●公正証書として作られた遺言の数が、去年11万件を超え、この10年で1.5倍近くに増えたことが分かりました。
●遺産相続などで争いにならないようする遺言書の注意点などについてお伝えします。
【遺言書が急増】
Q:遺言書を書く人が増えている、理由はなんでしょうか。
A:一番は高齢化だと思います。遺言書は自分の財産をどう引き継いでもらうかなどをあらかじめ記すものです。ですから、一人暮らしのお年寄りなど、自分の意思を残したいと考える人が増えていると思われます。
Q:年間11万件ということは、遺言書を書く人は1年にこのくらいということでしょうか。
A:もっと多いと思います。遺言書は主なものだけでも2種類あって、今回、11万件に達したというのは、公正証書遺言だけの数字です。これは公証人と呼ばれる専門の公務員に作ってもらい、公証役場で保管してもらう遺言書です。これに対して、もう1つの自筆証書遺言は、自分で書いて自分で保管する遺言書です。
きょうは、検討されている制度の見直しを含めて、それぞれ気をつける点などを紹介します。
Q:まずこの公正証書遺言ですが、公証人というのは、どういう人なんでしょう。また、公証役場がどういうところなのか。行ったこともありません。
A:役場と言いますが、自治体の役場とは違います。行ったことがない人は多いと思います。そこで今回、公証役場を訪ねてきました。
公証役場は全国およそ300か所にあります。東京駅に近い丸の内公証役場では、年間400から500件の公正証書遺言を作成しているそうです。
公証人は裁判官や検察官を長く務めた人などが任命されます。依頼者の希望を聞いて、遺言書を作ります。
遺言書を保管している倉庫は、役場とは別の場所にあって厳重に鍵をかけています。丸の内公証役場は役場ができた昭和30年代からこれまでの遺言が保管されているそうです。
【公正証書遺言のポイント】
Q:もし、公正証書遺言を作りたいときには、どうすればいいんですか。
A:できれば、遺産相続の希望をまとめた上で、家族や親族の関係図を作って相談に来てほしいということでした。相談は無料です。不安だという方は、司法書士や行政書士、税理士や弁護士などに依頼することもできます。
公証人に自分の希望を伝えて作成してもらいますから、一番のメリットは、不備がなく、無効になるおそれがないこと、それに紛失のおそれがないということです。亡くなった後も全国どこでも検索できるシステムもあります。
Q:気になるのは料金です。いくらかかるんですか。
A:遺産の額によって異なりますが、地方の場合だと、手数料が3万円から7万円程度となることが多いということです。
【自筆証書遺言とは】
Q:もう一つの自筆証書遺言は、自分で書くから、お金はかかりませんよね。
A:作るときに費用はかかりません。ただし、注意点があります。全文自分で書かなければいけません。また作成した年月日、署名、押印が必要です。不備があれば、無効とされることもあります。ほかにも気をつけることがあります。
Q:どういうものですか。
A:1つは、こういう場合です。自分で作って保管しないといけないので、遺言書が気づかれないままになってしまうということです。後から見つかってトラブルになることもあるそうです。専門家は「あとから相続人が分かるように保管してほしい」と話しています。
もう1つは、相続する側の注意点です。仮に封印された遺言書を見つけたとします。どうしますか。
Q:開けます。
A:だめなんです。勝手に開けてはいけないと定められています。過料という制裁金の制度もあります。
Q:勝手に開けたらダメなんですか。どうするんですか。
A:封をしたまま、家庭裁判所に持って行き、そこで、相続人が集まって、裁判官が内容を確認する、「検認」という手続きが必要なんです。裁判所で開封することで、遺言書を勝手に書き換えたのではないかという争いを防ぐためだということです。
Q:手間がかかりますね。お金もかかるんですか。
A:検認は印紙代が800円、あとは連絡用の郵便切手です。ただし、公正証書遺言だと、この検認は不要ですから、この点では、相続人にとって、公正証書遺言の方が便利だと言えます。
【改正案が提出中】
Q:自筆証書遺言が、もうちょっと便利になるといいのですが。
A:そこで、いま法律の改正案が国会に提出されています。これは自筆証書遺言が対象です。遺言書は全部手書きという説明をしましたが、相続してもらいたい不動産や品物がたくさんある場合、特に高齢者の方が病気になってからこれを全部自筆で書くのは大きな負担です。そこで財産の目録だけはパソコンで作ってもいいことにしようというものです。これだと、一覧だけは子どもに作ってもらい、本人は本文だけを書くということもできます。ただ、目録も署名押印が必要です。
Q:自筆でないから、偽造されないか心配ですね。
A:そこで改正案には、自筆証書遺言を法務局で保管してもらう制度も盛り込まれています。これは法律が成立した後、具体的な制度が整えられることになると思います。
【エンディングノートも】
Q:もう一つ、いま「エンディングノート」と呼ばれるものも広がっていますね。これは遺言書とは違うんですか。
A:エンディングノートは遺言書と異なります。万が一に備えて、預貯金や保険の情報、それに葬儀の希望などを自由に記入します。専門家も自分の意思を残すという意味では、大事なことだと話しています。ただし、注意点があります。希望を書くだけでは遺言書と違うので、一般に法的な効力はないということです。
例えば、身寄りがなくて法定相続人がいない人の場合、「遺産を寄付することなどをエンディングノートに書いて友人に託した」と言っても、遺言書の形式になっていないと法的効力がないので、友人が亡くなった人の財産を寄付することはできません。法廷相続人がいない場合、国に納められることになります。
Q:本人の意思があっても必ずしもその通りにはならないのですね。
A:ですから、専門家は、できればエンディングノートと遺言書をかき分けてほしい、と話しています。エンディングノートには万が一の時の医療や介護の希望、それに葬儀の希望などを書き、遺産相続については遺言書と、2つ作っておくことでトラブルを防ぐことができるということです。
【万が一に備えて】
自分はまだまだ元気で、遺言書は必要ないという人も多いと思いますが、万が一の時に残された家族などがトラブルにならないよう、準備しておくことは大切です。公証役場は全国300か所にあって相談は無料ですから、遺言書の作成を考えている方は、まずは、最寄りの公証役場に問い合わせてみてはいかがでしょうか。
(清永 聡 解説委員)
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