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「これから増える? 外国人労働者」(くらし☆解説)

櫻井 玲子  解説委員

政府は今月閣議決定した経済財政運営の指針・いわゆる『骨太の方針』で外国人労働者の受け入れを拡大していくことを打ち出しました。その課題を探ります。

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【増える外国人労働者】

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外国人労働者の数、2012年から2017年のわずか5年間で、実は2倍以上に増えています。その内訳をみてみますと、多いのが「留学生」によるアルバイト。それに「技能実習生」です。この技能実習生というのは、日本で働きながら技能を身につけて、それを本国に帰ってから活用してもらう、という、元々は国際貢献を目的としたものなのです。しかし労働人口が減っている中、本来は就労を目的としていない人たちが、現実問題として、貴重な働き手としてカウントされています。日本で働いている人の50人に1人が、すでに、外国人なのです。
 
【外国人労働者政策を転換】
これまで日本は、医者や研究者、といった「高い専門性をもった人に限り、積極的に受け入れる」という方針をとってきました。しかしこれが形骸化してしまっていたのです。そこでこれを見直して、現実に起こっていることを真正面から受け止めて、きちんと制度の面でも認めた上で、外国人労働者の数を増やしていこうという方針に変わったのです。

政府は外国人労働者のための新しい在留資格を作ることにしていますが、その資格を得るには、大きくわけて2つの方法があります。

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▼1つは、業界団体が作った技能試験に合格し、日本語能力についても「生活に支障がない程度」にできること。
これまでよりも、事実上、条件を緩和した形となっています。
この条件を満たせば最長5年日本で働くことができます。
▼そしてもう1つはさきほど触れた「技能実習制度」を修了した人。
この人たちは最長5年間、日本で働いたら、本国に戻る、というルールだったのが、さらに最大5年間、滞在を延長することが可能になります。
最長で10年、日本で仕事ができるということです。

【深刻な人手不足が背景に】
こうしたしくみを導入する背景には、深刻な人手不足があります。

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日本商工会議所が今月上旬に発表した全国2600社を対象とする調査結果では、3分の2が「人手が足りていない」と回答。4年連続の悪化です。こうした中、これまでの制度では外国人労働者にもっときてもらいたくても、きてもらえないのでなんとかしてほしい、と訴える声が相次いでいました。技能実習生についても、せっかく仕事を一通り覚えてもらったのだから、本国にすぐ帰るのではなく、もう少しこのまま日本で働いていってほしい、といった経済界の要望にこたえた形です。

ただ、海外から人がどんどん入ってくることに対して戸惑いや不安を感じる方もいるかもしれません。
政府は今回の動きはあくまで「移民政策」とは違う、と強調しています。
▼家族を連れてくることを認めないことや、
▼受け入れ対象の業種も、限定することをもって、
今回の措置は「恒久的に日本で働いてもらうことを想定しているのではない」と説明しています。
受け入れを拡大する業種については、具体的には、農業や介護、建設、宿泊、造船といった人手がきわめて不足している分野が候補にあがっています。

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【労働人口の減少は構造的な問題に】
ただ、この先をみましても、少子高齢化がすすむ中、人手不足は景気の浮き沈みによる一時的な問題ではなく、構造的な問題として今後もずっと続いていくとみられます。

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実際、政府はさきほど触れた業種以外にも、例えば、小売業や自動車産業などといった業種別にどの程度、人手が必要なのか調べた上で、対象を広げることも検討しています。
外国人労働者の受け入れ拡大の議論は、遅かれ早かれ、避けて通れない、というのが実情ではないでしょうか。

【激化する外国人労働者獲得競争】
さらにいえば、実際に懸念されるのは、新しいしくみを導入しても、本当に外国人労働者に来てもらえるか?という点です。日本がドアを少し開いてみたからといって、そもそもどのくらい来てもらえるか、思惑どおりにすすむかはわかりません。というのも、日本にはたくさんの競争相手がいるからです。

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まず、アジア各国では賃金が上昇しています。ここ数年、高い経済成長のもと、インドネシアやタイ、ベトナムなどで最低賃金が引き上げられ、本国での労働者の待遇が改善しています。そんな中、わざわざ日本まで来て働く必要があるか?と考える人が増えてもおかしくはありません。

2点目として挙げられるのは、外国人労働者の受け入れで先行しているライバルがいるということです。お隣・韓国では、2004年から、外国人労働者をより幅広く受け入れる「雇用許可制」という制度を取り入れてきました。実際に働きにきた人たちのための相談窓口を設けたりすることで、一定の成果もあげています。今後の人材獲得という点で日本と競争・競合することも考えられます。

さらにこの先をみると、中国でも高齢化がすすみ、2025年には65歳以上が人口の14%以上を占めるという予測があります。介護や農業などの分野での人手不足は日本だけの現象ではなくなるとみられています。
つまり、国際的な人材争奪戦は、ますます激しさを増すことが予想されています。

【受け入れ側の環境整備が課題】
こうした中、異国の地で10年過ごすかもしれないのに、家族を連れてくることができない。あるいは日本語でのコミュニケーションも最初はうまくとれないかもしれない。こういった人たちの受け入れ環境をどう整えていくことができるか。日本語教育の充実や、地域社会との連携がこれまでにも増して必要になります。受け入れ側だけでなく働く側にも「選ぶ権利」があるだけに、日本が「働きやすい国」、「仕事をしてみたい国」として認められるかも問われそうです。

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【長期的な視野が求められる外国人労働者受け入れの拡大】
それだけに、外国人労働者の受け入れを場当り的な観点だけでおしすすめてはならない。本来であれば、女性や高齢者がより働きやすい社会にするための抜本的な構造改革をおしすすめる必要があるにもかかわらず、人手不足を一時しのぎで解消する、といったことになってはいないか。また、日本では、この数年、非正規雇用に対する規制が強まっていますが、そのかわりに外国人労働者をいれて人手不足の解消にあてる、といった安易な方向に流れてはいないか。こういった厳しい声もきかれます。
働きにくる側、受け入れる側の両方がメリットを感じられるようなしくみを作ることができるのか、議論を深めていくことが求められています。

(櫻井 玲子 解説委員)

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