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「西日本豪雨~早めの避難と備え」(くらし☆解説)

清永 聡  解説委員

西日本を中心とした記録的な豪雨で、大きな被害が出ています。
今後の土砂災害などへの注意点や、避難を判断する防災情報、そして今後の備えについてお伝えします。

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【今回の豪雨は】
今回は被害の範囲が極めて広いのが特徴です。
1年前の九州北部豪雨では、被害がいくつかの市町村に集中したのに対して、今回は特別警報が出た地域だけでも11の府県に及んでいます。
国土交通省によると、9日の時点で、台風の被害を含め28道府県の、合わせて266か所で、土砂災害が発生しているということです。がけ崩れが197か所と最も多く、土石流などが31か所、地すべりが10か所などとなっています。まだ被害の全貌は把握できていないそうですから、数はさらに増えるとみられます。

【土砂災害の危険信号】
Q:土砂災害の恐ろしさを改めて実感します。

A:その土砂災害ですが、前兆が見られることがあります。その1つが地鳴りです。NHKでは土砂災害の前に地鳴りの音を聞いた人の証言と専門家の助言をもとに、合成音で再現しています。
平成9年の鹿児島県出水市で起きた土石流災害の1時間ほど前に聞こえた音を再現したものです。この時は、多くの人が異常な音を聞いていました。私も当時現場で取材をしていましたが、話を聞いた住民の中にも「土石流の前に石が転がるような音がした」という方がいました。山の近くにいてこういう音が聞こえたら、すぐ避難してください。

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Q:危険な兆候をとらえて被害を防ぐことにつながればいいですね。

A:土砂災害は、突然発生することが多いのですが、事前に何らかの異常が現れるケースもあります。林野庁がまとめた、山の危険信号の一覧があります。

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▼川がにごり、樹木が混ざり始めた。これは上流で山崩れが発生した可能性があります。また、雨が降り続いているのに、川の水位が下がった場合、土砂が川の水をせき止めて氾濫する危険があります。
▼わき水が増える、あるいは止まる、井戸水がにごることもあります。これらは上流の沢で災害が起きた可能があります。
▼さらに、山に亀裂が走った。石が落ちてきた。あるいは先ほど聞いたような地鳴り。これも土砂災害の前触れである可能性があります。速やかに山から離れて、早く避難するようにしてください。

【特別警報とは】
Q:今回、11府県に「特別警報」が出されました。こうした情報も避難の目安になるのでしょうか。

A:特別警報は5年前に始まった情報です。大雨の特別警報だと、過去数十年に一度の大雨の恐れがあるときに出されます。深刻な非常事態になる、あるいはすでになっている可能性があることを示す情報です。
このため、特別警報が出てから避難をしようとしても、すでに避難ができなくなっている可能性があるということを知ってください。特別警報はいわば「最後の情報」です。
大事なのはこの特別警報の前に、どれだけ事前に準備をして、早く避難できるかです。

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特別警報が出る前に、まず「注意報」そして「警報」が出ます。警報は「重大な災害が起きる恐れがある場合」。また、「土砂災害警戒情報」は「すでに大雨警報が出されている中で、土砂災害の危険がさらに高まったとき」に出されます。特別警報はさらにその上になります。

【避難の情報を知る】
Q:自治体の出す情報も避難の目安になりますよね。

A:市町村も大雨などの情報をもとに、避難に関する情報を発表します。こちらも緊急度に応じて情報を並べました。

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▼まずは「避難準備」。
▼そして「避難勧告」は今後の災害が予想されるため、速やかに避難してください。まだ大丈夫じゃないか、と思われる方もいるかもしれません。しかし、ぜひ、ここまでで避難を始めてもらいたいと思います。
▼「避難指示」。この情報が出た時には災害の危険が差し迫っています。ただちに避難するよう指示しています。この情報が出た時には、もう避難を終えていることが望ましいと思います。外に出ることが危険な場合は、建物の2階以上に上がるなど「屋内での安全確保」を図ってください。
この避難に関する情報の表現は去年から、一部変わりました。「避難指示」には「緊急」という言葉を入れて「避難指示(緊急)」としています。緊急事態で災害が切迫していることを強調しています。
また、「避難準備」は「避難準備・高齢者等避難開始」に変更しています。これは、お年寄りや障害のある方などは、より早く行動することが大切なので、この時点で、避難を始めるよう呼び掛けています。また、防災情報に注意を払い、自主的に避難することも望ましいとしています。
それぞれの情報が持つ意味をあらかじめ理解して、万が一の時には早めの対応につなげるということが大切です。

【避難に備える】
Q:私たちが身を守るためには、普段の備えも必要ですね。家庭では、何をどのくらい準備しておけばいいのでしょうか。

A:行政や防災機関がさまざまな指針を作っています。例えば、日本気象協会は、防災の情報をまとめたサイト「トクする!防災」を作成しています。

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そこでは、このように動画を使って、最低3日分の備蓄をするよう呼び掛けています。ほかにも動画やイラストを使って、わかりやすく防災への備えを呼びかけています。備蓄品については、ずっと置いておくものと、普段から使ったり食べたりするものに分けて準備してほしいと呼びかけています。

Q:ずっと置いておく備蓄品は給水タンク、カセットコンロ、簡易トイレ、それからモバイルバッテリーなどですね。普段から使うものは、食料品や薬、ウエットティッシュなどですね。避難所は食料品が準備されていないのでしょうか。

A:自治体も一定程度の食料品を備蓄しているのですが、大規模な災害が起きると、まったく足りないことがほとんどです。災害の後は道路も寸断されますから、支援物資もなかなか届きません。ですから「3日間」は自分たちで食料をまかなえるようにすることが大切です。そして避難所に行くときには、備蓄した中から、まずは最低限必要なものを持ち出すようにしてほしいということです。
日本気象協会は、備蓄品のチェックリストをダウンロードできるようにしています。こうした資料を参考にして、普段から備えを進めてほしいと思います。

避難生活を余儀なくされている人も多いと思います。西日本から東日本では、暑さも厳しくなっていますから、避難生活を続けている方々は、どうぞ体調管理にも注意してください。

(清永 聡 解説委員)


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