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「奄美・沖縄 世界遺産 再挑戦への課題」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

【中東のバーレーンで今日7月4日までユネスコの世界遺産委員会が開催。文化遺産に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が登録されたという嬉しいニュースがあった一方で、自然遺産を目ざしていた鹿児島県と沖縄県の4島については、事前に登録延期を勧告されたことを受けて、政府は世界遺産委員会にかけずに先月、推薦を取り下げた。】

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 自然遺産に推薦されていたのは、鹿児島県の奄美大島と徳之島、沖縄県の本島北部と西表島の4島にまたがる地域です。しかし、5月にユネスコの諮問機関であるIUCN国際自然保護連合から、幾つもの課題があるとして「登録の延期」を勧告されました。そこで課題をクリアした上で再推薦を目ざそうということで先月、政府が推薦を取り下げました。

【再推薦というのが出来る?】

 実は文化遺産の潜伏キリシタン関連遺産も、もともと「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」という名称でもう少し広い範囲で推薦していましたが、「キリスト教が禁じられた時期に焦点を当てるべき」と指摘され、対象を絞るなどして再推薦したことで登録につながりました。
 世界自然遺産は、貴重な自然を人類共有の財産として保全し次の世代に引き継ぐためものですが、奄美・沖縄の4島はアマミノクロウサギやヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコなど希少な動植物の宝庫として評価されていますので、再推薦で認められる可能性もあると見られます。環境省は来年2月1日の期限までに再推薦を目ざしていますが、その場合あらためて専門家による調査などを経て、最短だと翌2020年の夏に世界自然遺産に登録となります。
        
【とは言え今回、延期の勧告を受けた。どんな課題を指摘された?】

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 最大の指摘は推薦地域自体の見直しを求めるものでした。今回の推薦地は4島合わせて24もの地域に分かれていて、中でも沖縄本島北部だけで11か所、小さな飛び地もあります。これでは1つ1つの地域で十分な生態系を維持できないのではという懸念もあり、諮問機関は日本が推薦地に入れていなかったアメリカ軍北部訓練場の返還地を含めるべきだと指摘しました。北部訓練場の返還地はこの赤い部分で4000haにも及びます。これを加えると細分化された地域の幾つもの部分がつながります。そこで先月29日、政府はこの返還地の大半を国立公園にしました。現地調査の結果、既にやんばる国立公園になっている周辺地域と同様、豊かな自然があると確認したとしています。これで国が保全する枠組みに入ったわけで推薦地に含めるひとつの条件をしたと言えます。
        
【その他にはどんな課題が指摘された?】

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 幾つかありますが、中でも私が注目しているのは観光客など現地を訪れる人の増加に対応できる管理制度を作るよう指摘された点です。自然遺産の場合、登録されて観光客が増えると希少生物の生息環境が悪化したり、動物が自動車にひかれる事故も増えるなどのリスクもあります。
 例えば奄美では自動車で普通に入れる山林にもアマミノクロウサギが生息していて、夜、路上にも出てきます。ベテランのガイドさんなどが同行していればいつでも止まれるよう徐行しますが、そういう注意をしていない車も入ってきます。環境省によると去年、自動車にひかれたアマミノクロウサギの死骸が34匹確認され過去最多でした。アマミノクロウサギの死因は色々あり、野生化した猫や犬に襲われるものも多くこれも対策が必要ですが、交通事故についてはヤンバルクイナやイリオモテヤマネコでも起きています。また、立ち入る人が増えれば動植物の密猟・盗掘なども懸念されます。

【どういう対策が考えられる?】

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 参考になると思われるのが、2011年に世界自然遺産に登録された小笠原諸島の取り組みです。
先月日本返還から50年の節目を迎えた小笠原では、以前から自然を守る仕組みを官民一体になって作ってきました。
 例えば自然が特に豊かなエリアでは観光客の立入自体を制限しています。島全体が世界遺産地域になっている南島では、東京都の認定ガイドが同行するエコツアーでしか入る事ができない上、上陸できるのは1日に100人と制限されています。観光客に人気の島ですが観光事業者自らも協力して世界遺産になる前からルールを作ってきました。
 奄美・沖縄でもこうした立入制限などは検討はされていますが、まだ実現はしていません。小笠原の観光関係者からは「遺産登録されて観光客が急増してから規制しようとしても難しいのでは」という声もあります。奄美沖縄でも、どうやって希少生物の生息地に入る人や車を制限するのか?立入をチェックできるゲートの設置やガイドの資格認定など制度作りを急ぐ必要があるのではと思います。
       
【小笠原と奄美・沖縄では事情が違う点もあるのでは?】

 確かにその通りです。小笠原は東京から24時間かかる船でしか行けないため入る人を管理しやすい面があるのに対し、沖縄や奄美には飛行機で桁違いに多い観光客が訪れています。しかも、小笠原諸島の自治体は東京都小笠原村だけですが、奄美・沖縄は2つの県、12の市町村が関わるので合意形成にも時間がかかります。そういう意味では今回、地域の設定や保全策などがまだ十分とは言えない面もある中で少し拙速な推薦だったのかもしれません。
 ですから、登録延期で時間ができたことをむしろ好機と捉えて、何のために世界自然遺産をめざすのか?あらためて関係者の合意形成を進め、それぞれの地域の実情にあわせて具体的な保全策を実施して欲しいと思います。それが、再推薦の成否だけでなく次世代に貴重な自然・観光資源を残せるかのカギにもなると思います。

(土屋 敏之 解説委員)

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