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「秋田犬は世界を魅了する!?」(くらし☆解説)

増田 剛  解説委員

きょうは、最近、人気が高まっている秋田犬をめぐる話題です。
増田解説委員に聞きます。

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Q1)
増田さんは、外交や安全保障の担当ですけれど、秋田犬にも、関心があったんですね。

A1)
今も、日米の防衛大臣会談のニュース、やっていましたね。そちらが、専門だろうといわれそうですが、秋田犬にも、関心があります。
とは言っても、私が関心を持つようになったのは、ごく最近です。
先月下旬、モスクワで、安倍総理大臣とロシアのプーチン大統領の首脳会談が行われ、これについて、私も取材していたんですが、その際に、フィギュアスケートのアリーナ・ザギトワ選手に、秋田犬が贈呈されるイベントがありました。オリンピックで金メダルを取ったご褒美として、両親に秋田犬をおねだりしていたという話を聞いた日本の秋田犬保存会が贈ることにしたんです。
それで私も、「世界のアイドルがおねだりするほどの、秋田犬の魅力って何だろう」と、関心を持ったんです。
<VTR>
これが、その贈呈式の映像です。
贈られたのは、ことし2月に生まれたばかりのメスの子犬です。
ザギトワ選手は、「勝利」を意味する「マサル」と名づけました。
こちらは、外務省と協力して、イベントの実現に尽力した秋田犬保存会の遠藤会長。

安倍総理夫妻も、贈呈式に出席していました。秋田犬が、日ロ親善をアピールする外交カードになったということでしょうかね。
ザギトワ選手は、マサルの写真や動画をインターネットのSNSに投稿しています。
▽こちらは、最新の動画。おもちゃで遊んでますね。
(可愛いですね)
▽この写真には、ロシア語で「防衛」と書いてあるみたいです。
ザギトワ選手のシューズを守っているんですかね。
▽この動画では、「伏せ」を教えているみたいですね。
(マサル、ずいぶん、大きくなりましたね)
このザギトワ選手のインスタグラムのフォロワーは50万人近くにのぼりますので、秋田犬をかわいがる様子が世界中に発信されているわけです。

Q2)
可愛いですよね。秋田犬のファンが増えそうですね。

A2)
そうですね。
それに、秋田犬のファンだという世界の著名人は他にもいるんです。まず、プーチン大統領。2012年に秋田県から、「東日本大震災の被災者支援へのお礼」という名目で、メスの秋田犬を贈られました。以来、ロシアでは、大統領が飼っている犬ということで、秋田犬人気が沸騰しています。
このほか、アメリカの前の駐日大使のキャロライン・ケネディさん。秋田犬のハチ公をモデルにしたハリウッド映画に出演したリチャード・ギアさん。
現代の著名人だけではなく、古くは、三重苦で知られるヘレン・ケラーさんも、1930年代、来日した際に、秋田犬を気に入ってアメリカに連れ帰り、最初に秋田犬を飼ったアメリカ人といわれています。

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Q3)
ほんとに人気ありますね。秋田犬が、このように海外の人たちの心をとらえるのは、なぜなんでしょう。

A3)
確定的な理由は言えませんが、秋田犬には、忠犬ハチ公のイメージがあって、飼主には忠実だけれど、飼主以外の人間にべったり甘えることはないという、いわば日本的な凛々しさが、サムライのイメージと相まって、海外の人を魅了するんじゃないかという人は多いですね。

Q4)
日本的な凛々しさですか。

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A4)
はい。秋田犬は、東北地方の土着の犬が先祖で、マタギと呼ばれた猟師が狩猟に使った犬・マタギ犬が源流になります。
幕末から明治時代にかけて、秋田県では、闘犬大会が流行し、豪農や資産家が、体格の良い犬を掛け合わせました。ここからマタギ犬の大型化が始まり、今に通じる秋田犬が誕生しました。主人に忠実なマタギ犬の性質を残したまま、体格は大型化したんです。大正時代になると、日本社会の西洋化の反動として、国粋主義の運動が広がります。その結果、外国産の犬に劣らない体格と威厳を備えた秋田犬が注目され、昭和6年、日本の犬としては最初の国の天然記念物に指定されました。秋田犬が醸し出す魅力を、こうしたルーツに求めて説明する専門家は多いです。

Q5)
そうした歴史をふまえて、今、秋田犬の人気が再燃しているんですね。

A5)
そうです。そして、この人気を観光振興につなげようとしているのが、過疎化と人口減少に悩む秋田県です。海外では、アキタと言えば、秋田犬なんですね。この人気を活用しない手はないということで、県は、おととしから、「秋田犬の里」としてプロモーションを始め、ご覧のように、観光ポスターも、秋田犬をフィーチャーしています。まさにキラーコンテンツ。特に今年は、戌年ですし、ザギトワ選手の話題もありましたので、県では、これまで以上に秋田犬を前面に押し出す方針です。具体的な目標ですが、秋田県内に宿泊した人の延べ人数、平成28年の実績では、340万人でしたが、今年・平成30年は、350万人を目標にしています。このうち、外国人の延べ宿泊者数は、28年は6万7千人でしたが、今年の目標は12万5千人です。

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県の観光振興課の担当者は、「秋田犬の問い合わせは本当に多くて、目標を達成できる手応えは、十分に感じています」と話していました。

Q6)
やはり「ザギトワ効果」ですかね。

A6)
そうですね。それに、観光客からは「実際に秋田犬を見てみたい」という要望が多いこともあって、4月には、県から委託を受けた社団法人が「秋田犬ステーション」という施設をオープンしました。施設では、秋田犬を間近で見たり、一緒に写真を撮ったりできます。この施設、予想をはるかに超える人気で、先月末までに12900人、1日平均500人が訪れたそうです。今月中旬には、秋田市も「秋田犬ふれあい処」という施設をオープンさせました。ここでは、名前の通り、秋田犬に触れることができます。
そして、この秋田犬人気、秋田だけでなく、東京・渋谷にある、あの有名スポットにも、飛び火しています。

Q7)
わかりました。渋谷駅前の忠犬ハチ公像ですね。

A7)
そうです。強引なフリについてきてくれて、ありがとうございます。
やはり、秋田犬を語るには、ハチ公は欠かせません。
昭和初期、東大の教授だった主人を、毎日、渋谷駅前まで送り迎えし、主人が亡くなった後も、その死を知らず、待ち続けたという、ハチ公の物語。リチャード・ギアさん主演の映画の影響もあって、海外でも知られています。
そのせいか、渋谷を訪れる外国人は、駅前のハチ公像とスクランブル交差点をセットで観光するのが定番です。ハチ公像の前には、いつも、記念撮影の順番を待つ長い列ができています。
私も、並んでいた人に話を聞いてみましたが、「ハチの物語は、アメリカでも有名だ。ハチ公像を見れて、感動した」と話していました。

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Q8)
こんな風に、ハチ公像が脚光を浴びるのも、秋田犬の人気が高まっているからでしょうね。

A8)
そうですね。
ただ、人気が高まる秋田犬にも、課題はあります。
海外と国内の逆転現象です。
海外での秋田犬の知名度は、かつてないほど高まっていて、飼育する人も増えています。
ところが、原産国の日本では、むしろ衰退しているんですね。
愛好家の高齢化が進んでいる上、住宅事情もあって、秋田犬のような大型犬を飼う人が減っているんです。

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秋田犬の登録数を見ても、国内の登録数は、ここ40年余りで、20分の1近くに大幅に減少。一方、海外の登録数は増えていて、おととし以降は、国内を上回っています。

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いつか、日本から秋田犬が消える日が来るかもしれない。
関係者の危機感は強いです。
今回の秋田犬ブームが、こうした現状に関心を持ってもらうきっかけになり、秋田犬の保存につながれば良いと切に思います。

(増田 剛 解説委員)


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