・ファンド・ジャパン」が進めています。
子どもたちはラグビーを通じて生活に必要な社会的なスキルを身に付けます。ラグビーと言えば、パスをつないでトライを取る競技です。「Pass it Back」という名前には、参加した子どもたちが身に付けたことを元いたところにパスして返し、還元するという意味が込められています。これまでにラオス、ベトナム、フィリピンの3か国で行われ、7000人近い子どもたちが参加しているということです。

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先日、アジアの子どもたちを招いて日本で初めて茨城県龍ヶ崎市の愛宕中学校で取り組みが行われました。
この日参加したのは、ラオスとベトナム、フィリピンからやってきた17人の子どもたちです。

Q.まず何をしたのですか?

A.まずは顔合わせ。自己紹介をかねたゲームです。じゃんけんで負けた方が相手の名前を言わなければなりません。お互い話す言葉が違うので、言葉を通した意思疎通は難しいのですが、徐々に打ち解けていきます。
給食も一緒に食べました。お互い片言の英語しかしゃべれないのですが、意外と通じていました。

Q.そしてラグビーですが、ちょっと普通のラグビーとは違うようですね?

A.タグラグビーと言います。ラグビーと言えば相手を止めるタックルなんですが、タックルの代わりに腰に付けたタグと呼ばれる紐を取られたら、ボールをパスしなければならないルールです。タックルの心配がないので、子ども同士もそうですし、子どもと大人や、男女がいっしょにプレイすることもできます。小学校の授業でも取り入れられています。

Q.それなら安全ですね?でもいっしょにやるならほかのスポーツでもよさそうなのに、なぜラグビーなんですか?

A.ラグビーという競技の特性が、ほかのスポーツ以上に生活に生かせるスキルを教えるのに適していると考えられるからなんです。ラグビーは1人1人がみんなを支えなければうまくいかないスポーツです。ボールを落とすと相手ボールになりますし、ボールを前に投げられないというある意味理不尽なルールの中でボールをつなぐ必要があります。このことが、仲間が受け止めてくれると信頼してパスをしなければならない、パスをされた方も責任を持ってボールをつながないといけないという意識を育みます。参加した子どもたちは、仲間の大切さ、コミュニケーションの重要性などに気づくと言います。

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Q.確かにサッカーとは違いますね。3つの国で行っているのは、何か意味があるんですか?

A.これらの国は、貧困地域が多く、チームスポーツに参加する機会が限られる子どもたちが多いこと、とりわけこうした機会がこれまでほとんどなかった女子にも積極的に参加する機会を与えたいという狙いがあります。
こちらの女性は、今回の愛宕中学校のプログラムにタグラグビーを指導するコーチとして参加したラオス人のオンさんです。19歳のオンさんは、2年前、ラオスで行われたこの取り組みに参加したのをきっかけに取り組みを手伝うようになり、今では、ラオスのラグビー協会で働いています。ラオスでは、10代半ばで結婚する女性も多く、女性は家事や子育てに人生を費やし社会進出が広がらないと言います。オンさんは、「男女がいっしょに練習や試合をすることをきっかけに異性に対する考え方を変えることが出来、女性が社会に出ることに対する意識が変わりつつある」と話していました。

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主催したアジアラグビーのエイダ・ミルビーさんの話です。
「男子だけでなく、女子ができるゲームをやっていくことが必要。ラグビーの普及だけが目的ではなく、男女がフィフティーフィフティーで平等な権利を持つと言ったことを含めて教えていく」
この他にも、普段自分たちの国から出られないアジアの貧困層の子どもたちを国外に連れて行って異文化と触れ合わせる、いわばスポーツを通じた外交の場を作っていくことにも意義があると話していました。

Q.なかなか大きな意義を持った取り組みなんですね?

A.実は、日本でこのプログラムを行うのには、もう一つ大きな意義があります。来年日本で行われるラグビーワールドカップ、その遺産、レガシーとして、この取り組みを位置付けようというのです。

Q.レガシーというと、オリンピックでもどんなレガシーが残せるのかなどと話題になっていますね?

A.そうですね。オリンピックもそうですが、大会が終わってしまったら何も残らなかったというのでは、意味がありません。大規模な大会の開催には莫大な費用がかかることもあって、近年、その大会がどんなよいレガシーを開催地に残したのかが重要視されるようになっています。この取り組みで交流を深め、地域のリーダーとして活躍する子どもたちこそがアジア全体に残るレガシーになると言うわけです。

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ラグビーワールドカップの日本への招致活動を中心的に担ってきたアジアラグビー名誉会長の徳増浩司さんの話です。
「2019年RWCは、招致した時からアジアのためのWCとのスローガンでやってきたので、アジアのラグビーにどうやって役に立つかということを私も常に日頃考えてきているが、特にこのプログラムはこれからアジアを背負っていく子どもたちの世代にラグビーを通して社会的なスキルを身に付けさせるという点、異文化交流をできるという点で、ワールドカップに向けて大切なプログラムだと思う。WCに向けて日本とアジアの交流が深まって1人でも多くの子どもたちが立派な地域のリーダーとして育ってくれればいいと思っている。」

アジアラグビーでは、今後、この取り組みをワールドカップの試合会場がある12の都市や公認キャンプ地などでも開催したいとしています。レガシーというと、インフラの整備とか変わる町並みや新設される競技場など、とかく「もの」に目が引かれがちですが、実は形に残らないものも含むとされ、むしろその方が重要だとの考えもあります。ラグビーワールドカップが子どもたちの心に残すレガシーが今後の日本とアジアの交流に貢献していくことを期待したいと思います。

(西川 龍一 解説委員)

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