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「東京に難民キャンプ?」(くらし☆解説)

二村 伸  解説委員

東京・渋谷のハチ公前。大勢の市民で賑わうこの広場に見慣れないテントが出現しました。難民キャンプで使われるテントです。6月20日の「世界難民の日」にあわせて、日本にはあまりなじみのない難民の暮らしぶりを知ってもらおうとUNHCR・国連難民高等弁務官事務所などが企画しました。第二次世界大戦後最大の危機といわれる中で、難民たちはどのような状況に置かれているのか、また、私たちは何ができるのかを考えます。

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Q.渋谷のハチ公前に難民キャンプのテントとは驚きました。

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テレビのニュースなどで伝えられる難民用のテントはもっと貧弱なものが多いのですが、これは最新型のテントです。縦横4.3メートル、高さ2.3メートルで、家族5人が生活できるサイズです。テントの中では、実際に難民たちが使う最新の調理器具も展示されました。訪れた人たちは、始めてみるテントの中でスタッフの説明に熱心に耳を傾け、実際に手に取ったりして難民たちの生活を想像していました。

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見学した人たちは、「1週間は我慢できるかもしれませんが、何年も暮らすのはとても無理です」とか、「現地の暮らしは想像がつきません。自分たちは恵まれた環境で生活しているのだと感じました」と感想を述べていました。また高校2年生の少女は、「平和な日本で生まれ、生活していると、こうしたテントで何年も暮らすのは難しいと思います。未成年なので募金は無理でも、知ることや、なぜ多くの難民がいるのか理解することが大切だと思います」と話していました。

Q.これまでのテントとは何が違うのですか?

最新のテントは紫外線を遮るビニールシートの上に、通気性が良く、悪天候にも耐えられる丈夫な覆いがかけられています。40度の暑さにも、5度の寒さにも耐えられるそうです。プライバシーが保てるように仕切りができているのも特徴です。テントを張るのも簡単だということです。この最新のテントはまだ開発されたばかりで、これから世界各地の難民キャンプで使われることになります。

Q.難民の安全を守るためにもテントは大事ですね。

日本を始めとする各国政府の拠出金や、市民の寄付によってこれらのテントが難民たちに提供されることになります。

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難民のテントといえば、粗末で狭い居住空間に大勢の人が寝泊りするイメージが強いですね。これまで取材したルワンダやソマリア、西サハラ、それにシリア難民などは劣悪な環境の中で暮らしていました。このため少しでも人間的な生活を送ってもらおうと最近は様々な工夫がこらされています。

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これはテントの中で展示されていた食器や調理器具などです。着の身着のまま逃げてきた難民たちは、鍋も食器もないため、こうした生活用品が支給されます。
「省エネかまどセット」は、熱効率がよく沸騰後も余熱で調理ができるようになっています。燃料の薪は80%節約でき、週4回の薪拾いが1回ですむようになるということです。木の伐採も減るので環境にもよいですね。
水の容器も工夫されています。難民が住む場所はやせた土地で水もない場所です。このため難民たちは水を求めて何キロも歩いかねばなりませんが、これだと運びやすいですよね。

Q.どれだけの水が入るのですか?

容量は10リットルです。女性や子どもが持てるギリギリのサイズです。難民の間では水汲みを女性や子どもが担当することが多いのですが、水のある場所が遠いと肉体的にもたいへんですし、途中で襲われる危険性もあり、水汲みは重労働で危険な作業でもあるのです。折りたたむこともできて歩くのも楽になります。

Q.様々な工夫が見られますが、それでも長期間難民生活を送るのはたいへんですね。世界の難民たちの状況は改善されているのでしょうか?

残念ながら状況は厳しいままで、難民の数も増え続けています。世界難民の日に合わせて最新の数字がUNHCRから発表されました。

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迫害や紛争によって住む家を追われ、保護を求めている人は、世界全体で6850万人に達し、戦後最悪の数字を更新しました。このうち国外に逃れた難民が2540万人、家を終われたあとも国内にとどまっている国内避難民が4000万人に上っています。去年は、1日に4万人以上、2秒に1人が新たに難民や国内避難民になった計算です。難民の認定を待っている人も310万人になりました。これほど増えたのはシリアや南スーダンの紛争が長期化し、難民が祖国に戻ることができない状態が続いている上、ミャンマーから逃れたロヒンギャ難民が増えたことが主な原因です。

Q.ロヒンギャの難民はたびたびニュースでも取上げられていますね。

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ロヒンギャはミャンマー西部のラカイン州に住む少数派のイスラム教徒です。国籍も与えられず、迫害を受け続けてきました。去年8月にミャンマーの治安当局による軍事作戦が始まってから3月間で60万人以上もの人が国境を超えてバングラデシュに逃げ込みました。住民たちの話しでは、ミャンマー軍の兵士が村を襲撃して男性を殺害、女性には性的暴行を加え、住宅に次々と火を放ったということです。難民たちは故郷に戻るめどがいまだにたっていませんが今、新たな危機に直面しています。

Q.新たな危機とは何でしょうか?

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現地では今月モンスーンのシーズンに入りました。豪雨による洪水や地すべりの危険性が高く、国連は20万人が危険にさらされていると警戒しています。ユニセフの調査ではすでに1万人が洪水や土砂災害の被害を受けているということです。また、感染症の流行なども懸念されています。危険な状況下で暮らす人たちにとって先ほどのような清潔なテントや日用品が必要となるのです。

Q.難民のために1日も早い解決が必要ですね。

難民が祖国に安心して帰ることができるようにすること、そして新たな難民がこれ以上生まれないように紛争の終結や、予防が何よりも重要です。そのためには国際社会の結束が不可欠です。国連は、ことし9月、難民の保護のための行動計画「グローバルコンパクト」の採択をめざして各国と協議を行っています。日本も国際社会の一員として、またアジアのリーダとしていっそうの貢献が求められています。

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UNHCRのヘベカー駐日代表は、「日本は世界のホットスポットから離れていますが、現地では今も紛争が続いているのです。難民のことを知り、何ができるか考えてほしい」と話しています。

Q.日本の私たちは何ができるのでしょうか?

政府やNGOにまかせきりにせず、一人ひとりいろいろな分野で貢献する方法があります。最近は民間の企業も難民支援に活発で、衣類やめがねを無償で提供したり、難民を雇用したりしています。現地では日本製の簡易トイレも活躍しています。私たち市民もできる範囲で支援していくことが大切だと思います。先日のイベントでも、大勢の市民が難民への連帯のメッセージを送っていました。それも一つの方法です。難民のために何ができるか、そのヒントを得るためにも、UNHCRのホームページを覗いてみてはいかがでしょうか。

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(二村 伸 解説委員)


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