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「急増!外国人患者 医療体制の整備急げ」(くらし☆解説)

堀家 春野  解説委員

日本を訪れる外国人観光客が増え続けています。経済的な効果が期待される一方、観光客が病気やけがをした際に受け入れる医療現場ではある2つの問題が明らかになっています。堀家春野解説委員です。

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【広がる医療費の「未収金」】

Q)2つの問題とは?

A)医療費の「未収金」と、「感染症」の問題です。
このうち、医療費の「未収金」は、治療をしても、お金を払ってもらえないという問題です。
外国人患者を受け入れた医療機関のうち、「未収金」を経験したところは全体の35%を占めています。日本を訪れる外国人観光客は急激に増え、去年は2869万人と過去最多を更新しました。今後、ますます観光客の増加が見込まれる中、「未収金」も増えるのではないか。そんな懸念が広がっています。

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Q)病気で困っている患者を治療しないわけにはいきませんが、いまでも、3分の1の医療機関が経験しているとなると、特別なことではなさそうですね。

A)そうなんです。具体的な例を見てみます。
全国でも外国人観光客が最も多い県のひとつ、沖縄県です。こちらの病院には月に300人ほどの外国人が訪れるといいます。平成17年までの3年間に発生した医療費の「未収金」は600万円を超えています。

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(ケース①)アメリカ人の観光客の女性は、転んで怪我をしたといって病院にやってきました。打撲や捻挫の治療をして、6万4000円余りの医療費を請求したところ、車から財布を取ってくるといってそのままいなくなってしまいました。
(ケース②)胸が苦しいと病院にやってきた台湾の女性は緊急手術を受け、510万円余りの医療費がかかりました。全額は払えないと、払えるだけ払って帰りましたが、いまも200万円を超える「未収金」が残っています。いずれのケースもある共通点がありました。2人とも旅行保険に入っていなかったんです。
日本では公的な医療保険がありますから、窓口で支払う自己負担はかかった医療費の1割から3割。ところが、外国人観光客は公的保険が適用されていませんから、医療費は全額自己負担。どうしても高額になってしまいます。
ただ、民間の旅行保険に入っているとある程度の医療費はカバーされ、窓口で支払わなくてもいい保険もあります。ところが、観光庁の調査によると、日本を訪れた外国人観光客のおよそ3割は旅行保険に入っていませんでした。

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【日本の“医療習慣”説明を】
Q)医療費を払わないで帰国するというのは困りますが、旅行保険に入らず日本の医療機関にかかったら、高額になってしまうことを知ってもらう必要がありますよね。

A)日本の医療のしくみや、金額について知ってもらう、そこが重要なポイントだと思います。そもそも、日本では医療の値段について事前に説明する習慣がありません。
会計の際に明細書はもらいますが、診察にいくらかかるのか、検査にいくらかかるのか、患者が事前に聞くことも、医師から説明を受けることもないのではないでしょうか。
他の国ではそうではないようです。
例えば中国では一般的に医療費は前払いだといいます。
ヨーロッパの国でもある程度の金額がわかった上で受診するといいます。

Q)それを聞くと日本が特殊なようですね。

A)医療が公的な保険でカバーされていて、医療のコストということをあまり考えないのではないかという指摘もあります。しかし、公的保険に入っていない外国人観光客の場合は違います。会計になっていきなり高額な医療費を請求されると不信感を感じることも少なくないのではないでしょうか。事前にだいたいどれ位かかるのか、医療機関側が説明することも必要だと思います。

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【国の総合対策とは】
Q)トラブルを防ぐために対策が必要ですよね。

A)外国人観光客を呼び込もうとしている中で、国は、6月14日、対策をまとめました。
▼旅行保険への加入を在外公館を通じて呼びかける。
▼医療文化や習慣の違いを理解してもらうために、医療通訳やコーディネーターの育成や配置を行う。インターネット電話を使った通訳などの活用も進めるとしています。
▼現金を使わずクレジットカードなどでも支払えるような環境を整備する。
▼さらには、過去に医療費を支払わないで帰国した人の入国を拒否するという対策も行うことにしています。

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Q)厳しい対策も含まれていますね。

A)こうした対策、例えば、EUの多くの国では、ビザが必要な国の観光客には旅行保険の加入を求めています。そして、イギリスでは過去に500ポンド、およそ7万4000円以上の医療費を払っていなければ入国を禁止しています。

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Q)外国人の患者が増えるということは、私たちが受ける医療にも影響するのでしょうか。

A)観光客の増加に伴い、患者が増えるということは当然起きることです。しかし、「未収金」もさることながら、医療機関でうまくコミュニケーションがとれないと、待ち時間が長くなる、場合によっては必要な医療がすぐ受けられなくなるといった影響も出てきますので、対策を急ぐ必要があります。

【感染症対策の課題は】
そして、もうひとつ、忘れてはならないのが感染症への対策です。
ことしの春、台湾から沖縄県を訪れた観光客から全国にはしかが広がりました。
そのときの対応から感染症対策の課題が見えてきました。
患者の男性は3月下旬、体調が悪くなって病院を訪れ、その日は入院。
翌日、台湾に帰る予定でしたが、感染を広げないため、熱が下がってから数日間は、外出を自粛してもらう必要がありました。

Q)出国する予定だったんですね。どうしたんでしょうか。

A)最初、医師が患者に説明した際、「自分がはしかにかかるはずがない」とあまり協力的ではなかったというんですね。そこをどうにか納得してもらいました。
その後、沖縄県にある台湾の領事館にあたる事務所がホテルを引き払った男性が過ごせる場所を確保してくれました。そして、この男性、格安チケットで来ていたため、日程を変えることは通常難しいんですが、医療機関が航空会社に説明して、日程を変えてもらったんです。

Q)感染症は国境を超えて入ってきますから、避けられない問題ですよね。

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A)診療にあたった医師は、今回はたまたまうまくいったケースだと話します。こうしたことを想定したガイドラインなどはなく、対策は手探りだったといいます。外出を自粛し、協力してもらったおかげで患者が観光で立ち寄った場所などもわかり、感染のおそれがある人の調査も行えました。しかし、協力を拒否されると、強制的に外出を自粛させることもできず、なすすべはなかったといいます。
今回のケースを踏まえて、外出の自粛に協力してもらえなかった場合にどうするのか、そして、宿泊費や航空券のキャンセルなどが必要になった際の費用の補償はどうするのか。
国レベルで考えなければなりません。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けますます外国人観光客は増えると見込まれています。患者を受け入れる医療側の体制整備を急ぐ必要があります。

(堀家 春野 解説委員)


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