NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「幼児教育・保育 どこまで無償化?」(くらし☆解説)

藤野 優子  解説委員

政府は、来年10月から実施される予定の幼児教育・保育の無償化の内容を、いわゆる「骨太の方針」に盛り込みました。
幼稚園や保育所の料金はどこまで無償化となるのか。
k180622_01.jpg

【政府がまとめた無償化の内容は?】
政府は、少子化対策のため子育て世帯の負担を軽減するといって、当初は、3~5歳までの子どもの幼稚園や認可保育所の費用を無料にすると言っていたが、待機児童が多い地域は認可外の施設を利用する子どもいるので、認可外の施設まで無償化の対象を広げる方針を決めた。

【幼稚園・認可保育所の場合】
k180622_02.jpg
◇幼稚園やこども園を利用している3歳から5歳までの子どもは2万5700円まで補助が出る。これは、幼稚園のひと月の利用料の平均額。利用料が2万5700円までのところは全額無料となるが、私立はもっと高いところも多いので、その場合はこれが上限。
◇そして、認可保育所を利用している3歳から5歳の子どもは、保育料を全て無料にするとしている。
いずれも所得制限はない。

【認可外保育施設】
k180622_03.jpg
認可外の施設を利用している場合は、ひと月3万7000円まで補助が受けられることになる。一般的に認可外の施設は認可施設より料金が高いが、認可施設を利用している人との公平性を考えて、この金額が上限となっている。
補助の対象となる施設は、いろいろある。例えば、▼東京都の認証保育所などのような自治体の独自の基準を満たした施設や▼企業の中の保育所▼24時間子どもを預かるベビーホテルも補助が受けられるとしている。また▼保育所に入れず、幼稚園で「預かり保育」(幼稚園の時間が終わった後も、延長して子どもを預かってもらう)を夕方まで利用している子どもも多いが、その場合は、幼稚園の利用料と夕方までの延長分の費用をあわせて、3万7000円までは補助が受けられる。
但し、いずれも補助を受けるには、「保育が必要だという認定」を自治体で受けることが条件。この認定は、親が仕事や病気、祖父母の介護などで、保育が必要だと認められた場合に出されるもの。これがないと、補助を受けられないので注意してほしい。

このほか、0~2歳の子どもも、住民税非課税の世帯であれば、認可・認可外いずれの施設を利用していても、無料になったり補助を受けられたりする、としている。

【実施時期】
消費税率が10%になった時から実施されることになっているので、予定通りであれば来年の10月から実施される予定。
ただ、この内容をめぐって、専門家や保護者から問題点を指摘する声が出ている。

【問題点①:安全性や質への懸念】
ひとつは、「安全性」や「質」の問題。補助の対象を、あらゆる認可外施設まで広げることに安全性や質を危惧する声が出ている。
認可外施設でも素晴らしい保育をしているところもあるが、全体的に質にばらつきがある。やはり国が税金をつかって補助を出す以上、子どもがその施設で受けられる保育の質も重視しなければならないのではないか、と指摘されている。

【政府や自治体のチェックは?】
k180622_05.jpg
一応、政府は、認可外施設の基準を満たしていることを補助の条件にするとしている。実は認可外施設にも基準があって、保育にあたる職員の3分の1以上は保育士資格をもっていること、などいくつもの項目がある。
ところが心配なのは、最初の5年は経過期間として、この認可外施設の基準を満たしていない施設も含めるとしていること。そもそも認可外施設の基準は認可基準より低い。また、ここ3年間の保育施設で起きた死亡事故の件数もグラフの通り。認可外施設の数が認可施設より圧倒的に少ないことを考えると、認可外での事故の発生率がかなり高いことが判る。それなのに、こんな経過措置を設けては、国が悪質な施設を許容することと同じだ、と専門家から懸念が出ている。

【なぜ政府は経過期間を設ける?】
認可外施設の基準を満たしてない施設が、特に夜間保育や宿泊保育が必要な子どもたちの預け先になっている実態があるため、と政府は説明している。しかし、本来なら、夜間保育も宿泊保育も、質の保証された施設を増やさなくてはならないはず。それなのに、現状は、自治体の指導を受けても改善しないまま運営を続けている施設がいくつもある。
k180622_07.jpg
一昨年も、▼保育士がいない▼複数の職員で保育をしていないなどと、何度も改善指導を受けていた東京・大田区のベビーホテルで、生後6ヶ月の女の子が死亡する事故が起きた。亡くなった女の子の親は、HPに保育士が複数いると掲載されているのをみて利用を決めたそうだが、実際、事故の時に保育士はいなかった。女の子の両親は「繰り返し指導を受けていた施設が、運営を続けることができるとは思いもしなかった」と話していた。事故後この施設は閉鎖されたが、今は劣悪な施設を排除する仕組みでさえも不十分なまま。
無償化が始まる来年秋まで一年以上の時間がある。この間に、基準を満たさない施設への指導・勧告を徹底的に強化して改善を促し、それでも悪質な施設は、保護者からも見極めがつくように、補助の対象から外したほうがいいと思う。

【問題点②・高所得者ほど厚い恩恵】
k180622_10.jpg
ふたつめの問題は、高所得者ほど恩恵を受ける内容になっていること。
幼稚園や認可保育所の利用料は、経済力に応じた負担にしようとすでに親の所得ごとに設定されている。例えば認可保育所の場合は、(自治体によって違いもあるが)無料から10万円あまりの8段階。無償化すると高所得者ほど恩恵が厚くなる(月10万円の高所得世帯まで保育料が無料になる)
それより、保育士の働く環境や待遇をもっと改善して、まずは待機児童対策を優先してほしいという保護者の声も多い。また、子育て支援全体を考えると、貧困家庭への支援や児童虐待への対応など緊急性が高いものもある。
そう考えると、より必要度の高い世帯から段階的に無償化して、他の優先順位の高い政策に財源を充てたほうがいいと思う。
今後法案の準備が進められ、年明けの国会で法案審議が行われる見通しだが、消費増税の財源を有効活用する観点からも、「質や安全性は本当にこれで大丈夫か」、「政策の優先順位は適切なのか」、もう一度、考え直す必要があると思う。

(藤野 優子 解説員)

キーワード

関連記事