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「防災の国際支援はいま」(くらし☆解説)

松本 浩司  解説委員

くらし☆解説、きょうは「防災の国際支援」がテーマです。

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【映画にもなった日本の国際緊急援助隊】

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日本の国際緊急援助隊を題材にした「カトマンズの約束」という映画が去年12月、ネパール全土66の映画館で公開され、好評を博しました。9000人近くが亡くなった3年前のネパール大地震で、発生直後に現地入りした緊急援助隊による行方不明者の捜索や支援物資の提供、負傷者の治療など救援活動の様子が描かれています。

Q)この映画、どういう経緯で製作されたのでしょうか?

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A)
映画は日本人隊員とサポートをしたネパール人建築家の友情を軸に展開します。建築家を演じた俳優のガネス・マン・ラマさんは、実際にネパール大地震のとき日本の国際緊急援助隊の現地コーディネーターとして活躍しました。その体験をもとに日本人の映画監督と協力して映画が製作されました。

Q)実話がベースなんですね。国際緊急援助隊はあらためてどういう組織なのですか?

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A)
海外で大きな災害や事故が起きたときに派遣される部隊でJICA=国際協力機構が事務局です。全国の消防や警察などから集められた救助チームと医療チーム、専門家チームなどがあり、これまで80回以上派遣され、国際的にも高く評価されています。

【仙台防災枠組が求める支援】
Q)きょうは防災についての国際支援がテーマですが、国際緊急援助隊のほかにどのような支援が行われているのでしょうか?

A)
幅広く行われていますが、力を入れているのは、被害を少なくするための「事前」の取組みへの支援です。

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3年前に仙台市で開かれた国連防災世界会議で「仙台枠組」という長期目標が設定され、2030年までに災害の被害を確実に減らしていくための行動計画が示されました。

その第一段階の目標として2020年、つまり再来年までに防災計画など「具体的な防災戦略」を持つ国や自治体を増やすことが掲げられました。この目標に向けていくつもの国で支援プロジェクトが進められています。

さきほどのネパールでも「次の災害」に備える計画づくりを日本が支援するプロジェクトが先月、完了しました。

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3年前のネパール地震はマグニチュード7.8の大地震でしたが、調査で隣接する地域でも同規模の大地震が起こる恐れがあることがわかりました。そこでJICAの専門家が派遣され、震源域にあるカトマンズ盆地で想定される地震の揺れや被害をまとめました。これは建物の被害を推定した地図。赤い色が濃くなるほど被害が大きい地域です。2万2000人が死亡、13万6000棟が全壊すると推定されました。

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これをもとに、この地域にある市が防災計画を作りました。被害想定、救援や避難所など地震が起きたあとの対応に加えて、地震に強い建物を増やす長期的な町づくりの目標も示されています。ネパールの自治体でこうした防災計画ができたのは初めてだということです。

Q)日本の防災計画のつくりかたをそのまま技術移転しているんですね。

A)
こうした日本の支援プロジェクトは多くの途上国や新興国で展開されているのですが、日本にしかない防災のノウハウが移転され、国連の賞を受けるなど高く評価されたユニークな取組みがあります。

Q)どういう取組みか?

A)
ブラジルでの土砂災害の被害軽減をめざすプロジェクトです。

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日本では土砂災害の危険のある地域を指定し、大雨で危険が高まると「土砂災害警戒情報」を発表して、避難を促す仕組みがあります。20年以上かけて作られた仕組みですが、これをほぼそのままブラジルで行おうという取組みです。

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ブラジルでは7年前、豪雨で数百ヶ所で土砂災害が発生し、死者・行方不明者1000人にのぼりました。この災害をきっかけにブラジル政府が日本に協力を要請してプロジェクトが始まりました。

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プロジェクトは4年をかけて行われ、今年からブラジル南部の2つの州の3つの市で試験運用が始まっています。
まず地形などから土砂災害の危険のある場所を選び出し、危険区域に指定します。赤、オレンジ、黄色の3段階です。

そして2000ヶ所以上に新たに雨量計を設置。雨量データから土砂災害発生の危険性を計算する日本の仕組みを導入し、警報を出します。

その情報を危険地域の住民に、SNSに加えて日本の防災行政無線のような仕組みで伝達し、あらかじめ定めた避難所に事前に避難してもらおうというものです。

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パイロット市のひとつ、南部のブルメナウ市では去年7月、日本人アドバイザーも参加して防災訓練が行われました。倒壊した建物から負傷者を救出しヘリコプターで搬送する訓練が行われました。
さらに土砂災害の危険性が高まった段階で、住民が「事前」に避難をする訓練も行われました。住民たちが避難所に指定された学校まで歩いて避難し、市の防災担当者から土砂災害の危険地域や避難の重要性などについて説明を受けました。

Q)国情が違うから苦労もあったのではないでしょうか?

A)
まず日本のように正確な地図がないので危険エリアの洗い出しに苦労をしたということです。また治安の悪い地域では現地調査が難しいという問題もありました。障害はありますが、ブラジル政府はこれを全国に広げようとしています。

【まとめ】

A)
こうした日本の地道な支援が被害を小さくすることにつながってほしいと思いますが、課題は何でしょうか?

Q)
例えばバングラディシュでは日本の支援によるシェルターの建設や気象予報技術の向上でサイクロンの死者の数が大幅に減ったと言われています。一方で、技術を伝えたものの時間がたったり、政権が代わったりして防災事業が継続されないというケースもあります。
まず、日本のノウハウをその国や地域の実情にあった形で技術移転できるかがポイントです。そして、その後の運用にも助言するなど継続的な支援も大切になると思います。

(松本 浩司 解説委員)


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