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「進化する自動翻訳」(くらし☆解説)

土屋 敏之  解説委員

◆最近、パソコンやスマートフォンでも使える自動翻訳ソフトがいくつも登場している。

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 特に声で入出力できる「音声翻訳」の性能が向上しているので、スマホの翻訳アプリの一つを実際に試してみましょう。

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 (声で入力) “今日は自動翻訳の進歩について解説します”
        →(スマホの音声出力)『Today,I will explain the progress of  automatic translation』
 数秒で正しく訳してくれました。しかも、私はいま「誰が」解説するかという主語が抜けた日本語にありがちな言い方をしましたが、ちゃんと推測して、「I will」と主語を補って訳してくれましたね。
 さらに、ワンタッチで日英が英日に切り替わりますから、外国の方が困っているときに差し出して母国語で話してもらうと、今度は日本語に訳されて聞こえます。
 (声で入力) “How can I get to NHK?”  
    →(スマホの音声出力)『どうやったらNHKに行けますか?』

 そして、日本語で案内してあげることができます。
 (声で入力)“まっすぐ行って最初の信号を左に曲がると、井の頭通り沿いにNHK放送センターが見えるよ” 
     →(スマホの音声出力)『Go straight and turn left at the first traffic light, you'll see NHK broadcast center along Inokashira Street』

 これは、国立研究開発法人 情報通信研究機構が開発した VoiceTraというアプリで無料公開されています。英語だけでなく、現在31の言語に対応しています。

◆自動翻訳の利用は広がっている?

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 はい。交通機関をはじめ、お店の接客や行政の窓口、警察は交番で道を聞かれることも多いですし、医療救急分野でも自動翻訳の導入が始まっています。スマホの音声翻訳だけでなく、パソコンで文章を翻訳するソフトの性能も上がっていますし、翻訳機能を組み込んだ製品も増えています。

◆以前は自動翻訳って“使えない”イメージもあったが、どれぐらい性能が上がっている?

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 客観的に評価するのは難しいのであくまで目安ですが、専門家によると3年前はトップクラスのソフトでも 「TOEIC」という国際的な英語力テストで600~700点に相当と優秀な大学生ぐらいのレベルだったのが、今や800~900点と海外赴任して仕事ができるぐらいのレベルになっているそうです。

◆なぜそれほど性能が上がった?
 ちょうどこの1、2年で、「ニューラル翻訳」と呼ばれる新技術が登場したためです。これはAI(人工知能)を使った翻訳で、「ディープラーニング」という技術で膨大なデータを学習させることにより、これまでは難しかった自然な翻訳も可能になってきました。2016年秋にネット上で使えるグーグル翻訳がこの方式を導入して、従来の技術と比べ誤訳が60%も減ったと発表しました。現在は各国の企業や研究機関が相次いでニューラル翻訳を導入しています。
 ハード、つまりコンピューターやスマホ自体の処理能力と、ソフトであるAIの技術、そしてそのAIが学習するデータが大量に蓄積されてきた、3つが共に進んできたと言えます。そのデータを各社がどうやって集めているか詳細は明らかではありませんが、一つには利用者が使うことで学習データが蓄積されていきます。翻訳アプリの利用規約などには「製品の向上に利用する」などの記載があると思いますので、個人情報の扱いという意味でも一度は目を通しておきたいですね。
                              
◆私たちが翻訳アプリを利用することで、AIが賢くなっていく?

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 はい。例えば先ほどのアプリの場合、私がしゃべった音声はリアルタイムで京都にある情報通信研究機構のコンピューターに送られます。そして、翻訳して送り返されてきますが、その際、私がしゃべった日本語は、学習用のデータとしてコンピューターに取り込まれます。音声翻訳の場合、翻訳そのもののデータに加えて、音声認識のために声も重要なデータです。我々ひとりひとり話し方も違いますし、まわりのノイズも環境によって変わりますので、そういう実際に使用される際の音声を沢山学ぶことで、AIの能力が高まるわけです。

◆「翻訳バンク」とは?
 さらに、情報通信研究機構の場合、もう一つ世界的にも珍しいデータの集め方をしています。それは去年、総務省と共に運用を始めた「翻訳バンク」という仕組みです。
 日本語と外国語で同内容の文書、いわゆる「対訳」を自前で作ってきた企業や官公庁に呼びかけ、対訳データを提供してもらう仕組みです。正確な対訳はAIの学習に役立ちますので、提供してくれる会社には自動翻訳技術を商業利用する際の料金を安くするなどの形で呼びかけます。現在、51の企業や組織が翻訳バンクに参加しています。

◆なぜ国の研究機関がこうした取り組みをしている?

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 ひとつには総務省が4年前に「グローバルコミュニケーション計画」を発表しました。これは「言葉の壁」のない社会を日本の技術で実現し、2020年までに社会実装する、というものです。
 なぜやるかと言うと、まず、英日翻訳はともかく非欧米言語と日本語の間の翻訳技術は、アメリカの企業任せではなかなか進まない面があります。2020年には4千万人もの来日が見込まれていますので、その人たちに言葉のストレスなく過ごしてもらうことは大事な「おもてなし」ですし、その技術は新たな産業の創出にもつながる、と期待されます。さらに、海外企業などへのデータ等の流出をなるべく防ぎたいという考えもあるようです。

◆こうして自動翻訳が進化していけば、将来は語学の勉強はしなくてもよくなる?

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 音声翻訳技術の研究開発を主導している隅田英一郎さんは、受験で1点を争うような英語学習は将来は必要がなくなるかもしれないと言います。但し、外国語を学ぶのは受験のためだけでなく、異文化を理解する第一歩でもあります。今後ますます海外との交流が増えていく中で、異なる文化や価値観を持つ人たちと理解し合い、心を通わせるための語学の価値というのはなくならないだろう、と言うことでした。

(土屋 敏之 解説委員)


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