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「どうする介護保険料 上昇がとまらない」(くらし☆解説)  

堀家 春野  解説委員

介護保険料の上昇が止まりません。5月に公表された65歳以上が支払う保険料は、全国平均で1月あたり5800円余り。介護保険制度がスタートした18年前の2倍に上っています。負担を抑えながら必要なサービスを受けるにはどうすればいいのでしょうか。

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【介護保険料 過去最高に】

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65歳以上の介護保険料は2000年に介護保険制度がスタートした時には、全国の平均で2911円。それが、5869円にまで上昇しました。
40歳から64歳までの保険料も上がっています。
サラリーマンでは、平均で5723円。労使で折半するので、実質的な負担は半分ですが、こちらもこれまでで最も高くなりました。

【介護保険料 どうやって決まる?】
65歳以上の保険料は3年ごとに見直されます。市区町村が必要な介護サービスの量を推計してそれに見合う金額を決めます。介護が必要な高齢者の数やサービスが多いか少ないかによって保険料は異なります。今回、およそ8割の自治体が保険料を引き上げました。

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最も保険料が高かったのが福島県の葛尾村で9800円。高額10位の自治体に福島の自治体が7つ入っています。一方、最も低かったのが、北海道の音威子府村の3000円。比較的規模の小さな自治体が多い傾向です。

【介護保険料 地域の実情反映】
介護保険料はその地域の実情を反映しています。

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福島県の葛尾村は保険料が高くなった理由として原発事故の影響をあげます。元々は農業が基幹産業の地域で、高齢になっても日ごろから体を動かす機会が多かったといいます。しかし、7年前の原発事故で避難を余儀なくされ、体を動かす機会が減ってしまいました。その結果、介護が必要な高齢者が増え、保険料が上昇しました。他の福島の自治体でも、原発事故の影響で生活が激変したことが、保険料に跳ね返っていると話します。
そして、10番目に保険料が高くなった大阪市。7927円は政令市の中で最も高い金額です。その理由のひとつに「1人暮らしの高齢者の増加」を挙げています。大阪市では、65歳以上の世帯のうち1人暮らしの割合は42.4%と全国平均を大きく上回っています。大阪市は、支える家族がいないため、介護サービスに頼る人が増えているのではないかと話します。一方、保険料が3000円と最も低かった北海道の音威子府村。人口700人余りと規模の小さな自治体です。サービスを使う高齢者も少ないといった事情があります。ただ、村には介護保険施設がなく、訪問リハビリといった都市部にはあるサービスがありません。村は、「選択できるサービスの少なさ」も保険料が低くなった理由としてあげています。
必要なサービスが受けられないと困る一方で、負担が余りにも重くなっていくのも避けたい。そのために、自治体は創意工夫が求められています。

【介護保険料抑える工夫は・・・】
必要なサービスを提供しつつ、負担の増え方を少しでもゆるやかにしようという試みも始まっています。介護保険料が6160円とこれまでと同じ金額に据え置いた岡山市です。

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政令市の中でデイサービスの数が最も多く、サービスの多さが需要を掘り起こし介護保険料に跳ね返っていると考えました。そこで、3年前から取り入れているのが、デイサービスの質を向上することで、元気な高齢者を増やし、介護にかかる費用を抑制しようという取り組みです。デイサービスに通うことによって高齢者の状態が改善するかどうかを評価することにしたのです。例えば、介助が無くても歩けるようになるとか、食事を自分で取れるようになるなどです。高齢者の状態が改善した事業所に対して、「成功報酬」として10万円を支給するほか、市のHPに載せていわば優良事業所としてお墨付きを与えます。
例えば、リハビリ型のデイサービスでは、利用者がマシーンを使ってトレーニングを行います。このデイサービスに通うことによって効果が出ているケースもあります。
脳出血を起こした66歳の男性は病院を退院したあとデイサービスに通い始めました。
当初は歩くのも職員の支えが必要で、バランスもあまりよくありませんでしたが、1年半後には1人で歩き、10メートルを歩く速度も5秒以上速くなりました。
リハビリの多くは医療の分野で行われてきましたが、介護の現場でもリハビリが広く導入され始めています。効果が出ているのはリハビリ型の事業所だけではありません。
「音楽療法」を取り入れているデイサービスもあります。
昔の童謡や歌謡曲など記憶を呼び覚ましながら、1時間弱、歌います。
事業所によりますと、大きな声で歌うことで、肺の機能を高めるとともに楽しむことが生活の意欲を引き出し、高齢者の状態の改善につながっているといいます。

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【国も“成功報酬”導入】
こうした取り組みを参考に、国もこの4月の介護報酬の見直しで、高齢者の状態が維持、改善したデイサービスの事業所に「成功報酬」を加算するしくみを取り入れました。
介護にかかる費用の総額を抑えていこうという狙いがあります。
このしくみ、評価する声がある一方で、そもそも状態が改善するような、要介護度が比較的軽い人を事業所が囲い込んでしまうのではないか、つまり重い人を受け入れなくなってしまうのではないかという懸念もあります。そうすると行き場を無くす人が出て、自宅で介護を担う家族の負担がますます重くなることにもつながります。介護保険制度は家族の負担を軽減するという役割もありますので、そうした事態に陥らないか注意してみていく必要があると思います。

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【本当に必要な介護サービス 議論急げ】
介護保険料は今後も上昇を続け、2025年度には7200円、2040年度には9200円に達すると見込まれています。そして、介護を担う人材も2025年度にはいまよりもさらに55万人が必要になると推計されています。

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負担が重くなる一方で、人手不足でサービスを受けられないといった事態も想定されます。人材も、そして負担できる金額にも限りがあります。だからこそ、いざというときに頼れる制度にするために、どのようなサービスが必要なのか、削減できるサービスはないのか、議論を急ぐ必要があると思います。

(堀家 春野 解説委員)

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